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失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第3話 汝の隣人を愛せない

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警察車両ワゴン車 車内

 スマホを耳に当て、花織(かおり)が父の余目(あまるめ)医師を呼び出すやり取りをする。

「──あ、パパ? 前にうちに来た刑事さんたちがパパに聞きたいんだって。ストレスで記憶喪失になる症例はありますかって」

 ややしてから花織がシートの間から手を伸ばす。

「どぞ」

 百目鬼(どうめき)の耳にスマホを当てる。

「あっ、先生。先日はお世話になりました」

 百目鬼が会釈しながら話す。

 余目医師は挨拶などはこだわっていない様子で、専門用語を早口でまくし立てたと思われた。そうとおぼしき音声が漏れ聞こえる。

「はい……ああ、いえ。ちょっ、ちょっと待ってくれますか」

 百目鬼がこちらを見る。

「お前が聞け」

「……運転中ですが」

 (まこと)はそう返した。

 百目鬼が後部座席の方に身体を軽くねじる。

「お嬢ちゃんが聞いて要約してくれ」

「いいんですか?」

 花織がそう答えた。スマホを耳に当てる。

「──うん、パパ。お仕事中ごめんね。うん、テクノストレス症候群じゃないと思う。一時的じゃないもん。解離性健忘症かいりせいけんぼうしょうの方。そっちそっち。やだパパ大好き」

「……どんな親子の会話だ」

 百目鬼が顔をしかめた。

 しばらく専門用語の頻発する会話を続けたあと、花織は通話を切った。

「要約しちゃうと、あるそうです」

「やっぱお嬢ちゃんに代わってもらってよかったぜ」

 百目鬼が珍しく誉めているのかと取れることを言う。

「虐待のトラウマとか事故とかストレスの原因自体もいろいろだけど。記憶の空白期間も数分から数十年とまちまち」

「何がきっかけなんですかね。この件の分かってない部分に関係あるのかな」

「もうひとつ学園コネクションの情報(さら)していいですか?」

 花織がシートの間から手を挙げる。

「おう、晒せ」

 百目鬼が返事をした。

「うさぎちゃんとめっちゃ仲のいい子たちだけの秘密だったそうなんですけど、うさぎちゃん大学生の彼氏いるそうです」

「ほお」

 百目鬼がそう返す。

「よく聞けたね。そんな話」

 ハンドルを操作しつつ誠は答えた。

「上級生のお姉さまには慎んで従いなさいというのが聖マリア女学園の掟です」

 花織がピースする。

「ミッションスクールって怖えな」

 百目鬼が呟く。

「お姉さまって何……」

 誠は顔をしかめた。

「その彼氏をストーカーしてる女がいて、最近とうとう彼氏のアパートのとなりの部屋に引っ越してきたんだそうです」

「ほおほお」

 百目鬼がタブレットをタップする。

「んで、たびたび彼氏と会ってるうさぎちゃんが、目をつけられて嫌がらせされ始めたって」

 交差点にさしかかる。赤信号で停車し、誠はわずかに後ろを振り向いた。

「嫌がらせ……」

「ストレスの原因、それかな」

 花織が問う。

「嫌がらせが度を越えてるならあり得るかもね」

 誠は答えた。

「どんな女。そこまでは聞いてないか」

 タブレットをタップしつつ百目鬼が尋ねる。

「栄養士だかなんかって彼氏にアピールしてるの、うさぎちゃん見たことあるって言ってたって」

「だからワタシの方がお料理うまいのヨってか?」

 百目鬼が、ケッと吐き捨てる。

 誠は車を発進させた。

「救護施設なんかも栄養士っているよね」

 ハンドルをゆっくりと回しつつ誠はそう言った。雑談のつもりだったが、百目鬼が「うわ」と声を上げる。

「いや偶然……だと思いますけど」

「お嬢ちゃん」

 百目鬼が後部座席の方を向く。

「その彼氏のとなりの女の名前なんだ。いや、彼氏の名前か住所。分かんないなら、ちっとお姉さま権限で後輩に聞いてみてくれ」

「分かりました」

 花織が神妙な口調で返事をする。すっかり捜査員にでもなったつもりだなと誠は思った。

 いいのかなと眉をよせる。

 しばらくして通話がつながったらしく、花織が話し始めた。

「──るなちゃん? うさぎちゃんのことで聞いていい?」

 「なんでも聞いてください、花織お姉さま」という声が漏れ聞こえる。

「ミッションスクールって異様な世界だな。俺、普通の共学校でよかったわ」

「百目鬼さん共学校だったんですか。俺、男子校です」

 誠は答えた。

「うさぎちゃんの彼氏の名前か住所わかる?」

 後部座席から、ごそごそと学生カバンをさぐる音が聞こえる。ペンケースのファスナーを開けていると思われる音がした。

 花織がメモと筆記具を取り出したのか。

「──ありがとう。るなちゃん可愛い」

 そう言い花織が通話を切る。

「彼氏の名前は神尾(かみお)さん。アパートの住所は分かんないけど、場所は知ってるって。ここまっすぐ行ってください」

 花織が前方を指差す。

「……メモ、百目鬼さんに渡して。花織さんを家に送ってからそのアパート行くから」

 ハンドルを握りつつ誠は答えた。

「わたし後回しでも構いませんよ?」

 花織が答える。

「僕らは構うの。もしかしたら事件とつながりがあるかもしれない所に、一般人の女の子を連れて行くわけにはいかないの」

「何てアパートだ、お嬢ちゃん」

「太田ハイツだそうです」

 百目鬼がスマホを取り出す。

「俺だ。──ちっと調べてもらえるか? 太田ハイツの神尾って男性のとなりに住んでる人物の名前」

「どこにかけたんですか?」

 花織が百目鬼の様子を伺う。

「近くの交番じゃないかな」

 誠は答えた。

「となりは一部屋だけ? 名前は?」

 そう言い百目鬼はしばらく押し黙った。

 

「──三ツ井 江里(みつい えり)





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