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失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第8話 いっぱい血にまみれる

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グランメゾンやつるぎ一階 集会室

傘井 紫(かさい ゆかり)さんでいいね?」

 誠はそう確認した。

 マンション一階の集会室。

 奥に向かって細長い形の室内には、二メートルくらいずつ間隔をとり椅子とテーブルが置かれている。

 大きな窓からは芝生の植えられた中庭が見え、明るくていい雰囲気だ。

 何度室内に入ってもらおうとしても嫌がる小笠原 礼司(おがさわら れいじ)の愛人、傘井 紫は結局ここで事情を聞くことになった。

「実況見分も待たせてるからな。さっさと済まそうや」

 百目鬼がタブレットをスクロールしつつ頬杖をつく。

「実況見分って……やっぱりあの部屋に入ることになるんですか?」

 傘井(かさい)がおろおろとして尋ねる。

「んだな」

 百目鬼がそっけなく答えた。

「実況見分って、絶対やらなきゃならないんですか?!」

 傘井がすがるような表情で百目鬼に尋ねる。

「うんにゃ、任意。説明されなかったかい?」

 百目鬼が傘井のほうを見もせずタブレットを操作した。

「あんまり聞いてなくて。に、任意なら、あたし断り……」

「ただあんた、さっきまでは第一発見者だったけど、ここにきて殺人というか過失致死というか知ってて黙ってたってのが付くとなあ……」

「な、なにか罪になるんですか?!」

 傘井が自身の胸元をおさえる。

「何も。一般人に通報の義務はないからな」

 百目鬼が答える。

 傘井がホッと小さく息を吐いた。

「埋めればオッケーって小笠原 礼司はいつ言ってた? 二人でうにゃうにゃしてるときか?」

「百目鬼さん、セクハラです」

 誠は眉をよせた。

「えと……ああ、まあ、そのとき。ええ、そのときです」

 傘井は百目鬼から目を逸らして苦笑した。

「バイトさんを埋めたのは小笠原 礼司か?」

 百目鬼が尋ねる。

「ええ、はい」

「確かに? ほかの奴が埋めてたとかってのはない? たとえば反社時代に面倒見てたやつとか、誰かに金払ってやらせたとか」

「ないです」

 傘井は、そこだけはきっぱりと答えた。

「小笠原 礼司か埋めてるところを確かに見た?」

 百目鬼が重ねて問う。

「確かに見ました」

「夜? 昼間?」

「夜です」

「んじゃ暗かったろ。よく小笠原(おがさわら)の顔、確認できたね。近くで確認したのかい?」

 百目鬼が相変わらず傘井のほうを見もせず続ける。

「け、結構近くで」

「遺体も確かにあった?」

「確かにありました」

「あんた華奢(きゃしゃ)だし、大変だったろ」

「あ……すこし」

 傘井が苦笑する。

「共犯の疑い」

 そう言い百目鬼がタブレットにその旨を書きこむ。

「えっ……」

 傘井が目を丸くした。

「いえ、あたしっ」

「どう考えても遺体埋めにくっついて行って、手伝ってるんじゃねえか」

 百目鬼が言う。

 ふう、と誠は息を吐いた。

 場合によっては自身がなだめ役でと思っていたが、あっさり済んだなと思う。

「一緒に遺体を埋めたのは、み……認めます。でも埋めたのは、確かに礼司(れいじ)さんです」

 百目鬼は、顔を上げ傘井の顔をチラッと見た。すぐにタブレットに目線を落とす。

「あそ」

 そうそっけなく返事をした。

 しばらくタブレットに何かを書きこんでから席を立つ。

 誠と目を合わせてから出入口のほうに(あご)をしゃくった。

「実況見分は待ってるやつらに任せようや。ちょっと署に戻るか」

「はい」

 誠も席を立った。

「あ、あの。じ、実況見分って断ってもいいんですよね?!」

 傘井が椅子をガタガタと揺らして席を立つ。

「断ってもいいよ? どうせそのバイトさんの件もあるし、そっちのついででもやれるだろ」

 百目鬼が答える。タブレットを片手に持ち、出入口へと向かった。

 開け放していた出入口のドアの横で、先ほどの制服警官が敬礼している。

 誠も敬礼した。

「詳細は、実況見分で来たやつらに送信した。俺ら署に戻る」

 百目鬼がそう制服警官に伝える。

 制服警官が返事をして、つかつかと傘井のほうに歩みよった。

 



「あー余計な仕事しちまった」

 マンションの内廊下。

 オークルと、ダークブラウンとでデザインされた長い廊下は、落ち着いた雰囲気だ。

 窓のないところが閉塞感を覚えるといえば覚えるが、エアコンが効いているので今ごろの季節は快適だ。

「捜査方針、変わりますかね」

「大きくは変わんねえと思うけど、役割分担が細かくなるかもな」

 百目鬼が答える。

 ダークブラウンの扉のエレベーターの前にさしかかる。

 誠は、五階のボタンを押した。

 横から細い腕が伸び、同じ五階のボタンを押そうとする。

「あ、押してあった」

 ソプラノの声の独り言が聞こえる。

「住人の方ですか? お騒がせしてま……」

 言いつつ、誠は横を見た。

 市松模様っぽいリネン素材のワンピースに、お団子に結った黒髪。

 小ぶりで整った顔の高校生くらいの美少女。

「か……?!」

 誠はわずかに後ずさった。

 花織(かおり)だ。

「ななな何してんの?!」

 誠は声を上げた。

「また捜査とか言ってんの?! やめなさい!」

 思わず声を張る。

「声からして人見(ひとみ)さん?」

 花織がこちらを見上げ目を丸くする。

「なにしてんの!」

「お友達の家が五階なんです」

 花織が答える。

 お友達。

 なるほどけっこう高級なマンションだしなと思い、誠は口を手で押さえた。

 横で百目鬼が「お嬢様が……」と低い声でつぶやく。


「おや百目鬼さん」


 背後から、壮年の男性の低い声がした。

 スーツの男を三人ほど引き連れた長身の男性が、ゆっくりとこちらへ近づく。

「捜査ですか。うちにいた小笠原(おがさわら)が大変な目にあったそうで」

 男性が言う。

 百目鬼がきつく眉をよせ、そちらを見た。





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