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失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第7話 深淵を覗くとき深淵もまたこちらを覗いてたらホラーじゃないですか

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浮㐂坂トンネル 1

 浮㐂坂(ふきさか)トンネル。

 延々と畑の広がる農業地帯の真ん中にまっすぐに伸びる太い農道を行き、ようやくたどり着いた道の終わりあたりにあるトンネルだ。

 さほど長いトンネルではないが、近くに小学校があったせいか、むかしから幽霊のウワサが語られていたらしい。

 近くには民家も店もなく、小学校が廃校になったあとは通る人はめったにいないとのことだ。

 誠は、警察車両のワゴン車をトンネルの前でいったん停めた。

 付近には駐車場らしきところはない。

「農道に……停めていいんですかね」

 あたりを見回す。

「いいんでね? 農家のおじちゃん、よく農道だの畦道(あぜみち)だのに軽トラ停めてるだろ」

 法的にどうなのかを聞いているんだが。誠は顔をしかめた。

「農道はともかく畦道ってトラック停められるんですか?」

 とりあえず少し前進させ、トンネル前の少し開けた箇所に停車させる。

「見たことねえ? 俺、聞き込みで結構あるけど」

 百目鬼がタブレットを操作する。

「……畦道でUターンってできるんですか?」

「バックで脱出に決まってんだろ」

 誠は無言で最寄りの田んぼを見た。

「百メートルくらいの畦道を時速四十キロくらいでバックでガーッと」

 誠は目を丸くして田んぼを凝視した。

「農業地域の人の運転テクニックって怖えぞ。まじで足代わりだからな」

 想像すると驚くが、何の話だっけと思う。

 百目鬼がタブレットを小脇にかかえ、助手席から降りる。

 誠は急いでシートベルトを外してあとを追った。

 トンネルの中を覗くと、思ったよりも音が反響する。

 それほど長いトンネルではないが、暗くて天井が高く、小学生が登下校時にここを歩いていたとしたら、確かに幽霊話の一つや二つ生み出されそうだと思う。

「どのあたりだ? 被害者見つかったの」

 百目鬼が問う。

 大きな声でもないのにいちいち声が反響した。 

「もう少し奥ですかね」

 百目鬼がタブレットに表示させた資料を横から覗き、誠は奥の方を指差した。

「んか」

 百目鬼が非常に曖昧な感じで返事をし、歩を進める。

「三件ともめったに人が来ないところなのに、よく遺体がすぐに見つかりましたね」

 コツーン、コツーン、と足音が響く。誠はトンネル内を見回した。

「三件とも女の声で通報があったんだと。人が倒れてるって」

「女性……」

 誠はつぶやいた。

「逃げて助かった人じゃないんですか」

「逃げのびた奴らは、パニック起こして置き去りの仲間がいたことすら直後には把握してねえし」

 百目鬼が言う。

「一人が見当たんねえくらいで即座に通報って発想する人間はあんまりいねえし」

「じゃあ、本当にふつうの通行人……」

 誠は、歩きながらトンネルの壁を見ていった。

 ここにも何かを剥がした跡はあるのだろうか。

 音喜多(おときた)ビルと同じ目的だとしたら、自身の胸元あたりの位置だと思うが。

「あ……」

 誠はかがんで壁の一角を見た。

「これ、剥がしたあとかな」

 ペンキか何かの古いラクガキが、まばらに剥がれている。

 百目鬼が同じようにかがんで見つめた。

 とりあえず写真を撮ろうとカメラのアプリを起動させる。

 トンネルの向こう側から、車の音がした。

 二人でほぼ同時に振り向き、車を確認する。

 車が通りすぎてから撮ろうとしたのか、百目鬼がいったんタブレットを片手に持ち壁ぎわによけた。

 誠もそれに(なら)い壁ぎわによける。

 黒っぽい軽自動車。いや黒ではなく紺色か。

 軽トラック以外も通るんだなと何となく誠は思った。

 軽自動車は二人を見つけたのか、少しスピードを落とした。そのまま通りすぎるのかと思ったが、少し先で止まる。

 窓が開き、目の細い男が顔を出した。

 肩幅がせまく細い感じは、農家というイメージにはそぐわない気もしたが、機械を使う今の時代はこんなものなのだろうか。

「あの……何してんですか?」

 男がおどおどとした感じで尋ねる。

 誠は、百目鬼と目を合わせた。百目鬼がうなずく。

 警察手帳を取り出した。

「警察です。数日前に、ここで女性が乱暴されて殺害される事件が起こったのはご存知ですか?」

 男が記憶をさぐるように目線を横にずらす。ややしてから、誠のほうを見た。

「知ってますが……」

「近所のかた?」

 誠は尋ねた。

「いえ、今日はたまたまっていうか」

 男が決まり悪そうに答える。

 場合によっては、事件の現場を見学にきた悪趣味な人間だったりするのだろうか。

 誠は、百目鬼と顔を見合わせた。

 近隣の人間でないのなら、あまり期待はできないか。それでもいちおう男のほうに向き直り、尋ねる。

「もし何か見てましたら」

「いやちょっと何も……」

 男が答える。

 まあそうだろうなと少々がっかりする。百目鬼が「終われ」という感じに軽く(あご)をしゃくった。

「ありがとうございました。お気をつけて」

 誠がそう言うと、男が軽く会釈をして車の窓を閉めた。

「やっと人がいたと思ったら」

「ま、こんなもんだろ」

 百目鬼が、改めてタブレットで壁を撮影する。

 トンネルの向こう側から、カツカツカツッと誰かが走ってくる靴音がした。

 案外、通行人いるなと誠は靴音のする方を見た。

 Tシャツに、(すそ)の広がった一見ミニスカートのようなショートパンツ、ポニーテールに結ったサラサラの黒髪。

「は?」

 誠は声を上げた。

 花織(かおり)だ。

「おいこらっ、少年課の怖いお姉さん呼ぶぞっ!」

 百目鬼が戸惑いながらも大声を上げる。

「それどころじゃないです!」

 花織は声を張って先ほど軽自動車の行ったほうに走り去った。しばらくしてから諦めて立ち止まる。

 かがんで息を切らした。

「花織さん! 言ったでしょ!」

「いまの紺の車の人!」

 花織が声を上げる。


「音喜多ビルの窓から、お姉さまたちを見ていた人です!」





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