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失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第7話 深淵を覗くとき深淵もまたこちらを覗いてたらホラーじゃないですか

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警察署二階 刑事課 2

 (まこと)百目鬼(どうめき)は同時に花織(かおり)の顔を見た。

「幽霊が映ってたんか」

 百目鬼が頬を掻く。

「え? 幽霊なら映るわけが」

 誠は戸惑いつつそう口走ってしまった。

人見(ひとみ)さんって、心霊映像まるっと否定派ですか?」

 花織が目を丸くする。

「いや……そういうわけじゃないけど」

 誠は答えた。

「ああいうの詳しくないから、フワッとした煙みたいで写らないんじゃないかなって」

 何気なく花織が掲げたスマホを覗きこむ。

「ああでも、ありがとう。参考にさせてもらうから」

 誠は手を差し出し、スマホを受け取ろうとした。

 花織がサッと避ける。

「え? なに。見せてくれるんじゃないの?」

「わたしのスマホですから、押収されるのは困ります」

 花織が唇を尖らせる。

「お姉さまのご両親に特別に送信していただいたんですから。警察でスマホごと欲しいなら、お姉さまのご両親にご連絡してください」

 百目鬼が宙を見上げて頬を掻く。

 誠と花織を身体で押して廊下にうながし、さりげなく刑事課のドアを閉めた。

「つまり俺らだけに見せてくれると」

 百目鬼が花織に問う。

「わたしの見解まで聞いてくれるのは、お二人だけですもん」

「成程」

 百目鬼がつぶやいた。

「そのJDの撮った動画見て、何か見解があるわけだな、お嬢ちゃん」

「あります」

 花織が言った。

「よーし。おじさん達が、かき氷カツ丼(おご)ってやる」

 百目鬼が花織を四階の署員食堂の方へうながす。

「なにっ。なんですかそれっ」

 花織がワクワクした表情で百目鬼についていく。

「カツ丼に小さいかき氷が付いた夏限定メニュー」

「やったぁ」

「やったじゃないの! 花織さん!」

 あとを追いながら誠は声を上げた。

 階段の上段で花織がふりむく。

御園(みその)さんはいいの? 待たせることになるんじゃないの?」

 警察署での講習なら三十分ほどで終わるはずだ。

「大丈夫です。ここの近くのスーパーで買い物するって言ってましたから、あとで合流します」

 花織が言う。

 「かき氷カツ丼、かき氷カツ丼」と歌うように階段を昇るうしろ姿を、誠は見つめた。


「一つだけ! 花織さん、一つだけ条件聞いて!」


 誠は声を上げた。

 花織がもういちど振り向く。

 誠は階段を駆け上がり、花織と目を合わせられる位置に来た。

「犯人が逮捕されるまで絶対に現場には行かないで。約束して。話は聞くから」

 花織がこちらを見上げる。

 しばらく無言で見上げていたが、ややして目を逸らして階段を上がりはじめた。

「分かりました」

 スタスタスタと歩を進める。

「いや……本当に分かってる?」

 誠は上段に進んだ花織を見上げた。




 署の四階、署員食堂。

 まだ明るい時間帯なので、窓からは景色が一望できた。

 花織が以前「ムダにいい景色」と評した眺めが、今日は晴れて綺麗に見渡せる。

 花織がスマホを操作する。

 動画を表示してタップすると、懐中電灯で照らされた暗い廃屋の情景が再生された。

 「うわー怖いでーす」と聞こえてくる。

 続いて若い女性二人の鈴を転がすような笑い声。

 このあとに何があったのか。誠と百目鬼は、身を乗り出してスマホの小さな画面を見た。

「お姉さまたち、怖いから一階しか行かなかったそうです。だからお姉さまたちを見ていた目が出没したのは、一階です」

 荒れた屋内を懐中電灯で照らしていく画面が延々と続く。

 しばらくしてから、「えっ、なに?」と小声で問う声がした。

 はじめに悲鳴を上げたのは、連れの女性のようだ。

 つまり生き延びたほう。

 「え、なに」と動画を撮影している女性が方向転換する。

 カメラ目線よりも上のあたりに白い小さなものが見えたが、撮影しているスマホが動いたので何なのか確認できない。

「もう少しあとです」

 花織が画面を指差す。

 少しずつ動画を動かし、一コマ一コマを見ていく。

「ここ」

 花織が動画を止めた。

 誠と百目鬼が、身を乗り出して画面を見る。


 暗闇から、二つの目がカメラを見ていた。


 百目鬼が眉をよせる。

「わたし変だなって思ってたんです。真っ暗闇なら、人の顔は目の部分も見えません。懐中電灯で照らしたら顔全体が見える。目だけがはっきり見えるなんてないんです」

「そこは俺らも、ちっと変だなって話してた」

 百目鬼が言う。

「これ、作りものです。暗闇ってことを抜きにしても生物の目じゃありません」

 花織は言った。

「先日わたしが現場検証したときは」

 花織が切り出す。

 「現場検証って……」と誠は顔をしかめた。

「壁になにかを剥がしたような跡がありました。作りものを貼りつけてたんじゃないかって」

 百目鬼が何かを思い出したように目を見開いた。

 急いでテーブルに置いたタブレットを手に取る。

「あ……」

 誠は短く声を上げた。

「あの剥がした跡!」

「位置のすり合わせしてみるか」

 百目鬼が言う。

 かき氷カツ丼が運ばれてくる。花織が百目鬼にスマホを渡した。





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