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大滝家 客用駐車場 1

「別の人……」

 (まこと)は復唱した。

 百目鬼(どうめき)が勢いよく身体の向きを変え、フロントガラスをもういちど見る。

 小瀬木 賢一(おぜき けんいち)は、最寄りの生活道路へと入って言った。

「……何人かで一人の人間に成りすましてる?」

 誠は呟いた。

「たしかか? お嬢ちゃん」

「背格好わりと似てますけど、お肉のつきかたとか肩の形とか違います。このまえ会ったゴムマスクさんは、もう少し全身の筋肉のしっかりした方でした。今日の方は、肩がやや骨ばった感じ」

 誠は目を見開いて、小瀬木(おぜき)が消えていった曲がり角を見つめた。

「逮捕しないんですか?」

 花織(かおり)が問う。

「はっきりと何か犯罪をしたって立証できたわけじゃないからな……」

 百目鬼が渋い表情をする。

「まえも言ったじゃないですか。そうやって呑気に見てるうちに被害者が出るんです」

「呑気にしてるわけじゃ」

 誠は顔をしかめた。

「わたしが(あば)いて来ましょうか。追いかけて行って、“このまえと中の人違いますよね” って」

 花織が後部座席のドアを開ける。

 タタッと軽やかに車両から降りた。

「花織さん!」

 誠は運転席のドアを開けた。

「要らないって、花織さん!」

 先に百目鬼が車外に飛びだし、花織をつかまえた。花織の腕をつかんでうしろにねじる。


「いたっ! なに痛い、いった━━い!」

「マスコミ部だか何だか知らんが、取材ごっことかいい加減にしろ!」


「百目鬼さ……?」

 マスコミ部って何だ。止めようと手を伸ばした格好で誠は固まった。

「行く先々でチョロチョロしやがって。学生はおとなしくお勉強してろ!」

 花織の腕をつかみ直して引っぱると、百目鬼は後部座席のドアを開けて花織を車内に放りこんだ。

 助手席のドアを開けて自身も乗りこむ。

人見(ひとみ)、とりあえず出せ」

「あ、はい」

 急いでシートベルトを締め、誠はエンジンをかけた。ウィンカーを出して発車する。

「どこまで」

 誠が問うと、百目鬼は「うーん」と(うな)った。

「どこにすっかなあ……」



 

 百目鬼が指示したのは、となりの市にあるかつて大滝 正二(おおたき しょうじ)が社長を務めていた会社の駐車場だった。

 区画線に沿って車を止め、エンジンを止める。

 遠くに倉庫のような建物が見えた。

「よし。お嬢ちゃん、しゃべっていいぞ」

 花織が前部座席のシートに身を乗り出す。

「痛かったぁ! (あざ)になったら治療費払ってくださいね!」

「そこらの嬢ちゃん相手に痣になるようなやり方しねえよ」

 百目鬼が答える。

「ここにしたのは何かあるんですか?」

 誠は尋ねた。

「なんも。お嬢ちゃん連れて逃げるんなら、ついでに何か見つかりそうなとこのほうがいいかってだけ」

「逃げる?」

 誠は眉をよせた。

「嬢ちゃん、大滝 玲奈(おおたき れな)とは正確にはどんな仲だ」

 花織が目を丸くする。

「どんなって。患者さんに付き添ってうちの病院に来てたお孫さんですけど」

「しゃべったことは」

「あいさつとか」

 花織が首をかしげる。

「実際に、お姉さまと妹ちゃんってほど親しくはないよな」

「庭で言ったのは、捜査に加わるためのウソ設定ですよ?」

 花織が軽く眉をよせる。

「大滝 玲奈が嬢ちゃんを “かわいい妹ちゃん” と言ってた」

「あ……」

 誠は、ようやく百目鬼の懸念に気づいた。

「庭での会話を……?」

「うゎ両想い?」

「そういう冗談いいから」

 誠は顔をしかめた。

「嬢ちゃんの観察力について確認したがってるように見えた。はじめ好奇心で聞いてんのかと思ったんだが」

 百目鬼が言う。

「捜査に協力してるのかとか何とか。お嬢ちゃん、大滝 玲奈が病院に付き添わなくなったのは、いつからだ」

 花織が宙をながめる。

「いつだっけ……」

「何かこの件、もしかしたらヤベぇぞ」

 百目鬼がきつく顔をしかめる。

「ついでだから大滝 正二の会社の関係者に聞き込みしてくる。お嬢ちゃんはその間に思い出せ。大滝 玲奈には近づくな」

 百目鬼が助手席から降りる。乱暴にドアをバタンと閉めた。

人見(ひとみ)、行くぞ!」

「あ、はい」

 誠はあわてて運転席から降りた。ドアを閉めようとして、花織と目が合う。

「なんか玲奈さんから逃げるみたいな。怪しいのはあのゴムマスクでしょ?」

 花織が問う。

「百目鬼さんは何か気づいて焦ってるみたいだから、それとなく聞いておくよ。僕らが戻るまで車から出ないで」

「言われなくても、このへん土地勘ないから出ません」

 花織がいまいち納得しきれていない表情でシートに背をあずける。フロントガラスを見た。

「あれ?!」

 とたんに大声を出し、後部座席のドアを開けて車外に飛び出す。

「人見さん!」

「言ったそばから!」

 誠は、花織の肩をつかみ引き止めた。

「なんなの!」

「人見さん! いま倉庫のほうに向かって歩いてるグレーのスーツの人!」

 花織が前方を指差す。


「庭で会った一人めのゴムマスクです!」


 誠は目を見開いた。

 社屋に向かって歩いていた百目鬼が立ち止まる。

「百目鬼さん!」

 誠は花織を車に戻して呼び止めた。

「聞こえた」

 駆けよった誠のほうを振り返る。

「どいつだ」

「いま倉庫に入って行ったグレーのスーツだそうです。身長百七十前後、中肉中背、遠目で見た感じだと五十歳前後」

「とりあえず聞き込みの(てい)で話聞くぞ」

 百目鬼が方向転換し、つかつかと倉庫に向かって歩きだす。

「はい」

 誠は駆け足であとを追った。





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