警察署一階 被害者用の事情聴取室
警察署一階、受付カウンターのすぐ横のほうにある被害者用の事情聴取室に花織を通す。
クリーム色の壁にチョコレート色の幅木。
同じくチョコレート色の長テーブルがせまい部屋の半分ほどを占めている、花織がいうところの「けっこうかわいい部屋」。
すでになんどか通されている花織は勝手知ったる感じで、受付カウンターの女性警官たちにペコリと会釈をすると誠や百目鬼よりもさきに入室した。
「ここでいいですよね」
勧められるよりさきに入口のすぐまえのパイプイスにすわり、誠と百目鬼がそれぞれ正面と左ななめの席に座るのを待つ。
「慣れちまって、まあ」
百目鬼があきれたように言い放った。
二人が腰を下ろすと、花織はおもむろに長テーブルの上のぬいぐるみを手にとる。
「これ通販サイトで見ましたけど、けっこういいお値段ってほんとですね。でも縫製とか質はいいんで買っちゃおうかなーなんて思ってるんですけど」
「……そういうのは警察で相談にのるところじゃないから。さっさと調書とってさっさと帰る」
誠はタブレットを起動させた。
「録音とるけどいい?」
「おっけーです」
花織が右手を上げる。
「名前は」
「余目 花織。知ってるじゃないですか」
花織が身を乗りだし、タブレットの画面を見ようとする。
誠は自身のほうにタブレットをよせて見えないようにした。
「知ってても確認するものなの。調書に書くんだから」
「警察さんて、いまでも紙派ですか?」
花織が右手を上げる。
「いいでしょ、べつに」
誠は顔をしかめた。
「聴取中すみません。少年課のほうでお二人をさがしているんですが」
女性警官が開け放された出入口から顔を出す。
「ちっと待ってて。いま人見がイチャイチャしてっから」
百目鬼が体を出入口のほうにかたむけて答える。
「してませんよ」
誠は反論した。
女性警官が会釈して立ち去る。
「少年課だとよ。やっぱあの強盗、未成年か?」
百目鬼が頬杖をついた。
「高校生くらいに見えましたもんね。――身元判明したんだ」
誠は女性警官が立ち去ったあたりをながめた。
「声とか肉づきとかもそうとう若かったですもんね」
「ふむふむ」という声をもらして花織が腕組みする。
あの状況で肉づきの特徴までつかんでいたのだろうか。冷静すぎて怖い。
「見覚えはねえか? 嬢ちゃん」
百目鬼が問う。
「ないですよ。確実に男子だったじゃないですか。うちの生徒だったらびっくりです」
花織が答える。
「課外授業でたまたまとか、べつの学校と合同のなんかとか」
「うちと交流があるのはすべて女子校です」
花織が人差し指をピンと立てる。
「んか」
百目鬼がそう返した。
「つか、こんどの美術館のパーティ、予定変更なしか?」
「わたしたちですか? 美術館側ですか?」
花織が問う。
「嬢ちゃんたちだ」
「ないですが」
花織が答える。
「お化け屋敷んときの例があっから、さき言っとく。酒々井につづいて闇バイトの元締めもパーティに関わってくるかもしんねえ。何があるか分かんねえから、できればやめとけ」
花織が目を丸くする。
この時点で一般人に言ってもだいじょうぶかと少々懸念して誠は百目鬼の顔を見た。
「今回は忠告したぞ。――人見、調書とれ」
百目鬼が指示する。
「はい」
誠はそう返事をして聴取を再開した。
「氏名は四津谷 和希、十六歳。現住所は朝石市日慈橋四丁目。市内の公立高校に在籍しているが、入学して間もないころから欠席しがちでほぼ不登校状態。アルバイトはなんどかしたが、つづいたりつづかなかったり。血液型はA、星座は双子座、四柱推命の通変星は傷官。――少年課で雑談しつつ自供を引きだし中なう」
警察署二階、刑事課。
花織の聴取を終え自宅に帰したあと、誠と百目鬼は少年課からの紙の伝言を受けとった。
「なうって何だ」
自身のデスクにすわった百目鬼が、貼りつけてあった紙のメモを手に顔をしかめる。
「旧ツイッターのあれですかね」
百目鬼のデスク横で体をかがめ、誠はメモ用紙を見つめた。
「なうとか何年ぶりだ、聞いたの。ようこんなんで十代とか相手にできんな」
「わざと “それ古いよー” と言わせて雑談に持ちこむ手法とか前に少年課の人に聞いた気が」
「なるほど」
百目鬼がメモ用紙をなんども裏返してながめる。
「この血液型だの星座だのの情報いるか?」
「たぶん雑談の一環で占いでもやったんじゃ」
誠は苦笑した。
「ま、いいけどよ」
百目鬼がため息をつく。
「氏名が “四津谷 和希” ってことは、資格確認書の四津谷 和人とは親子かなんかか?」
「あ……」
誠は目を見開いた。
たしかに年齢的に親子でもおかしくない。
「四津谷 和人の資格確認書を三上 徹がつかって診察を受けたと仮定して、四津谷 和人の息子と思われる四津谷 和希がそのとき採血した血液をよこせと強盗……」
百目鬼がつぶやく。
「どういうことでしょうか」
「ムダにややこしいな」
百目鬼が顔をしかめた。




