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失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第5話 両手に花織

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警察車両ワゴン車 車内 3

「え……?」

 ハンドルを握りながら、(まこと)は聞き返した。

「ちょっと待って。花織(かおり)さんが遺体と同一人物だって」

「そこでわたし思ったんですけど」

 花織が答える。

 花織の横から女性看護師らしき声が聞こえた。少しやり取りしたあと、花織が「彼氏のまこくんです」と返す。

「どういう状況で話してんの。無理してないだろうね」

「……勘違いさせられてたか?」

 横で百目鬼(どうめき)が低い声で呟く。

 誠は無言で次の言葉を待った。

「俺らは “廃ビル遺体の生前の様子” の映像を探したわけだ。殺す前からホームレスに五反田 太平(ごたんだ たいへい)のふりさせてたとしたら」

 「それそれそれっ」と花織が答える。

「五反田さんの名前を名乗らせてたのか店長とかのバイトとして雇ったのかは知りませんけど、始めから身代わりにするつもりで店とその周辺うろうろさせてたんじゃないかって」

「そうしたら当然、店の近所の人間はあの防犯カメラの人物が五反田 太平と証言するな」

 百目鬼が宙を見上げる。

「ちょっと待って。整理します」

 誠はウインカーを出し、道の左端に車を停めた。

「いい。車出せ。飯食いながらでも整理できる」

 百目鬼が前方を指差す。スマホを手に取り、スピーカーに顔を近づけた。

「情報提供ありがとう、お嬢ちゃん。看護師さんには彼氏のまこくんが責任とるって言ってたと話しとけ」

「何ですかそれ」

 誠は顔をしかめた。ウインカーをふたたび出し、車を発進させる。

「お前、お嬢ちゃんに責任とるだのなんのと口走ってたろ」

「言いましたっけ。いつですか?」

 百目鬼が通話を切る。そのままスマホをダストボックスにスッと放りこんだ。

 前方の灰色の一本道が、ずっと先の方で二股に分かれているのが見えた。




「あの遺体でややこしくされてた。たぶん、ものすごく単純だ」

 このあたりでいちばん大きな町にさしかかる。

 百目鬼が車内のシートに背中をあずけた。

「本物の五反田 太平は、おそらく前科持ちか、何度も被疑者として名前が上がってるような人物だ。たぶん奥重 彩(おくしげ あや)の両親が何らか関与して、彼女の身内と養子縁組した」

「奥重さんのご両親ですか?」

 ハンドルを握りながら誠は問うた。

「両親なのかどっちか片方なのかは知らんが。五反田 太平の遺体の確認してるだろうに、何も言わなかったんだろ?」

「それで(あや)さんが、“伯父” の身代わりになった人がいるはずと言いに来たら狙われた……」

 ハンドルを操作しながら、誠は手頃な飲食店の看板を探した。

「指示した人物は、免許証を見た限りでは五反田 太平という名と思われると実行犯が証言」

「……ここまで来て、五反田 太平本人の顔がどこにも現れないな。不気味な人ですね」

 誠は呟いた。

「お嬢ちゃんと対決させてみたかったな」

 百目鬼が窓の外の景色を眺める。

「やめてください」

 誠は眉をよせた。

 不意に百目鬼が、通りすぎたテナントビルを目で追う。ビルに目線を固定させてスーっと後ろを見た。

「何かありましたか?」

「女の悲鳴か怒鳴り声か、そんな感じの聞こえなかったか?」

 誠はルームミラーでテナントビルを見た。

 窓際に人影のようなものがあるが、このビルのことだろうか。

喧嘩(けんか)ですか?」

 ビルが遠ざかる。ややしてから、百目鬼がシートに片腕をかけ後ろを振り向いた。

「やべっ。何してんだ、あれ」

「はっ?」

 誠はとっさにルームミラーを見た。

 だが上手い具合に百目鬼が指摘しているらしきものが映らず、ウインカーを出して最寄りのスーパーの駐車場に入った。

 車がスピードを落とし、区画線に入る前に百目鬼がドアを開ける。

「百目鬼さん、危ないっ」

「先行ってるからお前は車停めてから来い」

 まだ動いているワゴン車から飛び降りると、百目鬼はそのまま元来た道を走って行った。

 誠は急いで車の鍵をかけてあとを追う。

「百目鬼さん、何ですかっ!」

 追いつきながら尋ねる。

「あれあれ」

 走りながら、百目鬼がビルの上のほうを指差した。

 ビル三階の窓ぎわ。

 こちらに背中を向け(もが)いているような動きをしている人物がいた。

 大柄な男性が覆い被さっているように見える。

「首を絞めてる?!」

 誠は声を上げた。

 窓ぎわの人物が、(こぶし)をつくり窓ガラスを割る。ガラスに体当たりするようにして、ガラスの大部分を割った。

「たっ……助けて! 人ころ……! 人殺し!」

 声をかすれさせながらも窓ぎわの人物は階下の通行人に向かって助けを求めた。

「花織さ……? じゃない」

 誠はビルの一階玄関口にたどり着き見上げた。


 奥重 彩だった。





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