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失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第7話 深淵を覗くとき深淵もまたこちらを覗いてたらホラーじゃないですか

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警察車両ワゴン車 車内

「女の子……」

 警察車両のワゴン車内。百目鬼(どうめき)がフロントガラスを見上げてつぶやく。

「高校生か大学生くらいの女の子」

「誰でしょうね」

 シートに身体をあずけ、誠はそう返した。

 小崎 洸(おざき ひかる)に何度質問しても「女の子が殺していた」という答えにブレはなかった。

 とりあえずまた事情を聞くさいの連絡先を控えたが、花織(かおり)とは違うので、“女の子” の特徴については役に立つ証言は出てこなかった。

「身長ふつう、体型ふつう、顔は暗くて見えなかった、服装は女の子の服よく分からなくて。白っぽかったです……」

 ふう、と誠は溜め息をついた。

 たまたま目撃したものを聞かれたさい、こう答える人間が大半だが。

 花織と関わるようになってからは、そこにいたのが花織ならと、もどかしさを感じたりする。

「高校生か大学生ってのも、“若い女”ってくらいの意味だと思った方がいいかもな」

 百目鬼がつぶやく。

「成人女性かもしれないってことですか……」

「だとすると乱暴された形跡ってのは何だ?」

 百目鬼がタブレットを操作する。事件の資料を表示させ、改めて見始めた。

「共犯の男がいたとかですかね……」

「まあ、違和感あったといやあったのが、この乱暴された遺体、乱暴されたわりにはどことなく違和感あるんだよな……」

 百目鬼が事件現場の画像をスクロールする。

 何か日本語になってないなと誠は軽く顔をしかめた。

「違和感ねえ? お前」

 百目鬼が遺体の画像を目の前に掲げる。

 着衣の乱れ、顔のケガ、アザ。とくにおかしな部分は感じられないと誠は思った。

「特には……」

「マニュアルの話はしてねえよ、何となくの直感だ。襲われた女の顔じゃねえっていうか」

 誠は眉をよせた。

「いちばん違和感あったのは、これだな」

 百目鬼が司法解剖の所見を表示させた。遺体の下半身の様子を書いた部分を拡大する。

「今まで見たことある強姦事件のとは違うんだよな。キズがなくて綺麗すぎる」

 誠は目を見開いた。

「どういうことですか」

「女が細工したと考えたら、しっくりくるかもな」

 誠はシートから腰を浮かせた。

「女……」

「じゃあ精液はどこから、だよな。旦那とか彼氏のもの使うとも思えんし、毎回違うとなると」

「よほど派手な女性……?」

「どうすっかなあ……」

 百目鬼がシートに身体をあずける。

「関係者のうちの女、重点的に当たってみっか……?」

「一人目の被害者と一緒にいた女性から……住所は」

 百目鬼がタブレットを操作する。事件関係者の連絡先のメモ一覧を表示させた。


七沢 帆乃香(ななさわ ほのか)さん」


「まあ夜分になっちまうし、明日か」

 百目鬼が溜め息をついた。




 昼過ぎ。

 誠と百目鬼は、警察車両のワゴン車で県道をまっすぐに進んでいた。

 途中で別の県道に入り、郊外の住宅街の広がる地域に向かう。

 軽く事情を聞いたさい、七沢 帆乃香は大学へは実家から通っていると話していたとのことだ。

「たしか花織さんが会ってるんでしたよね? この女性」

 ハンドルを握りながら誠はそう百目鬼に話しかけた。

「看護師のお姉ちゃんが付き添って来てたとか話してたやつか」

 百目鬼が答える。

 誠のスマホの着信音が鳴った。

「えと。誰だろ」

 ハンドルを握りつつ、スマホを入れたポケットをチラチラと見る。

 百目鬼が身を乗り出し、誠のスーツのポケットに手を突っ込んだ。スマホを取り出し勝手に表示を見ると、顔をしかめる。

「──はい」

 スピーカーにして代わりに出た。

「あれ? 百目鬼さん? 人見(ひとみ)さんはどうしました?」

 花織の声だ。

「花織さん?! 何してんの。また危ない所に行ってないだろうね!」

 誠は声を上げた。

「今日は、このちゃんと『BLラブラブ刑事(デカ)』の撮影見に行くんで、捜査は午前中しかできませんでした」

「午前中って何! 何して来たの!」

 というか、どこに最初にツッコむか迷うセリフだなと思う。

「よそ見すんな。ちゃんとスマホ持っててやるから」

 百目鬼が眉をよせる。

 ついつい目線がスマホに向いていたのに気づく。

「……すみません」

「いったんその辺、停まるか」

 百目鬼があたりを見回した。




 百目鬼の指示に従い、最寄りのアミューズメント施設の駐車場にワゴン車を停める。

「──はい」

 百目鬼に返されたスマホを手に持ち、改めて誠は通話に出た。

「人見さん? この前のお姉さまのお友達ですけど、なんか変なことがあって。事件と関係してるのかどうか分からないですけど」

 花織が言う。

「何でもいいよ、何」

「うちの病院スタッフが、市内の産婦人科医に用事で行ったんです。不妊治療とかやってるところなんですけど」

「──うん」

「帰ってきたあと、いつも対応してくれる看護師さんがなんか変で、ぜんぜん話が通じなかったって話してて。よくよく聞いたら、この前の看護師のお姉さまってことなんで」

 百目鬼が横で眉をよせる。

「お姉さまが渋滞してんな。どちらのお姉さまだ?」

「七沢 帆乃香さんのお姉さんってことじゃないですか?」

 誠は答えた。

「ああ、看護師のほう」

「──わたしちょうど出かけるときの通り道だったので、その産婦人科医院ちょっと外から覗いてみたんです。そうしたら診察室の窓から見えたのが妹さんのほうで」

 「え」と声を漏らし、誠は百目鬼と顔を見合わせた。

「思い切って受付に行って、妊娠してるかもしれないから調べてくださいって言って潜入して、その看護師さんを間近で見たんですけど」

「な……何してんの」

 誠は顔を歪めた。

「間違いないです。あれ、妹さんのほうです。心霊スポットに行って逃げ延びたお姉さま!」


「つまり、七沢 帆乃香が姉に成りすまして産婦人科医院の中ウロウロしてた……?」


 百目鬼が花織の話をまとめる。

「何のために……」

 不意に百目鬼が、背中をあずけていたシートからガバッと身体を起こした。

「不妊治療って言ったな! お嬢ちゃん!」

 百目鬼が通話口に向けて声を上げる。

「採取した精液が複数ないか?!」

「あると思います!」

 花織が断言する。

 あんまり女子高生の口から聞きたくない断言だなあと誠は思った。

「人見、その産婦人科医院だ」

「はい」

 誠は車のエンジンをかけた。





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