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失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第7話 深淵を覗くとき深淵もまたこちらを覗いてたらホラーじゃないですか

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警察署二階 刑事課 1

 署の二階にある刑事課。

 先ほどから入れ替わり立ち替わり人が出入りしているが、基本的には出払っている人間が多いので静かだ。

 百目鬼(どうめき)が、スマホでどこかとやり取りをしている。

 (ひじ)をついて、デスクに置いたタブレットを何度もスクロールしていた。

人見(ひとみ)

 通話を切り、百目鬼が声をかけてくる。

 誠は返事をして席を立ち、百目鬼のデスクに歩みよった。

 先ほどから何度もスクロールしているタブレットには、先日の音喜多(おときた)ビルで撮ったと思われる壁の画像が表示されている。

「鑑識が行ったときには、こんなの無かったんだとよ」

 百目鬼がタブレットの画面を拡大させる。

 壁が剥がれたような白い跡が付いているが、百目鬼が問題にしているのはこれだろうか。

「何かを剥がした跡だ。画像だと分かりにくいが、ごく最近のものって感じだったんで気になって撮ってみた」

「事件後ですか?」

「鑑識が見てないんじゃ、事件後だろうなあ」

 百目鬼が答える。

「まあ、肝だめしのキッズの仕業かもしれんが」

「暗闇から見てる人物とやらは、男性だけのグループの前にはやはり現れないんでしょうか」

「今のところ男だけのグループの話そのものが聞き込みであんまり出てこないんだとよ」

 百目鬼が答える。

「まあ心霊スポット行くなら、女の子入れたいよな」

「俺の友達は、男だけで行ってた奴ら結構いましたけど」

 誠は苦笑した。

 改めてタブレット画面を見る。二、三度ゆっくりとスクロールした。

「高さはどれも床から百五十センチくらいかな……。女の子の目線くらいですかね」

 百目鬼が軽く目を見開く。横から手を出し、画面を何度もスクロールした。

「あ、本当だ」

 目を丸くして何度もスクロールする。

「たぶん全部かな」

 誠は横からのぞいた。

「まじだ」

 百目鬼は呟いた。

「え、まじお前お手柄?」

「いやでもたまたまかもしれませんし」

 誠は戸惑って答えた。

「何かを貼ってたとして。貼った人物が女の子と同じくらいの身長だった、もしくは貼ったものを女の子だけに見せたかった」

「関係あるとしても後者では。乱暴された形跡があるんですから」

 誠は答えた。


「しかし、精液のDNAが全部バラバラなんだよな」

 

 百目鬼が言う。

 誠は無言でうなずいた。

 この部分は、まだ公表はされていない。複数での犯行、つまり共同正犯という線は当然のごとく考えられているが。

 花織が心配になる。

 仇打ちだの何だのと言っていたが、今回ばかりは本当にやめてほしい。




「壁ばっか見ててもしょうがねえな。飯食って来んべ」

 百目鬼が椅子から立ち上がる。

 柄の悪そうに見える歩き姿で出入口に歩みよると、ドアを開けた。


 目の前に、百目鬼より頭一つ半ほど背の低い女性が立っている。


 一瞬、女性警察官かと思ったが、リネン素材の涼しそうなワンピースと手にした白い帽子。すぐに一般人だと分かった。

 ポニーテールに結った黒髪を今日は三つ編みにしている。

「か……花織(かおり)さん?!」

「うわっ」

 百目鬼が後ずさる。

「な、何してんの?!」

御園(みその)さんの免許書き換えの講習に付いて来ちゃいました」

 花織がそう答え、敬礼する。

 廊下までは一般人も通行自由なので、各種の相談や手続きの人間もちょくちょくいるが。

 花織が部屋を見回す。

「へぇー、デカ部屋ってこうなってるんだ。へぇー」

「ちょ、ちょっと何見てんの!」

 誠は花織の視界を遮り、廊下へ出そうとした。

 刑事課内にいた何人かが、こちらを振り向く。

「恥ずかしいでしょ」

「課長がいつも怒鳴ってるんだと思ってました」

「変なドラマの見すぎ」

 誠は、花織の目の前で手をパタパタと振り「出てって」の意思表示をした。

 本当は肩や背中を押して無理やり廊下に出したいが、セクハラになると困るので中々ままならない。

「ね、ね、あのよくドラマであるやつ。被害者の写真貼ってるホワイトボードは?」

「あんなの無いの。記者とかも出入りするときあるのに、いちいち捜査内容を知られちゃうでしょ」

「お嬢ちゃん、今日も夏休みか」

 百目鬼が問う。

「いえーい。明日も夏休みです」

 花織がピースする。

「御園さんの免許書き換えが終わったら、また事件現場に向かいますね」

「向かわないで!」

 誠は声を上げた。

「でね、人見(ひとみ)さん」

 花織がそう呼びかける。


「一人めの被害者のお姉さま、音喜多ビル内で動画を撮りながら歩いてたみたい。遺族が改めてスマホ見たら暗闇から見る目みたいなのが映ってたんです」


 花織がポーチからスマホを取り出し、こちらにホーム画面を向けた。





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