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失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第7話 深淵を覗くとき深淵もまたこちらを覗いてたらホラーじゃないですか

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浮㐂坂トンネル 2

「えっ……」

 (まこと)はとっさに紺の車の行った方向を振り向いた。

「確かか? お嬢ちゃん」

 百目鬼(どうめき)が険しい目つきになる。

「間違いないと思います。ほとんど影だけの動画しかなかったから気づくの遅れましたけど、ニキビ跡あったでしょ?!」

「どうだったかな……」

 誠は百目鬼に目配せした。

 百目鬼が、車の行った方向を眺めながら頬を掻く。

「薄暗いから見逃したかもしれませんけど、猫背の角度というか顔のかたむけ方が同じだったじゃないですか」

「えと」

 誠は軽く眉をよせた。

「それと、この前すぐには気づかなかったんですけど、PCの画面に移してよく見たら、窓の下の何かに足を取られている感じなんです」

 花織が早口で続ける。

「廃ビルの窓の足元って雑草が生えていたりアスファルトが剥がれてたりしますけど、足腰のしっかりしてる人は、足を取られるということはあまりありません。お年寄りでもない限りは、ふだん歩き慣れていない人です」

「……うん」

 誠はついつい間の抜けた返事をした。あの二、三秒ほどのほぼ人影だけの動画でそこまでか。いつもながら驚く。

「お、おう」

 百目鬼が小声で返した。

「いちおうナンバー撮ったんですけど」

 花織がポーチからスマホを出し、スクロールする。走っている車を追いかけて撮ったため、画像はぶれていた。

「ああ、それならメモしてた」

 百目鬼がスマホを取り出し耳に当てる。どこかへ電話をかけ呼出音を聞いているようだ。

「──あ、俺。車のナンバー言うから照会して欲しいんだけど」

 百目鬼が通話口でナンバーと車種を言う。

 しばらくしてから通話を切った。

「持ち主は分かった。とりあえず今から行くか」

 そう言い、トンネルの出口に向かう。

「はい」

 誠は返事をしてから花織のほうを向いた。

「今すぐ帰って。本気で言ってるからね」

 語気を強める。

「これ以上被害者を出さないと約束してくれるなら帰ります」

 花織が唇を尖らせる。

「ムリなら、わたしが犯人つかまえちゃいます。さっきの男の人なんでしょ?」

「現場にいたらしい人ってだけで、まだ犯人じゃないの」

 誠は念を押すように言った。

「被害者、乱暴されてるんでしょ? その現場を覗いてた男の人なんて、確定じゃないですか」

「まだ分かんない。あれはせ……」

 精液が毎回違う人間のもの。そう言いそうになり、誠は口をつぐんだ。

「……ともかく早く帰んなさい。バスも駅もないとこなのにどうやって来たの」

「友達の家でこの先の山を所有していて、通り道なので乗せてもらいました」

 花織が山のほうと思われる方角を指す。

「……帰りはどうするつもりだったの。お友達の家の車と待ち合わせ?」

「軽トラをヒッチハイク?」

 花織がニッと笑う。

 あぶなすぎる。

 危機感がないんだろうか、この子。真っ先に変質者のターゲットにされそうな美少女なのに。

「……ヒッチハイクした人が悪い人だったらどうするの」

「武器は持ってます」

 花織がポーチからパッケージに入った注射器を取り出す。

「おい、行くぞ」

 トンネルの出口付近から百目鬼が声を張る。

「あ、はい」

 誠は返事をした。

 もういちど花織のほうを見ると、にこにこと笑いながらこちらに向けて手を振る。

 誠は花織の腕をつかむと、強引に引っ張った。

「えっ、なに?」

「セクハラでも何とでも言ったら?」

「なにも言ってませんけど」

 花織が、つんのめりそうになりながらも付いてくる。

「自宅まで送るから、危ない所には二度と来ない。いいねっ」

「あ、途中コンビニでアイス買いたいです」

 花織が右手を挙げる。

「コンビニに寄って、アイス買ってから、自宅送るからっ! 危ない所には来ない。いいねっ?!」

 誠は声を張った。




「車の名義は、小崎 洸一(おざき こういち)。ただし、ふだんは大学生の長男、小崎 洸(おざき ひかる)が独り暮らしのアパートに置いて使っている。いわゆる名義残し」


 余目(あまるめ)家の豪邸前。

 花織を自宅に送り届け、警察車両のワゴン車の中から家の門をくぐるのをしっかりと見届けたあと、百目鬼が切り出した。

「じゃ、そのアパートに直行しますか」

「だな」

 百目鬼がそう返す。

 花織とトンネルで鉢合わせしたのは昼すぎだった。そろそろ夕方近い。

「大学から帰ってる頃か? バイトとかしてなきゃ」

 百目鬼がタブレットの画面を見る。

 誠はエンジンをかけた。

 ふとサイドミラーを見ると、余目家の門から花織が小走りで駆けてくるのが見える。 

「出せ! 出せ出せ!」

 百目鬼が身体を半回転させてうしろを見る。

「は、はい」

 誠は急いでギアを入れた。

「待って! 待って待って!」

 花織が運転席の窓を平手で何度も叩く。

「危ないでしょ!」

 誠は窓を少しだけ開けた。

「お二人に差し入れです。御園(みその)さんにお夕飯を詰めてもらいました」

 花織が窓の開いたところから無理やりスープジャーやランチボックスを入れる。

「トマトの冷製ミネストローネと、冷製アマトリチャーナです。あとビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ。牛肉は大丈夫ですよね?」

「え、あ、うん」

 誠は戸惑いつつも返事をした。久々のノリだなと思う。

「じゃ」

 そう言い、花織が敬礼をする。きびすを返して門の向こうに消えた。

「お前、いい子だなあとか思ってるだろ……」

 横で百目鬼がポツリと言う。

「いや……あの、容器は返しに来ないとですね」

 誠は苦笑した。

「知ってるか? 悪霊って、もういちど呼びよせたい奴には、忘れ物させたりして、改めて来なきゃならん用事作るんだってさ……」

「何でここで怪談なんですか……」

 誠は顔をしかめた。





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