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失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第6話 地獄の沙汰も顔次第

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警察署一階 玄関口付近


「あーしかし、気味の悪い事件だったな」


 警察署一階の玄関口付近。

 自販機の前のベンチに座り、百目鬼が大きく息を吐く。

「ええ、ほんと」

 相槌を打ちながら、(まこと)はスマホのメモ機能に報告書の下書きを書いていた。

「行方不明とされていた六ツ石 杏子(むついし きょうこ)が実は整形して女優の真船 令奈(まふね れな)に成りすましてたと気づいたくだり、どうします?」

 誠は問うた。

「そこはそのまま書いたらいいだろ」

 百目鬼が缶コーヒーを口にする。


「 “事情を聞き帰ろうとしたところ、真船 令奈が未成年の少女にイタズラしようとしている現場に遭遇、少女を保護し事情聴取とDNA採取を行ったところ、以前に真船 令奈が自毛から作っていたポイントウィッグとDNAが一致しないと発覚”」


「……何でポイントウィッグと一致するかどうかを確認しようとしたかってところが」

 誠はきつく眉をよせた。

「なんか勘。もしくは念のため」

 百目鬼が言う。

 誠は溜め息をついた。

「……念のためにしておきます」

 スマホに書き込む。

「六ツ石 杏子が同性の少女に興味があるということになってしまうんですけど。これ、裁判で反論の材料にされませんかね」

「……“事情を聞いたところ、これについては少女の勘違いと思われる” 」

 百目鬼が宙を見上げ答えた。

 そのままメモ機能に書きこみ、誠はふたたび溜め息をつく。

 花織(かおり)の観察力は確かに事件の突破口を見つけるには重宝するが、人に納得してもらいにくい技術なだけに報告のつじつま合わせが大変だ。

 スマホの画面をスクロールして、誠は下書きの文章を読み返した。

「なぜ成りすましていたのが六ツ石 杏子と気づいたかの経緯……」

 誠は額に手を当てた。

「……“彼女の舞台を見に行ってたファンが、仕草が極めて似ていると聞きこみで証言” 」

 百目鬼が眉をよせ缶コーヒーを飲む。

「小さな劇団の無名の女優って、そんな熱心なファンがいるものなんですか?」

 誠は尋ねた。

「無名の女優の初舞台に何色だかのバラ贈るやつもいるらしいぞ」

 百目鬼が答える。

「何かの慣習ですか?」

「元嫁がそんなマンガ読んでた」

 本当に奥さんいたんだな、この人と誠は思った。


 カシャッ、とスマホの撮影時の音がする。


「このちゃんへ。お二人は今日も仲良くコーヒー休憩です」

 自販機の横。

 いつの間に署内に入ってきたのか、制服姿の花織がスマホを親指で操作する。

「ちょっと花織さん」

 誠は声を上げた。

「そういうの勝手に撮らない。肖像権ってのがあるって言ったでしょ」

「お疲れさまですっ。その後六ツ石 杏子お姉さまは吐きました?」

 スマホをポケットにしまい、花織が敬礼する。 

「話聞いて」

「吐いた吐いた」

 百目鬼が答える。

「お嬢ちゃんの見事なハニートラップからの急展開に萎えて、割と素直に吐いてる」

 そう百目鬼は続けた。


「真船 令奈の代わりに妖怪役やるうち、すり代わることを思いついたんだとよ。女優の付き人ってのはかなりなブラックで、何とか抜け出したかったんだと」 


 へー、と花織が相槌を打つ。

 あまり興味もなさそうに見えた。そのままこちらに背中を向け、自販機でレモンウォーターを買う。

 顔がすべて同じに認識される彼女からしたら、顔を変えて他人に成りすますというのは、いまいち実感のないことなんだろうかと誠は想像した。

「真船 令奈への脅迫的な書きこみも六ツ石(むついし)がやってた。自分が真船の代わりに巻きこまれて行方不明、のち認定死亡になるのを待つつもりだったんだと」

「認定死亡って七年でしたっけ」

 花織が一転して興味を持ったように目を丸くする。

「わざわざ特番出たり警察に捜索のお願いしてみたのは、怪しまれないように?」

「だな」

 百目鬼がコーヒーを飲む。

「真船 令奈の遺体が見つかったってよ。近くの山中に埋められてた」

「近いんだ」

 花織が街の外れにある丘陵地の方向を見る。

「土地勘のない山中にはふつう行かんわな。車ならなおさら。Uターンできる場所知らなきゃ詰む」

「見に行ったりしないようにね?」

 誠は眉をよせた。

「ま、ここまではどうせ明日あたりからワイドショーがガンガンやるだろって範囲だ」

 百目鬼が缶コーヒーを飲み干す。

「俺も二回目に会ったときに違和感あったわ。あの成りすまし、わざわざ “この前の刑事さん” を強調するような言い方してた」

「ああ……」

 相槌を打って、誠はコーヒーを口にした。

「一回めの妖怪の中の人と、二回目の素顔の真船 令奈が同じ人間だとわざわざ強調しやがった」

 だからあのとき、珍しく彼女に話しかけてたのかと誠は思った。

 百目鬼としてはすでに容疑者あつかいだったわけだ。

 花織がポケットからスマホを取り出す。

「このちゃんからです」

 スマホの画面を見て、花織が「へー」とうなずく。

「あの妖怪もの、打ち切りになったそうです」

 花織が言う。

「……だろうね、今どきだと」

 誠はそう答えた。

「代わりにその枠に入ることになったのが、刑事もののBLドラマだそうです」

 花織が画面を親指でスクロールする。

「こんど撮影見に行こって。お二人はどうします?」

「……何で僕らに振るの?」

 誠はきつく顔をしかめた。



 終





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