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失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第7話 深淵を覗くとき深淵もまたこちらを覗いてたらホラーじゃないですか

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音喜多ビル付近 2

「夏休み……」

 (まこと)は、げんなりと俯いた。

 延々と響きわたる(せみ)の声が、なにか運命のイタズラを嘲笑(あざわら)っているように感じられてくる。

「他には? 中に一緒にきたお友達とかいなかったか?」

 百目鬼(どうめき)がビルの入口を覗きこむ。

「わたしの他には誰もいませんけど」

 花織(かおり)が答える。

「一人で入ってたの?! 昼間っていっても、あのね」

「んじゃ、いま中にいるのは変態の性犯罪者と思っていいのか。人見(ひとみ)、行くぞ」

「はい」

 誠は百目鬼に促され顔を上げた。

「どこのあたり? 一階?」

 きびすを返しながら問う。

「女の子の幽霊と会ったのは一階です」

 花織は答えた。

「そっちじゃなくて。誰かに襲われたんじゃないの?」

「他は誰もいませんでしたよ?」

 花織がそう返す。

 誠と百目鬼はふりむいて花織の方を見た。

「んじゃ何で悲鳴なんて」

「女の子の幽霊がいたからに決まってるじゃないですか」

 花織がイヤそうに眉をよせる。

「幽霊……って。鏡に映った自分でも見たんじゃないの?」

 花織が目を丸くした。

 無言で誠の顔を見る。

 え、まさかと誠は思った。

 花織の場合、写真に映った自分の顔すら他人と区別がつかないらしい。

 半分冗談のつもりで言ったが、本当にこれなのか。

「ああー」

 花織がぽんと両手を打つ。

「ああって……」

「んでも、いちおう一通り見てくるか。人見、行くぞ」

 百目鬼がビルの屋上のあたりを眺め、先にビルに向かう。

「あ、はい」

 誠は早足であとを追った。

「こんなとこにいないで、早く帰んなさい」

 誠はもういちど花織の方をふりむきそう告げた。

 最寄りの生活道路に、白い軽自動車が停まる。

 以前、張り込みのさいに世話になった余目(あまるめ)家の家政婦、御園(みその)が降りてきて、こちらに向けて会釈をした。

 誠も軽く会釈を返す。

 彼女がいるなら、すんなり帰るよう促してくれるだろう。

 誠はホッとして百目鬼のあとを追った。




 ビルの中はひどく荒れていて、三階には床に大きな穴の開いている箇所もあった。

 殺人以前に、落下事故が起こらなかったのが不思議なくらいだと思う。

 天井の建築材が落ちたものなのか、足元に割れた石膏ボードが散乱し、窓ガラスがサッシごと外れている所もあった。

 よくこんなところに入ろうと思うなと誠は思う。

 懐中電灯の明かりだとあまり見えないので気にもならないのか。

「立ち入り禁止にした方がよくねえか? この建物。どこの管轄だ」

 百目鬼が顔をしかめてタブレットを操作する。

 先ほどから壁の一角を何ヵ所か撮影していた。

「持ち主に通さないとなんですかね……」

 階段を降り、一階。被害者の遺体が見つかった廊下に差しかかる。

 百目鬼がタブレットを脇にはさみ手を合わせた。誠もそれに倣う。

 一通りビルの中を見て玄関口から出てくると、停めたままの軽自動車に乗った花織が降りて駆けよった。

「お疲れさまです。どうでした?」

「どうって……帰ってなかったの?」

 誠は顔をしかめた。

「今日は遅くなることも想定して、御園さん、お夕飯は温めればいいだけにしてきましたから」

「そういうことじゃなくてね」

「わたしも手伝いましたっ」

 花織がピースする。

 誠は、げんなりと(ひたい)をおさえた。

「一人で肝だめしか? 根性あんな」

「こんな根性いらないでしょ、百目鬼さん」

 誠は顔をしかめた。

「あのねえ、聞いてないのかもしれないけど、ここに肝だめしに来て乱暴されて殺された女の子がいるの。ここと、ほかの心霊スポット二件」

 誠は声を上げた。

「犯人がいるのが夜とは限らないんだよ?! 何かあったらどうするの」

「聞いてます。被害者の一人、うちの卒業生ですから」

 花織が真剣な表情で言う。

「犯人の手がかりを探して、(かたき)を打ってあげたいと思いました」

 誠は呆れて宙を見上げた。

「そういうのは警察にまかせて」

「まかせてたら次々被害者が出たんじゃないですか」

 花織が睨む。

「二日前に担当の人員増やしたとこ。僕らもこっちに加えられて一から捜査してるとこだよ」

 花織が唇を尖らせる。

「ごめんね」

 誠は言った。

「ごめんじゃ済みませんけど。ここは子供じゃないんで、とりあえずグチグチ言いません」

 花織が誠の顔を見上げる。腰に両手を当て、ふんぞり返るようなポーズを取った。

「目的を同じくする同士、ここは協力しましょう」

「……それはいらない」

 誠は顔を歪めた。





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