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失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第34話 懐疑は踊る 桜花は踊る

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諸人美術館 常設展示室 1


 花織(かおり)の手を引いてバックヤードの搬入口からいったん外に出る。


 外に出た時点で、花織は「ふー」と息をついてマスカレードマスクを外した。

 髪を結ってメイクをしているので、さすがにいつもより大人っぽく見える。

 

 あらためて美術館の玄関口から入って警察手帳を出し、スタッフに事情を話す。

 座れるところとして案内されたのは、二階の常設展示室だった。

 各エリアに品のいいソファセットが設置されている。

 美術館の女性スタッフが、ソファセットのうちの一つを「どうぞ」と指ししめした。


 壁もなく開放されている場所なので、未成年の少女を連れてくる場所としては助かる。


「座って」

 立ちさる女性スタッフを見送りながら、(まこと)は花織に手近なソファに座るよううながした。 

 

「常設展ですねー」


 花織がロングスカートを整えつつソファに座る。

 低照度のおだやかなライトをつけてもらった展示室内を見回した。

「よく来るの?」

「常設展は、なにかの企画展があったときくらいです。たいてい企画展のチケットにここのものもついてますから」

 花織が答える。

「そういうものなんだ」

 百目鬼(どうめき)にも言ったが、美術館はあまり来たことがない。

 さいごに来たのは、たぶん学校行事で小学校か中学校くらいのころだろうか。

 

「あっ、あれダリの聖母マリア。あれけっこう好きなんですよねー」


 花織が展示室の一角を指さす。

 誠はそちらをふりむいた。

 海を背景に、割れた壁のようなものに囲まれた聖母マリア。ひざにのせたイエスらしき子供の体には四角い穴が()いていて、そこにパンが浮いている。


「……聖母マリアなの? 変わった絵だね」


 どこかで見たことがあると思ったら、以前の事件で美術館の庭で殺された女子大生があのマリアをスマホのホーム画面に設定していなかったか。

 ここの所蔵の絵だったのか。

 

「あっちにあるオブジェもダリのですかね。女性の頭にフランスパンが乗ってるやつ」


 花織が首をかたむけてとなりのエリアのほうを見る。

「頭にフランスパン?」

「制作当初はほんもののフランスパンを乗せてたそうですけど、ピカソの飼ってるワンちゃんが展示室で食べちゃったってやつです」

 誠は鼻白んだ。

 なんだろうその、有名芸術家二人が織りなすギャグマンガみたいなエピソード。


 誠は低照度のライトが照らすエリア内をながめた。


 そういえば百目鬼が離婚の理由らしきものを語ったとき、“妻が絵画の英文を真剣に訳しはじめた” と言っていたような。

 意味が分からなかったので聞き流したが。

「英文がついた絵画ってあるの?」

 誠はなんとなく問うた。

「絵画の中にたまたま本の表紙とかある感じですか? それともはっきりと看板かポスターみたいに?」

「看板かポスターみたいにだと思うんだけど。翻訳できる感じっていうか」

 花織が宙をながめる。

「英語ですか?」

「英文」

「んじゃ、ミュシャはちがいますねー」

 誠は周囲をながめた。

 絵画というとたいがい画用紙くらいの大きさかと思っていたが、中には大人の身長くらいのものや壁一枚くらいの大きさのものもあるんだと気づく。


「いっぱいあると思いますけど。近代だとベン・シャーンの社会派のやつとか?」


 花織が言う。

「いっぱいあるんだ」

「たぶんいっぱいありますね。英語って限定しても」

 まあ、人の離婚の理由なんかどうでもいいんだが。

 ウエイターの制服のポケットから、スマホをとりだす。

 タブレットと同期させた資料を表示させた。



「話しこんでる場合じゃないか。余目(あまるめ)総合病院の防犯カメラね」


 

「です」

 花織がうなずく。

「すぐに被疑者が映ってるとこ出すと、先入観に引きずられるかもしれないからフェイク混ぜるけどいい?」

「しかたないですね、了解です」

 花織が再度うなずく。

 誠は、三上 徹(みかみ とおる)があらわれたときとは少し違う時間帯の映像を表示させた。

 花織にスマホを手渡す。

 もしかしたら病院内の何らかの様子で時間帯が分かったりするだろうかと懸念(けねん)して、横からスマホをのぞく。

 時計は映っていないようだが。

 

「さっきのお豆腐さん……いませんね」


 花織が目を左右に動かしながら告げる。

「そう」

 誠は花織の手からスマホをとった。

 もういちどスマホを操作する。

 つぎもほんの少し違う時間帯だ。

 花織に手渡すと、じっと画面を見つめる。

「いません」

 花織が答えた。

「ありがとう。じゃあこれ」

 ふたたび花織の手からスマホをとり、操作する。

 こんどは三上 徹と思われる男が待合室にいた時間帯だ。

 

 

「あ━━これこれ。この人です、さっきのお豆腐さん。この背中向けてるひと。三番めに正解持ってくるとか、百目鬼さんと同じですねー。さすがバディ、このちゃんに教えてあげていいですかあ?」



 花織が早口で声を上げる。

「えと」

 誠はとまどった。

 いまのはどこが要点だ。

「え、背中?」

「こちらに背中むけてるこの人です」

 花織が映像を一時停止させて、黒いジャンパーにスラックスのいかつい体格の男性を指さした。





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