よつはし和菓子店 店舗兼工場 2
誠と百目鬼、花織の三人はそろって声のする方を見た。
「どうしたのその顔! いやああああああ!」
年配の女性の叫ぶ声が聞こえる。店のエリアというより工場の方からのようだ。
誠は百目鬼と顔を見合せた。
「どうします?」
「事件と関係することが起こってるのは確かそうなんだけどな……」
百目鬼が眉をよせる。
「たまたま立ちよった客のふりして……?」
花織がポンと手を叩く。
制服のミニスカートをひるがえし、スタスタと工場の小さな職員出入口に近づく。
ガラッと大きく引き戸を開けた。
「すみませぇん。お団子ほしいんですけどぉ」
花織の背後に隠れるようにして、誠と百目鬼は中を伺った。
入ってすぐに機械があるのを想像したが、入口付近はガランとした小さな部屋だった。機械があるのはこの奥か。
部屋の奥にあるドアのない出入口の前。怯えた表情で立つ三角巾をつけた年配女性がいた。
その女性の前に立ちふさがるようにしている男。
こちらを振り向いた。
店長兼和菓子職人の、仁令 薫。
「胡麻。三本」
花織が可愛らしく指を三本たてる。
百目鬼が目を眇めて男を見据えた。
「仁令 薫さんですか……?」
そう百目鬼が問いかける。
「はい」と男が返事をした。
「よつはし和菓子店、店長の仁令 薫ですが、何か」
男が笑みを浮かべながらこちらへと近づく。
「ウソです! 薫さんじゃありません! あんた! 薫さんどうしたの! ずっと帰ってないんだよ!」
「すみません。伯母はここのところ認知症ぎみの言動がありまして」
男が言う。
「違う! お前、和だろ!」
年配の女性は叫んだ。
「伯母さん……」
男が苦笑する。
「横からすみませんが、あなたは仁令 薫さんじゃありません!」
花織がビシッと男を指差した。
なんだこの子という表情で男が花織を見る。
「ホームページに載っている本物の仁令 薫さんとは、髪質と肌質、耳の形、手の形と爪の形が全然違います!」
「お嬢ちゃん……」
百目鬼が苦笑いする。
頼りになるんだか邪魔なんだかと誠は思った。
「しゃべって動いているところを見てさらに分かりました。わたしユーチューブの広告で、ここの店長さんが動いてる動画みたことあります! 声と笑うときの頬の動きが全然違います!」
花織が言い切る。
「ユーチューブの広告までよく覚えてたね……」
誠は感心して呟いた。
「早く動画みたいのに鬱陶しいから、けっこう覚えてます」
「あー……そういうことを、広告主さんの前で言わない」
誠は顔をしかめた。
「何この子。あんたらなに」
男が眉を強くよせて花織を睨む。
「余目総合病院の者です。お知らせにきました」
花織が敬礼する。
「仁令 薫さんが保護されたとき、身元の手がかりにするために髪や爪などDNAの検出できるものをさりげなくいただいたんです。それと、あなたの使った食器に付着していた唾液、病室に落ちていた髪の毛、調べれば入れ替わっていた証拠はすぐに上がります」
マジか、という風に百目鬼が花織を見る。
誠もやや驚いて花織の整った横顔を見た。
「ネタは上がってるんです! 神妙にお縄を頂戴してください!」
「お嬢ちゃん……元ネタなんだそれ。暴れん坊将軍か」
「大岡越前です」
花織が答える。
「入れ替わってたって……なんだいそれ。あんた自分の顔、薫さんの顔に変えてなにしてたの。薫さんはどうしたの!」
年配女性が叫ぶ。
「……残念ながら」
誠は言った。
「昨日、河辺で見つかった水死体の男性が薫さんと思われます」
年配女性が裏返った声を上げた。
「こ……殺したのかい! 薫さんを殺したのかい!」
年配女性が、脚をもつれさせるようにしてこちらに駆けよる。
「警察! 警察呼んでください!」
年配女性は、花織の両肩をつかんで懇願した。
花織が両手で誠と百目鬼を指す。
誠は、百目鬼とそろって警察手帳をとりだした。
「四ツ橋 和さんでいいのかな?」
百目鬼が問う。
「そうです! 和です!」
年配女性が叫ぶ。そのまま泣き崩れた。
「お話をお伺いできますか」
誠は男の顔の前に手帳を提示した。
男がすぐ脇にいる花織に手を伸ばす。花織の肩をグッとつかみ、引きよせた。
「きゃっ!」
誠はとっさに身体ごと花織と男の間に割って入り、強引に引き離した。
そのまま男の腕をとり、床に引き倒す。
ガタンという音と、女性の泣く声がせまい小部屋に響く。
誠はゆっくりと立ち上がり、倒れた男の手首をつかんだ。




