余目総合病院 第二駐車場 1
昼下がり。
人見 誠巡査は、出先から戻り警察のワゴン車を駐車場に停めた。
署の玄関口から入ると、同僚の百目鬼が通りかかりこちらを見る。
手招きする。どうやら待っていたようだ。
誠の腕を取り強引に方向転換させると、百目鬼はたった今入ってきたばかりの玄関口の方に促した。
「何かありましたか」
「路上でケガして倒れて保護されたやつがいるんだが、どうにも訳分からんこと話して身の危険を訴えてるとか」
百目鬼はそう説明した。
「ちっと話聞いてこいとよ」
「事件性あるんですか? 傷害の可能性?」
誠は顔をしかめた。
「ありそうだから行くんでねえの?」
「男性ですか、女性ですか」
「男」
百目鬼が答える。
外に連れ出され、降りたばかりのワゴン車に促される。
「分かりました。どちらまで」
誠はスーツのポケットをさぐり、車のキーを取り出した。
百目鬼が言いにくそうに口を開く。
「余目総合病院だ」
車のキーのボタンを押し、解錠した状態で誠は一瞬だけ固まった。
「……だよな。そうなるよな」
百目鬼が太い眉をよせる。
「いや……花織さんがあそこで勤務している訳じゃないですから」
誠は口元を引きつらせた。
「自宅とも離れてますし学校とは逆方向ですし、受付の人と担当医師と話して、可能なら通報した本人と話して寄り道せずにさっさと帰れば」
「よし、その作戦で行くぞ」
百目鬼が助手席に乗りこむ。
誠は運転席に座った。なぜか長い溜め息が出た。
「人見さーん! 百目鬼さーん!」
余目総合病院の建物裏手にある第二駐車場。
ワゴン車から降りたとたん、澄んだソプラノに呼びかけられた。
開け放した車のドアに身体をよせて、誠は無言でうつむいた。
助手席側を見やると、車から降りた百目鬼が片手で顔を覆ってしゃがみこんでいる。
「どうしたんですか? うちに用事? どこか悪いんですか?」
制服に肩から学生カバンを下げ、花織が駆けよる。
「いや悪い訳じゃなくて……」
誠は口籠った。
「何でこんな時間に制服で」
「PTA総会があるので、学校午前中で終わりました。ちょうどパパが届けて欲しいものがあるって電話よこしたんで」
突如、助手席の横でしゃがんだ百目鬼が「いてぇー!」と叫んで腕を抑える。
「あーいてててててて。人見、早く行くぞ」
「あ、はい」
百目鬼が目を合わせてくる。話を合わせろとの意味だと誠は察した。
「あ、えと。さっき犯人確保のさいに百目鬼さん、ちょっと壁に打ちつけて」
「へぇー、大変」
花織が百目鬼の横にしゃがむ。
あのスカート丈だと下着見えないんだろうかと誠は余計なことを気にしてしまった。
「百目鬼さん、早く行きましょう。俺、肩貸しますから」
ボロが出ないよう、誠は百目鬼の腕を取り花織から引き離した。
花織が学生カバンからおもむろにスマホを取り出す。
誠が肩を貸しているところを撮影した。
「このちゃん。お二人は今日も息ピッタリです」
そう呟きながらスマホを操作する。
送信し終えると、花織はスマホをポケットに仕舞った。
「わたし子供の頃からいろんな患者さん見てるんですよ? 仮病の人って、なんとなく分かるんですよね」
花織がしゃがんだ膝の上に頬杖をつく。
「捜査ですか?」
誠は眉をよせた。百目鬼と目を合わせる。百目鬼が「しょうがねえ」という表情をした。
「捜査。あとは言えない」
誠は答えた。
ふーんと花織がうなずく。
「事件の匂いがしちゃってる患者さんがいるって看護師さんたちから聞いたんですけど、せっかくだからご相談していいですか?」
花織が言う。
「ああ……うん。まず相談のホットラインとかにかけて。親切に対応してくれるから」
誠は答えた。
だが花織が構わずに先を話し出す。
「なんか路上で倒れてるところを保護されてうちが受け入れたんですけど、気を失ってる間に整形されたって言ってるらしくて」
誠は眉をよせた。百目鬼と目が合う。
「命を狙われてるから、お見舞いはぜんぶ断ってって言ってるんだって」
話を聞こうとした人物では。誠は大きく溜め息をついた。
「せめて身元調べてくれません? 治療費の請求に困るし」
「……問題そこ?」
誠は眉をよせた。
「病院って、基本誰でも受け入れなきゃならないんですよ? 変な人受け入れて治療費の踏み倒しとか割とある話なんですから」
花織が唇を尖らせる。
「お二人は養う人いなくて、そのへん気楽なのかもしれませんけど」
「……花織さんも養ってる人なんていないでしょ」
「そういえば人見さんて奥さんいるの?」
花織が目を丸くして問う。
「……いないけど」
誠は答えた。
「そうなんだ」
花織が表情を変えず応じる。
「ふーん」とうなずいてから、花織は立ち上がりスカートを直した。




