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失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第33話 胃の中のカフス

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レジデンスみくま


「そういえば俺、このまえ酒々井(すずい)に鼻で笑われた気がしましたけど」 

「 “ダンヒル姉ちゃんのもう一つの顔に気づいてないってことは、まだ嬢ちゃんにおうかがい立ててねえのか” って察して笑ってたんだろ」


 (まこと)の疑問に、百目鬼(どうめき)がいまいましげに答える。

 車内のデジタル時計の表示は午前七時三分。

 ダンヒルの店員、高群 遥(たかむら はるか)の住むマンション前の駐車場にワゴン車を停める。

「三◯三号室な」

 百目鬼が、住民票から調べた住所と部屋番号をタブレットで確認する。

「はい」

 誠はそう返事をして運転席から降りた。

 つづけて百目鬼が助手席から降りる。

 

「マンションの管理室にきのうから電話してんのにまだ誰も出ねえんだけどよ」


 百目鬼が、バンッと助手席のドアを閉める。

 きのうの七時すぎからきょうの朝六時台にかけてなら管理人が出勤していない時間帯だと思われるのだが、こんなことはたまにある。

「しゃあねえ。最悪、エントランスまえで出勤するとこ捕まえるべ」

 スタスタとマンション建物のほうに歩を進めながら百目鬼が指示する。

「はい」

 誠は駆け足でついて行った。

 エントランスのガラス戸の向こうから、数人の人影が見える。

 自動ドアがスッと開いた。

「お」

 百目鬼が小さく声を発した。

 便乗して中に入るつもりなのか、早足になる。誠も察して早足になった。



 だが出てきた人物たちを見て、百目鬼がきつく顔をしかめた。



 酒々井(すずい)とその「従業員」たちだ。

 いつものごとく酒々井を先頭に厳つい中年男性たちがぞろぞろとうしろを歩く。

「おや」

 酒々井がこちらに気づいて口のはしを上げた。

「百目鬼さん、警察名物おはよう逮捕? 月曜マンみたいだね」

 ククッと笑いながら百目鬼の横を通りすぎる。

「何してやがる」

 百目鬼が声音を低くした。

「これから近くのカフェでモーニングでもって」


 とうとつに百目鬼が、酒々井の「従業員」たちが固まって立つあたりに腕をつっこむ。

 スーツを着た細い手が引きずり出され、誠は目を見開いた。



 高群 遥だ。



 ひどくおびえた顔でガチガチと震え、百目鬼のまえでつんのめる。

「どういうことだ」

「だから、モーニングにお誘いしたんでしょ」

 酒々井がクスクスと笑う。

「素人に手ぇ出すな言ったよな」

「誰も出してないでしょ。さわってすらいないよ――何なら、彼女の手とかスーツに誰かの指紋でもついてるか確認してみて」

 酒々井が両手を挙げて手のひらを見せる。

 チッと百目鬼が舌打ちした。


 誠と百目鬼の顔を思い出したのか、高群 遥がハッとした顔をする。必死の形相で百目鬼の上着にしがみついた。

 


「わ、わたし違うんです! おお脅されて。カフスの片方オーダーの名簿に指定された名前を書けって! ほほほんとうです! にに二河原 康平(にがわら こうへい)って人と三上 徹(みかみ とおる)って人! ――たすけて!」



 高群 遥の声が、恐怖でふるえて裏返る。

「お姉さん、いいの? 警察と反社のちがいなんて、国営のヤクザか民営のヤクザかってくらいだよ?」

 酒々井が長身の体をかがめて高群 遥にささやく。

「やかましいわ。いっしょにすんな」

 百目鬼が眉根をよせた。





「名前は」

「高群 遥です」

「まちがいねえな」


 警察署三階事情聴取室。

 強引な取り調べを避けるために開けはなされたドアと、プライバシー保護で立てられたパーテーション。

 大きな窓を背に座る高群 遥は、スーツ姿で姿勢よくすわり答えた。

 横にすわる女性警官が、彼女の様子をうかがうようにチラリと視線を向ける。



「話をまとめると、むかし勤めてたブランド店での不正を二河原 康平と三上 徹に握られて闇バイトを手伝ってた――まちがいねえか?」



 机をはさんで高群の向かい側にすわる百目鬼が問いかける。

「まちがいありません」

 高群 遥が小さな声で答えた。

 一角に置かれた机で、誠はPCのマウスのボタンをカチカチと鳴らした。

「まあ、まえに勤めてたそのブランド店ってのも正直うっさん臭い話いろいろ聞いてるとこだけどよ、それでも法に関わることしちゃいかんわな」

 百目鬼がタブレットを手に顔をしかめる。

「すみません」

 高群 遥がうつむいた。

「……あの、そのころ身内が病気してて」

「うんまあ、そういうのは弁護士にめいっぱい言っときな」

 百目鬼が言う。

 相手をするのは検察なので、こちらは困らないもんなと誠は内心で思った。


「二河原 康平と三上 徹が闇バイトの何人か殺してんの、動機とかは聞いてるかい?」

「え……」

 高群 遥が目を見開く。



「殺してるんですか?!」



 そう声を上げて息をのむ。

 机の甲板を見つめて小刻みにふるえだした。

「……うそ。やだ、怖い」

「んじゃ何か知ってることあるかい? 何でもいいよ」

「知りません。なにも」

 高群の目がうるんできたかと思うと、ぽろぽろと涙がこぼれる。

「……うそ。怖い」

「三上 徹の住所とか連絡先とか聞いてないかい?」

「知りません。その人は一、二回しか会ってなくて。連絡してくるのはいつも二河原(にがわら)って人で」

 高群 遥が早口で返答する。


 先日の小野川 明日香(おのがわ あすか)とそのあたりは同じかと誠は思った。

 彼女への傷害の現行犯で逮捕された二河原 康平は、いまのところ雑談には応じているが。



「あの、……関係ないかもしれませんけど」



 高群 遥がふるえながらそう口にする。

「うん? いいよ、なんだい?」

 百目鬼がそう応じた。

 

諸人(もろびと)美術館ってあるじゃないですか。あそこの大広間、まえに女の子たちが変な事件起こして閉鎖してたんですけど」


 誠は軽く目を見開いた。

 花織(かおり)があの美術館のイベントの話をしていたが。

「いま場所を少し移して大幅改築してて、完成後に仮面舞踏会のイベントパーティがあるそうで。二河原と三上がそのことを話してたんです。――そういうの関心あるんだ、意外だなって思っただけなんですけど」


 百目鬼が、黙ってタブレットを見ている。

 高群 遥はうつむいた。

「……あの、すみません。やっぱり関係ないですね、すみません」

「いや。――ああ、ちっと休憩すっか」

 百目鬼がそう応じる。女性警官のほうを向いてうなずくと、女性警官はうなずきを返して高群 遥にイスから立つよううながした。

 高群が女性警官につれられて事情聴取室を出る。

 女性二人の靴音が、廊下の向こうにゆっくりと遠ざかって行った。



 しばらく黙ってタブレットを見つめていた百目鬼が、声音を落としてポソリとつぶやく。

諸人(もろびと)だとよ」







 第33話 胃の中のカフス

 終





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