余目家近く コンビニエンスストア 2
コンビニのスタッフルームに案内される。
細長い部屋に机が横に三台ほど並んでいる。せまい通路は積み上げられた段ボールや折りたたみ椅子、弁当用のコンテナ等でさらにせまくなっていた。
奥の少し広くなったエリアで、オーナーが「こちらです」と手招きする。
長机の上に置かれたモニターが目に入った。
「オーナーいて助かったな。責任者いないとそれ理由に断られることあるもんな」
百目鬼が呟く。
「ですね」
誠はそう応じた。
「十五分くらい前ですか?」
オーナーが長机に手をつきモニターを操作する。
「とりあえずその辺からお願いできますか?」
百目鬼が屈んでモニターを見る。何分割かに分かれた画面を、頭を動かし順に見た。
「これか?」
ややしてレジ付近を映した画面を百目鬼が指差す。
ヒジャブのような布で髪を覆い、顔の下半分を隠した女性が映っている。
誠はスマホを取り出し、花織に提供された動画を表示した。
背は小柄。百五十センチ前半というところか。
頭部が小さく華奢な体格は、たしかに動画と同一人物の可能性が高いと感じられる。
「お嬢ちゃんは歩き方で確信したようなこと言ってたが……」
百目鬼が呟く。
「内股……というか」
誠は、動画と見比べるためモニターの横にスマホをかざした。
「長い服着てるから、脚をどう動かしてるか見えねえんだが」
「花織さん、これでも動きを見分けられるんでしょうか……」
どんな細かい動きも見逃してはいかんと思うあまり、つい誠は必要以上に目を見開いてしまった。
やはり顔の特徴にいちばん頼って人を見分けている人間と、花織のような人間とでは訓練された部分がかなり違うのか。
「どうしましょうかね……たしかに身長と体型は一致してる気がしますけど。せめて耳か手が見えてたら」
誠はヒジャブで隠れた耳のあたりを見つめた。
手のほうは、動画も防犯カメラも上手く映っている場面がみつからない。
「お嬢ちゃんに女性警察官のふりさせて連れてきてもなあ……アイドルの一日署長みたいでバレバレだろうしなあ」
百目鬼が顎に手を当てる。
「え?」という感じでオーナーがこちらを向いた。
「あ……いえ。何でもないです」
誠が代わりに愛想笑いでごまかした。
「仮に連れてきても、“絶対にうさぎちゃん”って主張するだけじゃないですか? 花織さん」
「だよな」
百目鬼が相槌を打つ。
スタッフルームをあとにして、店内に出る。
レジのまえを通り、ガラスの入口扉を百目鬼が押す。
「問題はそこだな。お嬢ちゃんの主張は、ほとんどの人間が認識してない部分だから、本人と一致してたとしても他人を納得させることができない」
「歩き方が明らかに宇佐美 澪緒さん本人と言われても、そこをきっちり区別してる人間はあんまりいないでしょうからね……」
誠は溜め息をついた。
「足元までの長い服着た人間の脚の動き言われてもな」
百目鬼に続き、誠も外に出る。
「あっ」
「うっ」
二人で同時に声を上げる。
「おかえりなさい」
駐車場のガードポールに腰をかけてアイスを食べる花織と目が合う。
「か……帰らなかったの?」
「あとでお二人と連絡とる手間が省けますもん」
花織は立ち上がり、片手でスカートをパンパンと叩いた。
「もうちょっとかかるようなら、カップ麺にお湯もらって食べてようかと思ったんですけど」
何だろう……。お嬢さまなのに、この無駄に庶民的な行動に慣れてるの。
誠は顔をしかめた。
「うさぎちゃんって確認できました?」
花織が問う。
誠は百目鬼と顔を見合わせた。
「なんつうか……いちおう参考として俺らが聞いとく」
「やっぱ分かんなかったんだ」
百目鬼の言葉に花織がそう返す。
「うさぎちゃん変装してただけあって、ふだんと歩き方すこし変えてましたもん」
「まじか」
百目鬼が眉根をよせた。
「だから気づくのちょっと遅れたんです」
花織が唇を尖らせる。
「背丈と体型は、かなり近いと僕も百目鬼さんも思った。だけど、長い布の下の脚の動きが本人のものだと説明しても、それを決定的な証拠と受けとれる人間はかなり少ないと思う」
「早い話、警察の人たちがそんなもので見分けるってのを理解できないんでしょ?」
花織が言う。
「いや……まあ」と誠は苦笑した。
「少なくとも上には通じないかな……」
「もう捜査はAIにやらせたほうがいいですよ。わたしシステム開発に協力します」
誠は無言で愛想笑いを返した。
「まあいちおう、お嬢ちゃんのわけ分からん角度からの観察力は俺らは知ってる。参考にはさせてもらうわ」
百目鬼が頭を掻いた。




