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失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第6話 地獄の沙汰も顔次第

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女優、真船 令奈の楽屋 1


「付き人の六ツ石 杏子(むついし きょうこ)さんが、撮影の始まった二週間前から行方不明」


 女優、真船 令奈(まふね れな)の楽屋。

 人見 誠(ひとみ まこと)巡査は、たったいま長々と聞いた話をまとめ始めた。

 八畳ほどの広さのガランとした部屋に、大きな鏡、簡素なテーブルといくつかの椅子。

 施設やその女優の格によっても楽屋などいろいろだそうで、もっと広いところも畳部屋やシャワー室が設えてあるところもあるそうだが、とりあえず(まこと)には「ドラマで見た通り」という印象だ。

「二十八歳、女性、行方不明……。付き人として付いていた女優、真船 令奈、二十七歳は以前からネットに脅迫めいた書き込みをされていた」

 捜査で組むことの多い先輩刑事、百目鬼(どうめき)がタブレットに書きこむ。

 厳つい身体つきに強面、ドスのきいた低い声は怖がられることが多いため、一般人と会話をするのはほとんど誠の役目だ。

「あと何か気づいたこととかあれば」

「いえ……」

 真船 令奈は椅子に座りうつむいた。

 女優の楽屋というと、何となく撮影前のラフな服装で艶っぽく対応されるのをイメージしてしまったが、彼女はいま出演中の妖怪もののドラマのメイクのままで、ほとんど元の顔が分からないくらいの状態だ。

「ごめんなさい。撮影中に急いで来たものだから、こんな格好で」

 真船(まふね)が頬のあたりをわずかに動かす。たぶん苦笑したのだと思う。

「いえ……」

 誠はそう返した。

「捜索願いを出したのはマネージャー?」

 百目鬼が問う。

 「ええ」と真船が返した。

「何で二週間も経ってから? 彼女の実家や親兄弟は?」

「施設育ちだそうです。履歴書にウソを書いていたみたいで。わたし達もいなくなってから初めて知ったのですけど」

「成程」

 百目鬼がそう返す。

 あとお前が話せ、という風に誠に目配せした。

「連絡が途絶える前に、何かおかしいと思ったことは」

 誠は尋ねた。

 真船 令奈が、怪訝そうにこちらを見上げる。

「……すみません。先ほども聞いたことを繰り返してしまいますが」

 誠は苦笑した。

 だいたいこんなときは、同じことを何度か尋ねる。

 隠しごとがあったりすると、答えがだんだんと違ってくるものなのだが。

「とくにおかしなことは」

 真船 令奈は、同じ答えを繰り返した。

「そうですか」

 そう誠は答えて、ふぅと息をついた。

 百目鬼に目配せする。「帰るか」というような表情を百目鬼がこちらに向けた。

「じゃ、あとで何か思い出したことがあれば。お電話でも結構なので」

 誠は言った。

 百目鬼がタブレットを小脇に抱え、愛想のない会釈をして先に楽屋のドアを開ける。

 誠は、やや早足でついて行った。



 

 地元テレビ局の撮影スタジオ廊下。

 殺風景なのはたいていの業界の施設と同じだが、あちらこちらに映画やドラマのポスターが貼られているのは、やはりらしいなと思う。

「香水の匂いすごくなかったですか?」

 真船 令奈の楽屋をだいぶ離れてから、誠は自身のスーツの(そで)を鼻に近づけた。

「すごかった」

 百目鬼が顔をしかめる。

「画面じゃ分からないもんだな。あんなにガンガンつけてるもんなんだ」

「香水ってのは、一滴を全身のあちこちに分けてつけるってのが適量なんだとよ。服着てからドバドバ吹きかけてるやつは付け方知らんやつなんだと」

 百目鬼が言う。

「よく知ってますね」

「元嫁が化粧品とか香水のアドバイザーだった」

 誠は目を見開いた。

 結婚していたことがあったのか。知らなかった。

「あと、どっかで飯食って署に戻るか」

 百目鬼が首をコキコキと左右に曲げて呟く。

 広い玄関口から外に出ると、まだ明るい。

 正面の花壇に時計塔があり、アナログ時計が四時少し前を差している。

「近くに食べるところあるかな……」

 誠は周囲の建物を見回した。

 少し離れた敷地外の歩道。長い黒髪の女子高生が歩いて行くのが見えた。

 撮影スタジオの前だ。もしかしてアイドルとか若手女優とかなんだろうか。

 サラサラの髪が軽く風になびいている。

 女子高生がこちらを見た。


「あっ、人見(ひとみ)さん! 百目鬼さん!」


 大きな声でそう言い、こちらをまっすぐ指差す。

「えっ」

「ぅわ」

 百目鬼が顔を歪ませる。

花織(かおり)さん?!」

「出た」

 誠と百目鬼はそろって後退りした。二人で横目で逃げ道をさがす。

 管轄内とはいえ、彼女の行動範囲からはだいぶ外れているはず。

「やっだ。奇遇ぅ。捜査ですか?」

 花織がこちらに走りよる。

 二ヵ月ほど前、事件に巻き込まれたさいに花織は胸に大ケガを負った。

 走ってくる動きを見るかぎりでは特に後遺症もなく元気そうだが、その後のケガの跡を消す手術というのは、もう終えたのだろうか。

「な、何で花織さんここに」

「ケガで入院してたときに、パパの知り合いの監督さんがお見舞いに来て、治ったら撮影見においでって」

 ピースする。何の意味のピースなんだろと思う。

「相変わらずお嬢さまだな……」

 百目鬼があさっての方向を眺めて呟いた。

「捜査ですか?」

 花織がウキウキの表情で聞いてくる。

「……関係ないでしょ。ゆっくり療養しなさい」

「捜査じゃないの? じゃ、お二人でデートですか?」

「捜査だよ」

 誠は顔を歪めて語気を強めた。

「おっけー。協力しまぁす」

 花織がふたたびピースする。

「……何でそこで白状すんの、お前。こらえ性ねえの?」

 百目鬼が顔をしかめた。





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