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失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第34話 懐疑は踊る 桜花は踊る

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諸人美術館 常設展示室 4


「待合室にいた人……」

 (まこと)は、花織(かおり)の言葉を復唱した。



 あれが三上 徹(みかみ とおる)


 

 スケルトン階段の下にある玄関ホール。男が歩いていったルートを目でたどる。

 いまは手になにも持っていないように見えたが、可塑性(かそせい)爆薬は床にたたきつけたもの一個だけだったのだろうか。

 ほかの危険物は。

 いずれにしろ、花織を連れていては無茶はできない。

 彼女の言うとおり、ひとまずここから出て外に行くのがいちばん安全だろう。


 さいわい、玄関口は階段を降りて数メートルだ。



「花織さん」



 誠は、花織の手をとり握った。

 むこうの死角になりそうな衝立(ついたて)のかげに花織を連れてきて、一階をうかがう。


「見つかってもウエイターとパーティ客で通せばそうそう絡まれる口実にはならないと思うけど……なるべくこっそり。足音を立てないで」


 花織がこくこくとうなずく。

 誠は制服のベストのポケットからスマホを取りだした。

 百目鬼(どうめき)の短縮ダイヤルのアイコンをタップする。

 花織が横からのぞきこんだ。


「百目鬼さんのアイコン、ラーメンのイラストなんですね。なんでですか?」

「いいでしょ、べつに」


 早口で返す。

「警察関連のものにはできないし、いつも食事が醤油(しょうゆ)ラーメンだからこれでいいかなって」

「そういえば百目鬼さん、たいてい醤油ラーメンですねー」

 花織がまじまじとアイコンを見る。

 かまわずにスマホを耳にあてると、すぐに百目鬼が通話に応じた。


「百目鬼さん」

「──おう。いまどこだ。似顔絵さんとこか?」


「すみません。まだ本館二階の常設展示室です」

「──あ゙?!」

 百目鬼が声音を落とす。

 「なにモタモタしてやがる」というたぐいの言葉を返そうとしたらしかったが、こちらの緊張した声で察してくれたようだ。

 


「──何した」



 やや間をおいてから、百目鬼がそう問うてくる。

「本館一階の玄関ロビーを三上 徹らしき人物が横切っていきました」

 百目鬼がしばらく沈黙する。

 誠はかさねて告げた。

「服装は黒のフォーマルスーツに黒っぽいマスカレードマスクです。パーティ客に見せかけて何かするつもりかもとも」

 百目鬼が黙りこむ。状況をまとめているのか。

 背後はさきほどよりもかなり静かだが、厨房はいま一段落というところなのか。


「──嬢ちゃん、まだそこいんのか?」


「いっしょですが」

 誠はつい花織を横目で見た。

 目が合うと花織が身を乗りだし通話に割りこもうとしたが、右手をふって阻止する。


「──とりあえず本館は出られるようなら出ろ。三上(みかみ)がパーティにまぎれこむようなら、しゃあない。緊急のときは嬢ちゃんの目ぇ借りることにして、おまえウエイター兼ハンドラーやれ」


「えと」

 誠は目を泳がせた。

 こんどは警察犬の指導手(ハンドラー)役まで加わった。つまりそのさいは花織の手綱を握る役目とウエイター役を兼任しろということか。

八十島(やそしま)もいまの三上の顔見てんだよな。──八十島ちっと引っこませて似顔絵さんとこ行かせるから、おまえは嬢ちゃんの安全確保してから似顔絵の確認行け」

「分かりました。いったん切ります」

 誠は通話を切った。



「とりあえず、ここ出るよ」



 誠は、あらためて花織の手をつかんだ。

「 “お嬢さま、ここは危のうございます。どうぞこちらへ”」

 花織がこちらを見上げて人差し指を立てる。

「……お嬢さま、ここは危のうございます」

 何のごっこ遊びをしたいんだ。この込み入った状況で。 

「 “どうぞこちらへ” 」

「……どうぞこちらへ」

 誠はわざと大きくため息をついた。


 手すりのついたスケルトン階段から、薄暗い一階玄関ホールをうかがう。


 三上の姿は見あたらないが、もうパーティ会場に行ったのか。

 何をやるつもりなのか。気持ちが焦る。


「行くよ。さっさとここ出るからね」


 誠はホール内をざっと確認してから階段を降りはじめた。

 花織が早足でついてくる。

 高いヒールの足で、こちらの足に合わせさせるのはかわいそうか。

 降りる速度をすこし落とす。


 ゆるやかなカーブを描くスケルトン階段を降りて、一階ホールに敷かれた毛足のみじかい絨毯(じゅうたん)を踏みしめる。


 玄関口はすぐ目のまえだ。数メートルさきの大きなガラスドア。

 花織の手を引いて、そちらに進む。

 絨毯に音が吸収されたにぶい靴音が、しんとしたホール内で耳に届く。

 


「おい」



 背後から、壮年の男性の低い声がした。

 心臓が跳ね上がる。

 立ち止まりふりむくと、三上が彫像の影から姿をあらわした。

 こちらにペンライトのあかりを向ける。

 誠は顔をゆがめた。

 すでにパーティ会場に行ったと思いこんで、ざっとしか確認しなかった。

 自身を(とが)める。

 

「何だぁ? 業務中に客の女ナンパしてしけこんでんのかぁ? ウエイターさん」


 誠は、花織の手を強く握った。

 そういうふうに見られてるならさいわいか。

 話を合わせてという合図のつもりで、握った花織の手を自身のほうに引きよせる。

「はは……すみません、かわいかったから。上司には黙っててもらえま……」

 花織が両手で腕を組んで、グッと体をよせた。



「おじさん古ーい。わたしからナンパしたんですぅ。この人お金ないけどイケメンだから、連れて歩くとかっこいいでしょ?」



 はすっぱな少女という感じで、口調まで変えて言う。

 誠は鼻白んだ。

 「なにその設定」と口パクで問う。

人見(ひとみ)さんに、チャラいナンパ男のまねはぜったいムリです」

 小声でそう返ってくる。

 どういう意味、演技くらいはと誠は内心で反論した。


「どっちでもいいんだけどよ。――んまぁ、いまパッと見はな。盛りついた兄ちゃんと姉ちゃんがいるなと思ったんだけどよ」


 三上が、ゆっくりとこちらに近づく。

 誠の顔をしつこく照らした。



「あんた、余目(あまるめ)総合病院の受付に警察手帳だしてたやつだよなあ?」





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