警察署四階 署員食堂 1
「お二人に朗報です。先日、うちの病院にあらわれた噛みキズをつけた患者さん、採血した血液がまだ保管されてます」
警察署四階、署員食堂。
いつものごとく早めの夕食に同席してきた花織が、真顔でピースしてそう告げる。
誠と百目鬼は、ラーメンの麺を箸でつまみながら目を見開いた。
「ほんとに?」
いまのところ三上に直接通じる唯一といっていい手がかりだ。かなりありがたい。
「ちゃんと確認してきました。噛んだのが動物ではなく人の場合は問診と触診とかで検査まではやらないこともあるんですけど、腫れていましたから血液検査と培養検査をやりますねーと血液採取して、さらにレントゲンも撮ったそうです」
「お手柄だ、センセ」
「うちのベテランのお一人、草賀谷先生です」
花織が箸でカツ丼の肉をつまむ。
「だからウイルスの心配までしたんでしょうか。その被疑者らしき人物」
誠は百目鬼のほうを向いた。
「そこまではな。医者さんに詳細聞くかそいつ本人に聞いてみないことにはな」
百目鬼が答える。
「つか保険証どうしてた、そいつ。出したか? 出さずに全額払ってったのか?」
「そこです」
花織がピンと人差し指を立てる。
「マイナ保険証は作っていないとのお話で、代わりに資格確認書を提出したそうです」
「ほう」
百目鬼がラーメンをすする。
紙の保険証しか持っていない場合は、有効期限が切れたあと代替措置で資格確認書が交付されている。
「なまえ何て書いてあった」
「四津谷 和人さん、年齢は四十七歳とカルテにありましたが」
カルテにありましたがって、またスパイみたいにコッソリ見たのか。
誠は眉をよせた。
百目鬼が無言で軽くうなずく。
資格確認書は、紙の保険証と同じで本人の顔写真がない。
したがって三上がだれかのものを借りた可能性もゼロではない。
おそらく百目鬼も同じところを考えているのだろうと誠は推測した。
「四津谷さんな」
百目鬼が確認する。ラーメンをすすった。
「住所分かるか、嬢ちゃん」
「まかせてください。カルテ撮影してきました」
花織がまたもや真顔でピースする。
いいのかなと思うが、このさいしかたない。
花織がカバンからスマホをとりだす。画面を二、三度タップして資格確認書が表示された画面をこちらに見せた。
誠と百目鬼は身を乗りだして見つめる。
「河岸北か」
住所欄を見て百目鬼がつぶやいた。
こちらに目配せする。誠はうなずいた。
「資格確認書は、三上 徹が人のもん使った可能性考えてみていいと思うが……」
警察署二階、刑事課。
花織を帰したあと誠と百目鬼はいったんこちらに戻った。
百目鬼が自身のデスクにすわり顎に手をあてる。
誠はデスク横に立ちうなずいた。
「ただ、ふつうに借りたのか脅して使ったのか、もしくは」
「それな」
百目鬼がそう返す。
「四津谷 和人さんとやらをすでに殺害してるとか監禁でもしてるか。そこの可能性な」
誠はうなずいた。
百目鬼がタブレットを操作する。
花織に送信してもらった四津谷 和人の資格確認書の画像を表示させた。
「管轄内だな。とりあえず行ってみっか」
百目鬼がタブレット画面をスワイプする。
「それと余目総合病院に保管されている三上らしき人物の血液ですが……」
「あ゙ー」
百目鬼がタブレット画面を見つめたまま妙なうなり声を上げる。
「鑑識に受けとってこい言ったら、そっちが同行したほうが話の通りがいいんだけどって言い返しやがった」
もっともな返答だと思う。誠は苦笑いした。
「そっちはおまえ行ってこい」
「えと」
冗談だろうか、本気の指示なんだろうか。この人はこういうところがときどき困る。
「俺が一人でですか」
「駐車場で待ってっからよ。受付さんと話して鑑識に同行するくらいなら、おまえ一人でもいけるべ」
本気の指示か。
誠は宙を見上げた。
どれだけ花織と顔を合わせたくないんだか。
「分かりました」
そう返事をする。
百目鬼がタブレットにマップを表示させた。
四津谷 和人の現住所の位置を確認しているのか。
一級河川の近くにある住宅地のはしのほうだ。百目鬼がそのあたりを二本指でピンチアウトした。




