諸人美術館 常設展示室 2
「百目鬼さん──人見です」
美術館の常設展示室。
誠は、百目鬼のスマホに通話をかけた。
しんとした展示室内に、自身の声が吸いこまれていく。
「さきほどのオフィススーツの男、花織さんの見解では余目にあらわれた三上 徹と思われる男と同一人物ということです」
「──確かか」
百目鬼が問う。
「フェイクを混ぜて見てもらったので、確かかと」
「バディそろって三番めを正解にするとか行動パターンが似ていてほほえましいので、このちゃんに教えてあげていいですかあ?」
花織がソファの座面に手をつき横から口をはさむ。
「通話に割りこまないっ」
誠はたしなめた。
「──おまえら、どこいんの」
百目鬼が怪訝そうに問う。
「美術館の二階の常設展示室です。美術館のかたに案内されました」
誠は展示室内を見回した。
あらためて見回すと、低照度のライトに照らされた夜の美術館というのは少し不気味かもしれない。
「──そこ、ベン・シャーンの絵とかねえ?」
百目鬼が問う。
「ああ……花織さんが言ってたような。いちばん近くに展示されてるのは、ちょっと変わった聖母マリアの絵ですが」
「──ああ、ダリのやつな」
百目鬼がみじかく答える。
「──爆発物処理班がさっきのういろう無事に持ってったけどよ、やっぱ可塑性爆薬だろうとよ。雷管がぶっ刺さってた」
誠は頬を強ばらせた。
「あれは起爆装置がないかぎりは燃やそうがたたきつけようが平気なんだけどよ。──持ちこんでたのが三上だとすると、どう使おうとしたんだ? まじで爆破するつもりだったのか、脅しにでも使おうとしたのか」
「パーティの会場に、たとえば人質として使えそうな人とか要人とかは」
「──余目総合病院の院長令嬢、おんざきコーポレーションの社長の姪、大手ファミレス・スカイアークの社長令嬢、元官房長官の姪、同じく元防衛大臣の娘」
百目鬼がすらすらと挙げる。
「はいはーい、スカイアークのさなちゃんと政治家さんのところのきみちゃんとさつきちゃんはわたしの同行者でーす」
花織が真顔で右手をぴょこっと上げる。
誠は目を泳がせた。
「──あとは怨み買ってそうな線込みで酒々井か。調べんでも分かる範囲でこんなんいる」
百目鬼がうんざりしたようなため息をつく。
「──ただの会費制イベントと思ってこっちもナメてたかもな。聖マリアの生徒にも宣伝されてたって時点で、人質にして何かやらかすやつの可能性も考えるべきだったか」
「百目鬼さん。確証のある話じゃないんですが、いまいいですか?」
「──話せ」
百目鬼がみじかく答える。
「さきほど三上らしき男が会場をうかがっていたさい、カクテルをすすめたバーテンダーが酒々井と目配せし合っていたとお話したと思うんですが」
「──おう」
百目鬼が答える。
「見た目ビールのような色のカクテルだったんですが、花織さんがシャンディガフというカクテルだとしたら、カクテル言葉は “無駄なこと” だと。──酒々井がカクテルでそのメッセージを伝えたんじゃないかって」
「──無駄なこと……?」
百目鬼が復唱する。
「──爆破してもムダってことか?」
「状況的にはそうとも取れる光景でした。じっさいに三上と思われる男は、そのカクテルを差しだされてバーテンダーに何か告げられたあと、持っていたものをたたきつけて走り去ってます」
百目鬼がしばらく沈黙する。状況をまとめているのか。
「──酒々井シメっか?」
ポソッとそう口にする。
「いや……あの」
誠は苦笑した。
いま任意をかけても言いのがれされ放題だと言ったのは百目鬼では。
ジョークだと思うが。
「ちっと待てよ。工事現場で掘ったあとがあったのは会場の出入口のあたりだよな。──工事の最中に現場いた酒々井と、出入口を爆破しようとした疑いのある三上……」
百目鬼がつぶやく。
誠は目をすがめた。
「あそこに埋まってたの何だ? ──三上が建物爆破して取りだそうとしたら、工事中にさきに取りだしてた酒々井が “無駄なこと” ってか?」
誠は軽く目を見開いた。
話はつながる。
根拠になっているのがカクテルの見た目とカクテル言葉なので、確証を持つことはまだできないが。
「──いちお頭入れとく。おまえ似顔絵捜査官さん到着したから、終わったら美術館デートしてねえでちゃっちゃとそっち行け」
「いえデートでは」
「──にしても酒々井のやつ何やってんだ? あれがぜんぶ吐けば早え気がすっけどな」
百目鬼がそうつぶやいてしばらく黙りこむ。
「──やっぱ、ちっと行ってシメてくっか?」
「いやちょっと……」
誠は困惑してそう返した。




