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失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第34話 懐疑は踊る 桜花は踊る

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諸人美術館 大広間 5


「──あ゙ー、会場、会場」


 しばらくして、百目鬼(どうめき)の声がインカムに入る。

「はい、会場。人見(ひとみ)です」

 誠はそう返事をした。

 バックヤード入口のまえにいる八十島(やそしま)も、インカムに手をそえて返事をしていた。

 


「──美術館さん側と話したんだけどよ、爆発物らしきものが一個で撤去もそうむずかしいもんじゃないなら、なるべくお客には知らせないでパーティ続行したいと」



 誠は会場にいる人々を見回した。

 さきほどのオフィススーツの男の目的は分からないが、酒々井(すずい)は何か把握したうえでここにいる節がある。

 いまのところは、「従業員」たちに囲まれカクテルを口にしていた。

 身の危険はないと判断しているということだろうか。

 

「──美術館さんもむずかしいとこだな。念のため考えるならお客に知らせて会場封鎖したいとこだけどよ、まえのあの事件あってやっと再開したとこだべ。また事件が起こったとこなんてイメージつけたくねえんだとさ」

 

 気持ちは分からなくもない。非常に複雑だが。

「──オーケストラ入れるまえに入口付近カーテンで仕切るから、処理班はカーテンのかげで紙粘土だかういろうだか撤去することになる」


「了解しました」

 誠はそう返答した。

「──酒々井だが……」

 百目鬼がつづけた。

「──なんか知ってんだろうが、いまの時点で任意で引っぱっても言いのがれし放題だろうからな。ちっと様子見とけ」

「はい」

 誠はそう返事をした。

 ひとまずインカムからの通信が途絶える。

 


「人見さん、人見さん」



 かたわらでノンアルコールのカクテルを口にしていた花織(かおり)が声をかけてくる。

 誠はつい眉をよせた。

「何してんの。お友だちのところに戻りなさい」

「事件みたいですからご協力します」

 花織が言う。

 事件みたいですからって、事件じゃなければわざわざウエイターの格好で潜入していないんだが。


「さっきビールみたいなカクテルを運んできたバーテンダーさんが、酒々井さんに目配せしてたじゃないですか」


「うん」

 誠はとりあえず返事をした。

 目線は会場の出入口に固定している。

 美術館の年配のスタッフが二人ほど入ってきて、会場の一角にくくられていた紺碧色のカーテンを引き出入口のあたりを隠した。

 同時に会場の奥のほうにもカーテンが引かれる。

 こちらにオーケストラが入るのだろうか。



「ということはあのカクテル、お豆腐投げた男性への酒々井さんからのメッセージだったんじゃないかって」



 豆腐じゃないって言ってるのにな。

 誠は軽く眉をよせた。

「ビール使ったカクテルっていろいろあるんですけど、いちばんかんたんなのが “ハーフアンドハーフ” 」

 花織が人差し指をピンと立てる。

「二種類の違うビールを半分ずつまぜるだけです。ご自宅でもお手軽にできます」

「……うん」

 そんなのがあるのか。

 こんどやってみようと誠は思ってしまった。


「でも、ハーフアンドハーフにとくにカクテル言葉というのはなかったと思います。ご両人でなにか共通の意味があるならべつですけど」


 ご両人って結婚式じゃないんだから。

 誠は脳内でツッコんだ。

「ビールを使ったカクテルでカクテル言葉があるのは、わたしが知ってるかぎりだとブラック・ベルベットとかレッドアイ、シャンディガフってとこだと思うんですけど」

 そもそも何で知ってるんだろうと誠は思った。

 スマホで検索したのかと思ったが、花織はいまはスマホを手にしていない。


「ブラック・ベルベットは黒ビールを使うので、色はコーラみたいな感じです。ひと目見てビールという感じじゃありません。──レッドアイも同様です。トマトジュースを使うので色は赤っぽいオレンジみたいな色です」


「うん」

 誠は出入口に引かれたカーテンを見つめながら返事をした。

「のこるはシャンディガフです。ビールとジンジャエールなので、見た目はビールと変わりません。ひと目見てほとんどビールです」

「シャンディガフ……」

 誠は相づち代わりに復唱した。

 知らないカクテルだが。



「シャンディガフのカクテル言葉は、“無駄なこと” です」



 誠は軽く目を見開いた。

 出入口のカーテンの向こうでは、爆発物処理班と思われる者がときどきカーテンをゆらしている。

「なんか意味ありげですよねー」

 花織が芝居かがった感じで「ふむ」とうなずく。

「無駄なこと……」

 誠は復唱した。


 たとえばあの場を爆破しようとした男に対して、酒々井が「爆破してもムダなこと」と伝えたのだとしたら。


 それで男は爆破せず、可塑性(かそせい)爆薬と思われるものをたたきつけて逃げた。

 話の筋はとおるが、根拠が遠目で見たカクテルの色とカクテル言葉という曖昧(あいまい)なものでは。

 

 ハッと誠は目を見開いた。

 

「人見ですが。──百目鬼さん」

 誠はインカムに向かって早口で呼びかけた。

「──おう、何だ」

 百目鬼が応じる。

 こんどは背後の音はさきほどより静かだ。複数の人間の会話が聞こえるが、会場の出入口の近くにいるのか。


「いえ、思っただけなんですが。さきほどのオフィススーツの男、もし今回の事件に関係しているとしたら、爆破するかどうかを自身で判断できる立場。──つまり三上 徹(みかみ とおる)の可能性が高いのかなって」





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