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失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第34話 懐疑は踊る 桜花は踊る

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余目総合病院 待合室 1

 余目(あまるめ)総合病院裏手の第二駐車場。

 警察車両でともに到着した百目鬼(どうめき)と車両内で軽く打ち合わせをし、(まこと)は車から降りた。

 建物わきにのびる石だたみの通路を通り病院の玄関ホールに入る。

 時間は昼すぎ。午後一時半。


 ひさしぶりに来たが、やはり大きな病院だと感じる。


 バリアフリーの玄関ホールを少し進んだあたりから広々とスペースの取られている待合室。

 数メートルにおよぶ弧をえがく受付をふくめたスタッフステーションのカウンター。

 受付時間は終了したが、いまだ数えきれない人々が行きかいガヤガヤとした話し声と呼び出しの音声が響く。

「え……と」

 なんどか来ているのに少々気おくれしながら受付の小窓をめざして歩みよる。


「受付あっちですよ、刑事さん」

「ああ、分かります。ありがとうございます」


 横からかけられた声に愛想笑いをして答える。

 ややして不審に感じて横をみると、制服姿の花織(かおり)がいつもの見よう見まねの敬礼をしてこちらを見上げていた。

 とっさに待合室スペースにかけられた大きなアナログ時計を見る。

 午後一時半少しまえ。

 

「……学校は?」

「きょう土曜日ですよ?」


 花織が大きく腕をまわして敬礼を解除し答える。

 ウソをつかれてないかと疑って、誠はスーツのポケットからスマホをとりだした。

 曜日を確認する。

「うたぐりぶかいですねー」

 花織が唇をとがらせた。


「保存した血液のお話をしましたから、ぜったいに担当刑事さんが来ると思いまして。――スタッフさんにお聞きしたら、きょうの受付の終わった一時ごろに来ると警察からお電話があったとのこと。これは授業のあとにできるかぎり早い時間帯のバスに乗れば間に合うかもしれないと思いまして」

 

 間に合わせてどうするつもりだったんだろう。

 誠は宙をながめた。

人見(ひとみ)さんも百目鬼さんも、なんの事件の担当かお聞きしてもいつもはぐらかしますので、わたしとしても今回は違う刑事さんが来るかもと思っていたところだったのですが」

「……何で言う必要があるの。関係ないでしょ」

 誠は顔をしかめた。


「なぁんとびっくり。別件の担当のように言っていた人見さんがいらっしゃるなんて」


「あのね」

 何だろう、いつになくこのしつこくて凝った絡みかた。百目鬼がいないから軽く見られているんだろうか。

「ほんとに関係ないでしょ。花織さんは警察官じゃなくて学生なんだから。いいかげんにしないと僕だって怒るよ」

「人見さんが好きだからお手伝いしたいんじゃないですか」

 花織が流れるようにスムーズにそうつづける。

「え」 

 誠は表情を固まらせた。

 花織のほうを横目で見る。



「なぁんてー」



 花織が跳ねるような足運びで受付のほうに向かう。

 途中でふりむき、手招きする。

「受付こっちですよー、刑事さん」

 キャッキャと笑い声をまぜながら言う。

 からかわれたのか、高校生の子に。

 誠は(ひたい)に手をあてた。





 受付に警察手帳を提示し、採取した血液を受けとりに来たむね告げる。

 スーツのポケットからスマホをとりだして、鑑識と連絡をとった。

 通話終了のアイコンをタップし、スマホをポケットにおさめるまでの一連の動作を花織が興味津々という顔で見ている。


「なに見てんの」

「おてつだいできる(すき)はどこかなーって」


 誠は顔をしかめた。

「そんなのさぐらない」

「百目鬼さんはどうしたんです? べつのところで聞き込みとかですか?」

「駐車場で待ってるよ」

 誠はそう答えた。

 花織を避けるためと付け加えたら、どんな反応をするんだろう。

 わくわくで駐車場までちょっかいをかけに行くかもしれない。いっそ、そちらにうながして百目鬼に押しつけようか。


 待合室にいる人々は、徐々に減っていた。

 受付した分の診療がそろそろ終わりなのだろう。さきほどよりも院内はしんとして静かになってきている。

 

「というか、僕もあとは鑑識の人を待ってつきそうくらいだから待ってたっておもしろいことないよ。事件に興味あるならネットのニュース見てるほうがよほどいろいろあるんじゃない?」

 誠はそう告げた。

 うーん、と花織がうなる。

「たしかに、このちゃんにオススメされたネトプリBLアニメのつづき早く見たい気持ちもあるんですよねー」

「あそ……」

 誠はそう返した。

 ここでへたにツッコむとカオスなBLストーリーをひと通り聞かせられそうな気がするので、さりげなく口をつぐむ。

 

「院内はスマホだめですけど、駐車場に出れば見られますから人見さんもごいっしょしません?」

「ごめんね、職務中だから」


 誠はそう返した。

「たしかに血液をお渡ししたら、犯人さんのDNA確認できちゃいますから、わたしの出番なさそうですし」

 花織が宙を見上げる。

「じゃ、帰ってこのちゃんオススメの『S県警ナンバーワンBLカップルに選ばれちゃいました』でも観ましょうか」

「……気をつけて」

 タイトルを聞いてゾッとしたが、自身の見ていないところで楽しんでくれるなら関知するつもりはない。


 花織が玄関口の自動ドアを開ける。


 ガラス越しに、外から走ってくる細身の若い男が見えた。

 急患だろうか。

 自動ドア足下のガイドレールをまたぐ花織とすれ違うかと思いきや、花織の首に腕をまわしグッと引きよせた。

「きゃっ!」

 花織が声を上げる。

 


「全員動くな! おかしな動きしたら、このJKの命はないからな!」



 男が叫んだ。





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