警察署四階 署員食堂 1
「テレビ見ました。このちゃんの家で」
警察署四階、署員食堂。
制服姿の花織が箸でカツ丼に切れ目を入れる。
「顔写真を出されてもわたしみたいな人は困るんですけどね。見分けることできないので」
花織が眉をよせる。
「前にホームレスと遺体が同じ人だって判別してなかった?」
誠は問うた。
「あのホームレスさんは、もともと意識して特徴を覚えてましたから。行方不明の人たちも動画とか出してもらえればアリかもしれないですけど」
「極めたら見当たり捜査員みたいなことできそうだな、お嬢ちゃん」
百目鬼が醤油ラーメンをすする。
「なんですか、それ」
「数百っていう指名手配の顔を暗記して、雑踏からさがすっていう捜査員」
百目鬼が答える。
「顔じゃなくて特徴でオッケーならできそう。警察に就職しようかな」
花織が目を輝かせる。
「就職って」
誠は眉をよせた。
「実際、女の子から見てああいうファッションどうなの? どこかで流行ってるの?」
「流行ってない」
花織が答える。
「嬢ちゃんらとアラサー姉さんのファッションは違うだろ」
百目鬼が醤油ラーメンをすすった。
「女優さんだとか女子アナだと、スポンサーになってる服屋とかブランドとかの服着せられたりするんだろ? 宣伝って感じで。知らんけど」
「あれ、欧米の女の人がよく着る喪服っぽくなかったですか?」
「それは僕らも思った。赤とか金とかの飾りがついてたから、厳密には喪服じゃないんだろうけど」
誠は答えた。
「それにしたってなあ……」
百目鬼が顔を歪める。
「縁起悪い印象でしたよね。探してる付き人さんがもう死んでるとか言いたいみたいな」
花織が言う。
「このちゃんのお母さんは、明るい服装で来るわけにもいかない場だからじゃない? って言ってましたけど」
花織がカツ丼に切れ目を入れる。
食べっぷりを見ていると、先日のケガの後遺症はなさそうだ。
「このちゃん家であの女優さんが出てる妖怪ものも見たんですけど、あれもぜんぜん元の顔が分かんないんですね」
花織がカツ丼の肉を食む。
そういえば話を聞きに行ったときもあの衣装とメイクだったなと誠は思った。
「顔に自信のない人だとか?」
花織がもぐもぐと肉を食む。
「女優さんやっててそれはないでしょ……」
誠は塩ラーメンの麺を箸でつまんだ。
「というか花織さん、あの妖怪ものは大丈夫なんだ」
「全員が大幅に特徴が違いますから。全身が真っ赤だったり、京劇みたいなメイクに派手な衣装だったり。人間役は区別がつかないんで、そこの部分だけは話が分かりにくいですけど」
「成程」
誠は答えた。
じゃあ、例えば恋人に映画に誘われたりなんてことになったら、この子はどうするんだろうと唐突に考える。
「んじゃ、彼氏に映画に行こうなんて言われたらどうなるんだ、嬢ちゃんの場合」
百目鬼が箸で麺をつまみながら質問した。
心の中を読まれたように錯覚して、誠は百目鬼を凝視しながら上体を引く。
「……何してんの、お前」
「いえ」
「そりゃ当然、わたしのこと理解してない人ってことですから、その場で別れますねー」
花織がもぐもぐとカツ丼の肉を食む。
「理解してりゃいいんだとよ」
「何で俺に振るんですか」
「そういえばあの女優さんの過去作、五時から再放送されてるってこのちゃん言ってました」
カツ丼を食べ終えた花織が、烏龍茶をごくごくと飲む。
「いま妖怪ものに出てるでしょ? その宣伝のために主演とか主演級の人の過去作やるんだって」
「再放送ってそうやって決めんのか……」
百目鬼が複雑な表情をする。
「わたし一人で観てもつまんないから観ないつもりだったんですけど、お二人に付き合って観るなら」
花織が制服のポケットからスマホを取り出しタップし始める。
「何で僕たちが観る前提なの。忙しいんだけど」
誠は顔を歪めた。
花織が構わずスマホをタップする。
「あ、これかな?」
見て見て、という風にこちらにスマホの画面を向ける。
「観ないよ。これから聞きこみとかあるの。学生と違うんだから」
「んで、どれが例の女優さんなんですか?」
花織が画面をこちらに見せつつ覗きこむ。
そうか。いきなり途中から見たら分かんないのかと誠は思った。
「これ」
画面上でOL風の制服を着て街を歩いている女性を指差す。
花織がじっと見た。
「いつのだ、これ」
頬杖をつき百目鬼が問う。
「ドラマは観てなかったですけど、タイトルは去年あたり聞いたような」
誠は答えた。
「最近?」
花織が顔を上げて問う。
「最近というか、一年前後じゃないかな」
花織がもういちどスマホの画面を見た。
「人見さん!」
ややして顔を上げる。
「いまの真船 令奈さんと違います!」




