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失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第4話 花より団子よりお金でしょ

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余目総合病院三階 1

 余目(あまるめ)総合病院の院内。

 バリアフリー仕様の玄関口を入ると、白を基調とした広いホールが広がり、向こう側に受付が見える。

「何であのお嬢ちゃん、お前にだけ嫁がいるか聞いてんの?」

 広さに圧倒されながら受付へと向かう途中で、百目鬼(どうめき)が尋ねる。

「俺に聞かれても。たまたまじゃないですか?」

 (まこと)は答えた。

「何か気になることでも?」

「あんまり」

 百目鬼がそう答える。

 大きなカウンター状の受付窓口に歩みよる。

「すみません」

 そろって警察手帳を開いて見せると、一番手近にいた医療事務職の若い女性が緊張したように目を見開いた。

「路上で倒れて保護されたという患者さんにお話をお聞きしたいんですが」

 誠はそう告げる。

「え……えと」

 医療事務の女性は、おろおろと背後の他のスタッフのいる方を振り返った。

 先輩の事務職と思われる女性が近づく。

「あの、保護された患者さんにお話をお聞きしたいんですが」

「……えっと。なら鈴木さんに。違う、こういうのは田中さん?」

 先輩の女性もわたわたと人の名前を挙げる。

 警察に来られたとなると動揺する人間は割といるので慣れているが、たらい回しにされそうな気配を感じて、誠はなにげに壁の大きな時計を見た。

 時間がかかるだろうか。

 同じことを予感したのか、百目鬼が一歩引いた場所で溜め息をついている。


「担当の草賀谷(くさがや)先生お願いします。あと看護師長の介田(かいだ)さん」


 スラスラとそう指示する声に驚いて、誠は声のした方を見た。

 花織(かおり)が横で後ろに手を組み、スカートを揺らして立っている。

「あら、花織さん」

 医療事務の女性がそう呼びかける。

「お疲れさまでぇっす」

 花織がアイドルの一日署長のような敬礼をした。

「お父さまなら、院長室だと思いますよ」

「パパへの用事は済みました。この刑事さんたちに協力してあげて」

 花織が愛想よく言う。

「あ、やっぱりなにかの事件なんですかっ?」

 若い方の事務の女性が真剣な顔をする。

 件の患者の話は、病院内ですっかり広まっているのかなと誠は予想した。

「まあ……とりあえずケガをして路上に倒れていたということですから、傷害の疑いはあるというか」

「とりあえずお話聞きに来ただけですよ」

 百目鬼が後ろで補足する。

「草賀谷先生、応接室でお話できるそうです」

 先輩の方の医療事務の女性が、内線の受話器を抑えながら言う。

「できれば患者さんにもお話をお聞きしたいんですが。無理な様子ですか?」

 誠は尋ねた。

 事務の女性が内線で話す。

「いいそうです」

 しばらくしてから言った。

「あの、ちなみに患者さんの名前は」

 事務の女性二人が顔を見合せる。

「……命を狙われてるから、お見舞いが来てもぜんぶ断ってくれって。それで名前も佐藤 一郎(さとう いちろう)ってことにしてくれって」

 先輩の方の女性が話す。

 誠はもう一度、百目鬼と顔を見合せた。




 クリーム色を基調とした殺風景な廊下を花織が案内する。

 病室は、三階とのことだった。

「今度から、お話聞きたいときは先にお電話入れた方がいいと思いますよ。先生方も時間とれますし」

 前方を歩きながら花織が言う。

「被疑者とか、逃げられる可能性もあるから入れないの」

「あ、成程」

 花織が長い黒髪を揺らしてうなずいた。

「しかし、名前も言わないのか」

 百目鬼が呟く。

「だから困ってるんです。治療費、身内の方に請求しようがないじゃないですか」

 花織がこちらを振り向いて唇を尖らせる。

「本人に請求できるでしょ? 成人だよね」

「推定年齢は三十代ほど」

 花織が答える。

「でも保護されたとき、財布もスマホも持ってなかったみたいですし」

「服装は?」

 誠は問うた。

「普通の量産型のワイシャツに量産型のズボン、量産型の革靴」

「ガンダムと勘違いするからその言い方やめてくれ、お嬢ちゃん」

「分かりやすい特徴はなしか……」

 誠は呟いた。

 しばらく前方を歩いてから、花織が声を潜める。


「でも、あれは一種の変装ですね。たぶん普段着ている服とは違うんじゃないかと思います」


 誠は目を眇めた。

「それは……花織さんの見解?」

「看護師さんが、一緒にお茶したときに教えてくれました。微妙にサイズが合ってなかったって。特に靴」

「ああ、成程」

 誠は答えた。

「歩き方に特徴があります。あんまり詳しくないですけど、よく着物を着てる人の歩き方に似てるなって」

「着物?」

 誠は聞き返した。

 百目鬼がポケットからスマホを取り出す。タブレットをワゴン車の中に置いてきたので、スマホのアプリにメモしているらしい。

「着物か……」

 誠は殺風景な廊下の先を眺めた。

 件の患者の病室と思われるドアを花織が開ける。

 手を差し出して中に促す花織を、誠と百目鬼は無言で見た。

「入る気?」

「ダメですか?」

 花織が当然のように尋ねる。

「……できれば外で待ってて」

 誠はそう告げた。

「わたしが先生と看護師長さんを指名しなかったら、あそこで二十分は立ち往生してたくせに」

 花織が唇を尖らせる。

 二十分というのはどこから来たのか。

「それはお礼言うけど、相手も花織さんがいたら話しにくいことがあるかもしれないし」

「いやらしい動画の差し入れが欲しいとかですか?」

 誠は顔をしかめた。

 何でまずそれを発想してるのか。やはり入院中の男性は、そういう事情が結構あるのだろうか。

「……それは人によると思うけど」

「じゃあ、わたしはあとで改めて病室に入って、独自に捜査します」

「……しなくていいから」

 誠はやや語気を強めた。

 ドアを閉める間際に花織はドアの隙間からにっこりと笑い顔を向け、手を振った。

 ドアがパタンと閉まる。

「やっぱお前ら何かあんの?」

 百目鬼が顔をしかめる。

「何がですか」

 誠は眉をよせた。





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