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失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第34話 懐疑は踊る 桜花は踊る

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警察署二階 刑事課 3


人見(ひとみ)


 午後六時半。警察署二階、刑事課。

 窓の外はもう暗い。

 聞き込みを終えた(まこと)がもどると、百目鬼(どうめき)が自身のデスクから手招きした。

「はい」

 そう返事をしてデスクに歩みよる。


諸人(もろびと)美術館の工事現場な、ちっと変な話あったらしい」


 百目鬼がタブレットを手にする。

 二、三操作して、工事現場らしき画像を表示させた。

 記録やトラブル防止のために工事まえに撮影するものだ。

 日付などを書いた工事黒板を手前に、全景や既存の設置物、周辺状況などが写されている。

 


「ここな」


 

 百目鬼が、大広間の建物のすぐ横の(なら)された地面を指さす。

「これ撮影したあとに、掘られた痕跡があったんだと」

 誠は画像を見つめた。

「工事のスタッフでは」


「だれもこんなとこ掘ってねえとよ。――わりときれいに均されてたんで、気のせいじゃねえかってやつと、モグラじゃねえかってゲラゲラ笑ってたやつといて、この話自体も雑談として出てきたみたいなんだけどよ」


 百目鬼が、画面をスワイプする。

「じゃあ、掘られた痕跡の写真は」

「ねえ」

 誠の問いに、百目鬼がみじかく答えた。

「現場の責任者はなんて」

「いちお報告はしたらしいんだけどよ」

 百目鬼がふたたび画面をスワイプする。


「二、三人でちっと掘ってみたけどなんもねえし、どうせ曳家(ひきや)工事でここの上に建物くるから、いいんじゃねえのってことになったって」

「曳家工事……」


 誠は画像を見つめた。

「建物の解体しねえでそのまま場所移動させる工事な」

 百目鬼がそう解説する。

 ややしてから誠は「え」と声を上げた。



「え? じゃあ、いまはこの場所は建物の下……?」

「ほだな。そういうことになるわな」



 百目鬼が頬杖をつく。

 誠は眉よせた。

 もしかしたら、何かの物的証拠が土の中か周辺にあったかもしれない。

 工事まえに聞いていたら。


「そこでクソほど怪しそうなのが、工事の最中に現場に来てたっていう酒々井(すずい)と、ここのパーティのことを話してたっていう三上(みかみ)だ。――どっちも関係してなくてモグラのしわざならそれでよし。ラスカルでもロッキーチャックでもおけ」

 

 誠はうなずいた。

「やっぱパーティ会場張ることになりそうだな。すくなくとも三上は人混みにまぎれて何かするつもりかもしれん」

 百目鬼がタブレット画面をスクロールする。

 

 勾留中の二河原(にがわら)と、ダンヒル店員の高群(たかむら)の証言で描かれた三上の似顔絵が表示された。





 完成された諸人美術館の大広間は、以前のシンプルで広々とした内装とはガラリと印象を変えていた。

 たとえていうと以前がローマ神殿のようなイメージで、改装したあとは近世ヨーロッパの貴族のお屋敷ふうといった感じか。


 ごてごてとした感じになったと誠は感じたが、悲惨で気味の悪い事件のイメージを払拭するためには思いきったことをやらないとという意向だったのか。


 曳家工事で場所を移動した結果、以前は大きな木々に囲まれたかくれ家的な建物という感じだったが、改装後はあかるい場所にある品のいい豪邸という印象になった。

 


「まえはたしか窓はなかったような。密閉された空間って感じでしたよね」



 大広間の手前の厨房につづく廊下。

 ウエイターの格好に着替え、誠はインカムをつけた。

 廊下にも大広間にも大きな窓がとりつけられ、きれいに手入れされた庭を見渡せる。

「まえは絵画のイベントもやるつもりで、ちっと薄暗くしてたんだよな。美術館って、どこもライト薄めで室温も低めだべ。絵画傷めねえように」

 百目鬼がスラックスのポケットに手を入れて、到着したほかの捜査員たちの様子をながめる。

 

「すみません。美術館、あんまり行ったことなくて」

 誠は苦笑いした。


「んか」

 百目鬼がみじかく返事をする。

「おまたせしましたー」

 同じ刑事課の若手、八十島(やそしま)がやはりウエイターの格好で走りよる。

 蝶ネクタイが気になるのか、片手でなんども直した。



三上 徹(みかみ とおる)の特徴は事前に通知したとおり。年齢は四十代から五十代前半。身長は平均程度、がっしりとした体格。――共有した似顔絵にマスカレードマスクをつけた形と想定しての捜索ってことになるが、整形してる可能性も考えられるので新しい情報が入りしだい連絡する」


 百目鬼が捜査員たちに告げる。


「いちお主催の美術館とイベント会社さんに、ウエイターの枠二人分なら()けていいって言ってもらえたんで、若手二人はウエイター役で潜入――あとはなるべく目立たんように配置につけ」


 「はい」と捜査員たちが返事をして、それそれの位置に散らばる。

 百目鬼が、チラリとこちらを見た。


「つかおまえら、ウエイターとかできんだろな」

「学生時代、バイトで。あと文化祭でメイド経験あるっす」

 八十島が右手を挙げる。

「あ……俺も同じです」

 誠も苦笑いして答えた。







読みに来てくださる方々、ありがとうございます。

また、ブクマや評価、感想、リアクションをくださった方々ありがとうございました。


人見(ひとみ)刑事とおなじ若手の八十島(やそしま)刑事は、もともと『メイドの土産』という小説で探偵の友人として出ていた人だったのですが、

両方読んでくださっている方へのサービスでこちらに出演させたら、一回限りのつもりがほぼ準レギュラーになってしまいました。

たぶん今後も出るんじゃないかと思います。

 



今年も残すところあとわずかとなりました。

よいお年をお迎えください。  路明



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