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失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第34話 懐疑は踊る 桜花は踊る

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諸人美術館 大広間 4

「何かって」

「まえに言ったじゃないですか。なにかしようと狙ってる人って、動きに違和感が出るんです。――人間ってなにも意識してないときは、おおむね一定の位置を見て一定の動きをしているんですけど、そこから大きく外れるんです」


 (まこと)は、オフィススーツの男性を見た。

 説明されたことは花織(かおり)の独特のカンに基づくものだと思うので少し分かりにくいが、男性に違和感を覚えたのはたしかだ。


 インカムに手をそえる。

百目鬼(どうめき)さん──会場、人見(ひとみ)です」

「──おう、何かあったか」

 百目鬼が即座に返す。

 百目鬼の背後から食器のこすれる音やサービスワゴンの車輪の音がしている。

 厨房の廊下にいると言っていたか。

 

「違和感という程度なんですが。大広間の出入口にオフィススーツの男性がいて大広間をうかがっているんです──年齢は四十代から五十歳ほど。身長は平均程度。がっしりとした体つき。三上(みかみ)の似顔絵とは顔は違いますが」


 離れた位置にいる八十島(やそしま)が、インカムに手をあてて出入口を見る。


 さきほど酒々井(すずい)に紹介されたバーテンダーの伊吹(いぶき)が、トレーにビールのような色のカクテルを一つだけ乗せてバックヤードから出てくる。

 伊吹が会場の一角にむけて目配せをした。

 目配せをした相手を誠は目でさがす。



 酒々井だ。



 カクテルを口にしながら、酒々井はバーテンダーに目配せを返した。

 バーテンダーが小さくうなずいて会場の出入口に近づき、男性にビールのような色のカクテルをすすめた。

 バーテンダーが何かを告げると、男性はカクテルを受けとらず酒々井を睨みつけるように見る。


「百目鬼さん。──会場、人見です」


 誠はインカムにむけて口を開いた。

「──おう」

「出入口の男性ですが──」

「──すいません割りこみます。会場、八十島っす。出入口の男、手にういろうみたいな、紙粘土みたいなの持ってるんすが」

「──ういろう、紙粘土……」

 百目鬼が復唱する。

 背後からサービスワゴンの音がガラガラと聞こえた。

「──白っぽいレンガかブロックってか、そんな感じの」

「──可塑性(かそせい)爆薬じゃねえだろうな」

 百目鬼が声音を落とす。いわゆるプラスチック爆弾だ。

 誠は頬を(こわ)ばらせた。

「──会場。八十島、持ってんのは一個か?」

「──目視では片手に一個っす」

 八十島が答える。

「──人見、なに言いかけた」

 百目鬼があらためて問う。



「出入口の男性、バーテンダーにカクテルをすすめられたものの受けとらず、いま酒々井を睨みつけています。──そのバーテンダーが、男性に近づくまえに酒々井と何か目配せをし合っていました」


 

「──酒々井がらみか?」

 百目鬼のインカムのマイクから、つぶやきとチッと舌打ちの音が聞こえる。

「──出入口の男、職質かけますか? 俺、すぐ行けますけど」

 八十島がそう返してこちらに目配せする。

「──あぶねえから待ってろ。いちお爆発物処理班よぶ」

 百目鬼の通信が途絶える。

 おそらく現場を封鎖するかどうかの連絡がつぎに入るだろう。


 バーテンダーがトレーにカクテルを乗せたままバックヤードへと戻る。


 出入口の男性が、手にしていた紙粘土のようなものをバンッと床にたたきつけた。

「う」

 誠は息をつまらせた。

 八十島が壁に片手をついて身をかがめる。

 出入口の男は、きびすを返して走り去った。

「──どした!」

 百目鬼の声がインカムから聞こえる。

「人見です。出入口の男が──手にしていた紙粘土のようなものを床にたたきつけて走り去りました」

 百目鬼が緊張した息を吐く。

「──状況は」

「爆発はしていません。たたきつけたものは、床ですこし形が変形したようですが」

 百目鬼がもういちど息を吐いた。

「──起爆装置か雷管みたいなのついてるか。その場で目視でいい」

「──雷管っぽいのは突きだしてます。五メートルくらい離れての目視っすけど」

 八十島が答える。

 百目鬼がインカムを通さずにやりとりしている声が入る。

 ほかの捜査員か。


「──わあった。とりあえず可塑性爆薬なら起爆装置がねえかぎりは安定してる。おまえらは処理班が行くまで客が触んねえようにしてろ」


 百目鬼がそう告げる。

「──おまえらも近づかねえで、その上で客が触んねえようにしてろ」

 あらためて百目鬼がそう言い直す。

「──えっ、けっこう難しいな」

 八十島の独りごとらしきものがインカムに入った。

 


「あのお豆腐を床にたたきつけた男性が犯人ですか?」

「豆腐じゃないけど」



 横から話しかけられたソプラノの声に、つい答えてしまう。

 まずい、と誠は思った。

 そういえば花織と話している最中だった。

 かたわらを見ると、花織がこちらを見上げてピースしている。

「男性のしぐさのクセ、腕の可動域、走りかた、骨格、肉づき。インプットしました」

 「いえーい」とつけ加える。


 たしかにこのあとあの男を追うとしたら戦力になるかもしれないが……。

 誠は複雑な気分で顔をしかめた。





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