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失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第2話 穴深き となりは何をする人ぞ
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陥没穴の前 2

 花織(かおり)が遺体発見現場の方を見る。

「やばい。いきなり詰んだ」

 サラサラ黒髪を両手でくしゃっと握るようにして頭を抱える。

「遺体を直接見せる訳にはいかないけど、あとで似顔絵の得意な人に遺体の顔描いてもらうから……」

 そこで誠はハッと口を押さえた。

 花織がジトッとした目で見る。

「だから顔分かりません」

「そうだった……」

 相手が死んでしまっては、花織の得意な仕草や声での判別はできない。

「肌質……」

「逆光でしたから、さすがにあんまり」

 どうしたものかなと誠は(ひたい)を押さえた。

「遺体を見せられないって、なんか規則ですか?」

「そんなことはないけど」

「じゃ、とりあえず見てきます」

 花織が手をついて立ち上がる。

「い……いや、遺体を直接は。いいから」

 花織の手をつかもうとしたが、セクハラと言われたら困ると気づいてやめた。

 先日の逮捕時のような緊急事態ならさすがに何も言う気はないみたいだが。

「大丈夫ですよ。パパの病院の霊安室、子供の頃から探検してましたから」

「何それ……」

 やな子供だな。誠は顔をしかめた。

「顔の区別がつかないので、毎回おなじ人が寝てると思ってたんですよねぇ」

 花織がしみじみと言う。

 こういう子供時代を過ごすと怖いもの知らずな性格になるんだろうかと誠は思った。

「霊安室にあるような綺麗に整えられた遺体じゃないから。殺されたときそのままだよ。やめといた方がいい」

 花織がこちらを見下ろす。

「だいたい、いま自分で言ってたでしょ。遺体見ても区別はつけられないんでしょ?」

「うーん」

 花織が現場の方を見る。

「ちなみにどんな遺体ですか?」

「……刺殺体」

 誠は短く答えた。

「花織さんは何で一人でこんな所にいたの」

「友達にラインで呼び出されたんです。助けて。来て来てって」

「こんな所に呼び出すって変じゃないの?」

 誠は顔をしかめた。

「となりの家の人がキモいって言ってたから、もしかしてその人に拉致されたかなって」

「本当だったとしてもそういうときは通報して」

 んー、と花織が宙を見上げる。

「分かりました。次からは人見(ひとみ)刑事ご指名でお電話します」

 それどうなんだろと誠は(ひたい)を押さえた。

「ご指名あったら点数ふえるわけじゃないの?」

「ノルマ有りのお店じゃないんだから……」

 鑑識係員が立ち上がっている。そろそろ引き上げるのかなと誠は思った。

「素手で押されたなら制服に指紋がついてるかもしれないから、ちょっと借りるけどいい?」

「そっか」

 花織が制服の上着を脱ぐ。両手で誠に手渡した。

「ちなみにあっちの死体は手袋してました?」

「してなかった」

 誠は答えた。

 ふぅん、と花織がうなずく。

「よく分かんないから、人見さんにだけ言っとくけど」

 花織が切り出す。

「突き落とされたあと穴の中から見た犯人の顔は逆光だったけど、頬のあたりの影が変だなってのは思ったの」

 花織が自身の頬を人差し指でつつく。

「ふつうは頬にかかった影って、頬のラインに沿って弧を描いた感じで付くでしょ? でもわたしを突き落とした人は、頬の影がちょっとガタガタだったんですよね」

「ガタガタ?」

「なんだろって思って、そこばっかり見ちゃったけど」

 花織は首をかしげた。




 泣く泣く余目総合病院で診察を受けた花織のケガは、四ヵ所の擦り傷という程度で、誠は次の日の学校帰りに警察署に来てくれるよう連絡した。

 制服の上着をこちらで預かっているので、似たようなジャケットでも着て登下校しているのかと思ったが、預かったものと同じ上着を着ていた。

 スペアの制服とのことだった。

 やはりお嬢さまだと思う。


「結構かわいい部屋あるんだ」


 通された署の玄関口ちかくの小さな部屋を花織が見回す。

 かわいいかな……と誠は困惑して室内を見回した。

 犯罪相談や被害者用の事情聴取に使われる部屋で、クリーム色の壁にチョコレート色の幅木、事務用の机よりは愛想があるか程度のやはりチョコレート色の長机。

 長机の上に警察のキャラクターのぬいぐるみがあるが、かわいいとはその辺だろうか。

「座って。いま百目鬼(どうめき)さん来るから」

 誠は壁際の席に座った。

「あ、来るんだ」

「いちおう花織さんの件、傷害の疑いで担当することになったから」

「いちおうって? 忙しいなら後回しでもいいですよ」

「……そういうのは、こっちが決めることだからね」

 誠は眉をよせた。

 開け放した入口から、恰幅のいい中年男性が入室する。

 百目鬼刑事だ。

「うわ。お嬢ちゃんだ」

 振り向いた花織と目が合うと、低音の声でそう呟く。

「お世話になってます、百目鬼さん」

 花織がにっこりと笑いかける。

「あのあと腐女子の友達に話したら、同僚メンズのブロマンスも大好物だって」

「ごめんな。おじさん、少し昔の日本語しか分かんないから」

 百目鬼はそう言い、誠の斜め側の席に座った。





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