警察車両ワゴン車 車内
「とはいえなあ……」
警察車両のワゴン車の車内。
百目鬼がシートに背中をあずけた。
「中の人が変わってたとして、脅迫の書き込みと付き人の行方不明と関係あんのか?」
「妙なことだとは思いますけど、関係なさそうですよね……」
誠は答えた。
「マジで不倫相手と会う時間つくるために誰かに変わってもらってたのかもしれんし」
百目鬼が言う。
「まあ、あの縁起の悪い服着てた理由は納得か。顔を隠すためか」
「俺らが会ったときも、じゃあ別人だったんですかね」
誠はハンドルに腕をかけた。
本来は楽屋などではなく署の中の犯罪相談用の部屋に来てもらう。
係の人間がそう伝えたところ、スケジュールが合わないからと頑固に楽屋に来てほしいと言われたそうだ。
「いろいろ不可解なんですが」
「理由はいくつも考えられるっつうか、そこ追及しても個人的な事情出されりゃそれまでだし、事件に関係なきゃ追及してもムダだし」
百目鬼が缶コーヒーのプルタブを開ける。
駐車場内を一、二台の車が出入りする。
いちばん陽の長い季節だが、それでもそろそろ薄暗くなってきた。
「あの妖怪もののドラマが始まって少ししたころ、ネットの噂をちょっと見たんですが」
誠は切り出した。
「ああいう元の顔が全然分からないような役の場合、背格好の似た新人俳優なんかを代わりに演じさせるなんて言われてるんだそうです」
百目鬼が無言で缶コーヒーを飲む。
「演じた方は、俳優の高額のギャラのうちからいくらかをもらう、製作会社は有名な俳優の名前がキャストにありさえすれば客や視聴率は取れますから」
「ウィンウィンってやつ?」
百目鬼がそう応じる。
「本当だとしても、犯罪とまではいかないわな」
そう言い缶コーヒーを飲む。
「映画の客だったら詐欺罪に問いたくなるかもしれませんけど」
誠は苦笑した。
「上手くできてんな……。そうやって仕事まわすわけだ」
「まあ、噂なんですけどね」
誠は言った。
「じゃあ、真船 令奈が演じてる妖怪の中もどっかの新人の女優か」
百目鬼がコーヒーをグッと飲み干す。
「こちらと話したのも、妖怪ものの格好をしてたとなるとどこかの新人女優かもしれないんですよね……」
「そこだけは不可解だけどな」
「こんにちは。例の女優さんの付き人さんの手がかりは見つかりました?」
夕方四時半。
二階の刑事課から一階へと降りてきた誠と百目鬼は、玄関の自販機の前に立つ花織と鉢合わせした。
「……何でいるの」
「放課後のルーティンです」
肩の学生カバンをかけ直し、花織が答える。
「警察署にジュース買いに来るのをルーティンって言わないで。ケガ治ったばかりでしょ?! 早く帰りなさい」
誠は語気を強めた。
「なんか今回って、人見さんたち真犯人に翻弄されそうって思っちゃって。登場人物、どっちも女性じゃない?」
花織が自販機の取り出し口から出したレモンウォーターのプルタブを開ける。
「いままで女性の犯人もいたよ。なに決めつけてんの」
誠は眉をよせた。
「そこでわたし、お手伝いしてあげちゃおうかなあって」
「いらない」
誠は顔をしかめた。
「これから聞きこみとかですか? 付き人さんの動画を用意してくれれば、後部座席で見させていただきますけど」
花織が上体をかたむけ駐車場のワゴン車の方を見る。
長い黒髪が、頬にさらりと落ちた。
「あれ……髪型変えた?」
誠はそう問うた。
以前はすべて同じ長さだった花織の黒髪が、両方の頬のあたりだけ短くカットされている。
いわゆるお姫さまカットというやつだろうか。
「今ごろ気づいたんですか?」
花織が目を丸くする。
「この前襲われたとき髪を少し切られたんで、不自然じゃないように御園さんにカットしてもらったんです」
「ああ……」
あのときかと誠は思った。
近くにいたのに本当に申し訳なかったと思うが。
しかしお嬢さまって、美容院とかで整えてもらうものではないのか。
家政婦さんにやってもらうとか。想像するとほのぼのとした気分になる。
「こんな分かりやすいのも気づかないなんて。だから彼女さんに、わたしを愛してないのねとか言われて逃げられるんです」
「そんなこと言われたことも逃げられたこともないし」
「お嬢ちゃん」
百目鬼が声をかける。
「付き人の六ツ石 杏子の動画が手に入れば、そこらで見つけられる自信あるか?」
そう花織に問う。
「頑張りますっ」
花織がかわいらしく敬礼する。
「百目鬼さん、また」
誠は咎めた。
また巻き込まれてケガでもされたらと思うのは、過剰な心配だろうか。
「ともかく当初の話は付き人の行方と安否と、書き込みとの関連だ。そこほったらかしても仕方ねえし」
そう言い百目鬼は、駐車場の方に顎をしゃくった。




