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失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第33話 胃の中のカフス

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警察署四階 署員食堂

 花織(かおり)が注文したカツ丼が運ばれてくる。(まこと)がわり(ばし)入れを差しだすと、花織が一本とった。

 百目鬼(どうめき)がスマホを二、三タップしてから花織に画面を向ける。


「食いながらでいい。これ誰だか分かるか、嬢ちゃん」


 スマホの画面に映っているのは、過去に捜査上で撮影した動画だ。

 すでに逮捕した人物の愛人が、繁華街の高級ブランド店に入っていくうしろ姿。

 花織が軽く首をかしげる。

「誰ですか?」

「よし」

 百目鬼が、もういちどスマホを操作する。

「んじゃこれ」

 こんどもやはり過去の捜査で撮影したものだ。

 免税店につとめるパンツスーツの礼儀正しい女性店員。

「知らないお姉さまです」

「おけ」

 百目鬼がふたたびスマホを操作した。


 三番めの動画を見せる。


 ダンヒルのテナントの事務室で、酒々井(すずい)の名前が書きこまれた名簿を見せた女性店員、高群 遥(たかむら はるか)の動画だ。

 店舗のうらの雑然とした事務室での撮影なので、この女性を知らなければおそらくダンヒルの店員とは分からない。

 

 

「このかたです。――えっ、もう捜査に行ってたんですか?」



 花織がたまごに割れ目を入れながら即答する。

「ああいうところだと人見(ひとみ)さんが気おくれしそうなので、なかなか行かないかなと思ってたんですけど」

「あのね……」

 誠は顔をしかめた。

「気おくれしてたけど、俺同伴だったから」

 百目鬼がスマホを上着のポケットにしまう。

「百目鬼さん……」

 誠は眉をよせた。


「ていうか、まえの動画二つはなんです? 試しました?」

「すぐダンヒル見せたら、話の流れで “こいつ” って言われる可能性あっかんな」


 百目鬼が答える。

「証明されましたよね。三番めの動画のお姉さまがベランダ人妻AVのかたです」

 花織がピースする。

「……AVから離れなさい。女の子がなんてこと言ってるの」

 誠はラーメンをすすった。




 

 警察署二階、刑事課。

 早めの夕飯を終えて花織を帰したのが二時間ほどまえ。

 つきあたりの大きな窓の外は、すっかり暗くなっている。

 刑事課内にいる捜査員は数名ほどだが、マウスのボタンをカチカチと鳴らす音と、キーボードを打つ音が響いている。

 スマホの着信音が鳴った。


「──はい、俺」


 百目鬼が自身のデスクで通話に応じる。

 衝立(ついた)ての向こうから相づちを打つ声が聞こえた。

「いや署内にいた。──んだな、内線でよかったけど。まあこっちが確実だべ」

 しばらく相づちを打つと、みじかくあいさつをして通話を切った。


人見(ひとみ)


 衝立ての向こうから百目鬼が手招きする。

「はい」

 誠は書類作成を中断して席を立った。

 百目鬼のデスクに歩みよる。



「このまえの不倫姉ちゃんを闇バイトに巻きこんでた二河原 康平(にがわら こうへい)な、供述したってよ。カフス飲んでた被害者は二人で殺したって。――もう一人は三上 徹(みかみ とおる)。こっちが元締めって二河原(にがわら)は言ってるらしいが」



「元締め――ですか。仲間ではなく」

 誠はそう確認した。

「まあ三上(みかみ)も引っぱって供述のすり合わせしてみるまで分からんわな。共同正犯が片方に罪なすりつけようとする事例なんて腐るほどあっからな」

 百目鬼が腕時計を見る。


「三上の居場所は分からん言ってるって話だから、捜索することになるかもな。そろそろ二河原の聴取の時間終わりだし、令状もちっと時間かかると思うし――おまえきょう日勤だよな」


「はい」

 誠は答えた。

「あと何もないようなら、書類作成して帰っていいぞ。あした朝イチでダンヒル姉ちゃんのとこ行って任意同行求める」

「はい」

「んじゃ戻っていい」

 百目鬼がそう告げる。

「失礼します」

 誠は会釈をした。

 


「酒々井が “おもしろい女” 言ってたのはこういうことかよ」

 百目鬼が、チッと舌打ちした。





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