地元テレビ局前 2
「え……」
誠はついつい後退った。
「いや……違うけど」
とっさにそう答える。
「な、何で女優なんて」
「残り香がすごいから。女優かモデルさんかで迷ってたけど、あとは当てずっぽう?」
花織が近づいてクンクンと鼻をならす。
避けようとしたら、スーツの袖をつかまれた。
「今どきクリスチャンディオールのプワゾンですかあ? お話のお相手は、バブルの時代にジュリアナでブイブイいってたお姉さまですか?」
花織が目を丸くする。
「いや……その二世代くらい下の人」
「あ、なるほど。これプワゾンかと思ったら、ちょっと違う。ヒプノティックプワゾンですね」
「……何でそんなブランドものの香水の匂いに詳しいの」
誠は眉をよせた。
花織からは、香水のような匂いはしたことはない。長い髪から時おりシャンプーの匂いはするが。
「免税店に行けば、テスターで嗅ぎ放題ですよ?」
花織が言う。
「あそ……」
免税店なんて行ったことないけどと誠は思った。
嗅ぎ放題だからといって、ふつうそんなに嗅ぎ分けられるものなのか。
花織の場合はやはり人の区別をつける方法の一つとして無意識に訓練されているのだろうか。
「人見」
横で百目鬼が顔をしかめる。
ついつい白状させられてたことに気づいた。
「すみません……」
「まあどうせ、特番とやら見ればバレてたろ」
百目鬼がスラックスのポケットに手を入れる。
「さっさと帰るぞ」
駐車場の方を眺めて呟いた。
「もしかして捜査していらっしゃるのは、真船 令奈さんのお身内?」
好花が問いかける。
「まあ……あとはごめん」
誠はそう答えた。
「人見」
警察署二階、刑事課。
外が暗い時間になってから部屋の中には少し人が増えたが、銘々に待機の時間を潰しているので静かだ。
百目鬼がキャスターつきの椅子ごとこちらに移動してきた。
手にスマホを持っている。テレビ番組を表示しているようだった。
「温崎さんが言っていた特番ですか?」
「いちおう見とくか」
百目鬼が誠のデスクに自身のスマホを置く。無理やり横にならび、誠と一つのデスクを共有するような位置に椅子を移動させた。
始めは一般人依頼の捜索のようだ。
女優、真船 令奈の出演は、視聴率獲得とドラマの宣伝も兼ねているような話だったので、終盤だろうか。
「ああこの女の子、まだ見つかってないのか」
百目鬼がデスクに頬杖をつき溜め息をつく。
「いなくなったとき九歳ですか……」
誠はそう応じた。
「外国人が拐ってるなんて話も最近はあるからな。犯罪人引き渡し条約とか何とかしてもらわんと限界もあるっての」
百目鬼が呟く。
「まあでも、それのために刑罰を変えるってのも俺はちょっと。難しいですけど」
誠は椅子の背もたれに背をあずけた。
カーテンもブラインドも閉めていない窓は、夜になると全面が黒いせいか独特の物悲しい雰囲気を覚える。
こういう部屋で行方不明事件と怪談の番組は、個人的にはちょっと嫌かなと誠は思った。
おんざきコーポレーション系列の会社のCMが流れ、やがて司会者が芸能人の依頼者の登場を告げる。
ネットのニュースやユーチューブで女優の真船 令奈が出演することが告知されていたが、彼女を目当てに見ていた人間もいくらかいただろうか。
「お、出た」
百目鬼がスマホを手に呟く。
誠は身を乗り出した。
「んあ? 何だこの格好」
百目鬼がポカンと口を半開きにした。
画面に映る真船 令奈は、薄いヴェールのついた帽子をかぶっていた。
欧米の女性が葬儀でかぶる帽子によく似ている。服装も、それに合わせてなのか黒っぽい服だ。
顔が隠れて、うっすらと目鼻立ちと口の動きしか分からない。
「何ていうか……こういうファッションですか?」
誠は眉をよせた。
「縁起でもねえ」
百目鬼が顔をしかめる。
探したいと依頼したのは、やはり付き人の六ツ石 杏子だった。
地味ながらも顔立ちの整った女性の顔写真が画面に映る。
女優をめざして頑張っていたのにと真船 令奈が目のあたりをおさえた。
「ファッションしか目がいかねえ……」
百目鬼がぼやく。
「俺もです」
誠も顔を歪めた。
場合によっては、二週間も経ってから探し始めたのは自身の話題づくりに使うためだったのではとも疑ってしまう。
「何か……女優って怖えな」
同じことを考えたのだろうか。百目鬼が呟いた。




