警察署二階 刑事課 2
「人見」
さきほど刑事課を出ていった百目鬼が、三十分ほどして戻る。
誠に向けて手招しながらスチール机のならぶ通路を通り、自身のデスクにすわった。
「はい」
返事をして席を立ち、百目鬼のデスクに歩みよる。
時間帯は午前十一時。
刑事課内は、捜査員がそれぞれまばらにデスクにすわり、書類作成をしたり通話をかけたりそれぞれに待機している。
「余目から提供された “四津谷 和人” の血液な、カフスの被害者の口から検出されたDNAと一致したんだと」
誠は目を見開いた。
「嬢ちゃんの血糊バンザイだな」
百目鬼が眉をよせる。
「んでまず、ほんもんの四津谷 和人さんがどこ行ったって話なんだが」
「ええ」
百目鬼のデスクの横で誠はそう返事をした。
「きのうのDK強盗がぼちぼち供述したってよ。四十八時間ギリだな。――保護者が立ち会いにきたんで、聞き取りに応じてもらって裏もとれたそうだが」
そう前置きする。
「四津谷 和人は、きのうのDK強盗の父親。――あの強盗、はやい話が闇バイトに応募しちまって、はじめに指示されたのが “知り合いで資格確認書つかってるやついないか。至急それ盗んでこい” 」
誠は目をすがめた。
「父親の資格確認書を持ちだしたということですか……」
「んだな。マイナ保険証つくりに行く暇なくてそれだったの知ってたんだとよ」
百目鬼が頬杖をつく。
「何日かしてつぎに指示されたのが、“強盗して資格確認書のやつの血液をぶん取ってこい” 」
さらに険しい表情になってしまったのが自分でも分かる。
「カフスを飲みこんだ遺体が発見されたからでしょうか。採取された血液から足がつくかもしれないと思った……」
「タイミング的にたぶんな」
百目鬼がそう返した。
「指示はぜんぶメールだったから、三上の顔は見てねえんだと。――サイバー課のほうにまわしてあるそうだけどよ、なんとしても自分の姿は現さねえやつだな」
そうとつづけた。
「三上 徹の顔を見たことがあるのは、二河原 康平とダンヒルの店舗にいた高群さんくらい……」
「余目に防犯カメラの映像も提供してもらったんだけどよ。待合室も診察室もプライバシー保護の観点で、あんま顔がはっきり分かるようには映ってねえのな。――しゃあないな、こっちは今回は使えねえ」
百目鬼が言う。
「ダンヒルの店員さんの証言もとに似顔絵描いてる最中だ。こんだけ用心深いやつだとあの二人に会ったのすら影武者か、もしくはいまごろ整形でもしてるか……」
整形と影武者というフレーズでピースしている花織が頭に浮かんでしまった。
誠は複雑な気分で宙を見上げる。
「……何でこんなときにわざわざ爆心予定地みたいなとこにオシャレして突っこんできやがんだ、あれは」
百目鬼が頬杖をついたままボヤく。
やはり同じ人物を思い浮かべていたか。
「まあカフスの被害者に噛みつかれたのは、三上 徹。二河原 康平と三上 徹が二人で殺した――二河原の供述の裏づけはこれでとれたか」
「ええ」
誠は答えた。
「DK強盗は、やっぱ三上の報復怖いって保護者からの訴えで、少年課の事情聴取終わったら他県の親戚んとこに避難するってよ」
「そうですか」
誠はため息をついた。
「この路線でほっといたら、うちの県の人口が三上だけになっちまうわ」
百目鬼が吐き捨てた。
警察署四階、署員食堂。
夕方四時三十四分。
「先日の看護師長、介田さんへのお誕生日ドッキリとサプライズは大成功でした。ご協力ありがとうございました」
いつものごとく早めの夕飯に同席しにきた花織が、カツ丼のたまごに割れ目を入れながらそう切りだす。
「あー……うん」
誠はとんこつラーメンをすすりながら返事をした。
横にすわった百目鬼は、ほとんど聞こえていないふりをしている。
あの日、なんとなく気をつかってできるかぎり早く事情聴取を終わらせようとしたので、終始早口のやりとりになったのを思いだした。
「とはいえ、やはりベテランさん。百目鬼さんと同じで血糊とすぐに見抜かれてしまいました」
花織がカツ丼の肉を食む。
「来年まで、もっとリアルな血糊の開発とかやろうかな、わたし」
つぶやきながら肉をはむはむと食んでいる様子が、かわいいけど怖い。
というか来年も血糊を使うつもりなのかと誠は顔をしかめた。




