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失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第2話 穴深き となりは何をする人ぞ
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陥没穴の前 1


人見(ひとみ)さーん、ここっ、ここっ!」 


 駅から三キロほど離れた小高い山。住宅街が近くまで迫っているとはいえ、鬱蒼(うっそう)とした木々が自生している。

 死体遺棄で通報を受けて現場に来ていた人見 誠(ひとみ まこと)巡査は、女性の声に呼ばれて周囲を見渡した。

 声のしたあたりを探して、付近を二、三歩うろついてみる。

「やぁん! そこじゃない!」

 甲高い声だ。

 どこかで聞き覚えがあるような声だと思ったが、誰だったか。

 近くに身を隠せるような建物はない。

 木々の上の方を見渡し、また二、三歩ほど動いてみる。

「ああん、もうっ、そこじゃないって!」

 また聞こえた。軽くくぐもっている感じで場所が掴みづらい。

 首をかしげながら、違う方向に二、三歩。

「違うっ、やぁぁん」

 もういちど首をかしげ、今度は正反対の方向に二、三歩。

「そこっ! そこっ! 来て! 来て!」

 何か知らないが、このまま直進すれば正解なんだろうか。

 革靴に泥をつけながら、(まこと)は探るように直進した。

 十歩ほど歩いたあたりで、ズシャッと足を取られる。

 地面が大きく陥没している箇所があった。

 小柄な人間か子供なら、知らずに落ちてしまいそうな大きさだ。

 危ないなと思い足を引っこめる。


「ああん! そこっ! そこだってばあああ!」


 思い出した。この声。

 一ヵ月ほど前の張り込みの捜査で自宅を借りた余目(あまるめ)医師の一人娘、余目 花織(あまるめ かおり)

 小生意気なサラサラ黒髪美少女の顔を誠は思い出した。

花織(かおり)さん?!」

 声は穴の中から聞こえている気がする。あわてて誠は(ひざ)をつき穴を覗きこんだ。

「いぇーい」

 花織が自身の顔をスマホで照らし、ピースしている。

「やっぱり人見さんの足音」

 顔があるのは、二メートルほど下だろうか。花織が立っていると仮定すると、穴の深さは三.五メートルから四メートル。

「いぇーいじゃないでしょ! 何でそんな所にいるの!」

「誰かに突き落とされました」

 ますますいぇーいなんて状況じゃない。

 少し離れた位置で作業をする鑑識係員たちに向けて、誠は声を張り上げた。

「誰か! ちょっと手伝ってください! 人が落ちてて」

「あ、待って待って。人見さん」

 花織が片手を伸ばし、スマホに向けてピースする。

 カシャッと小さな音がした。

「自撮りとかしてる場合?!」

「そっちからも撮って撮って」

 花織がこちらへ向けてダブルピースする。

「そんな場合じゃないでしょ!」

 誠は鑑識係員のいる現場の方を見た。

 二人ほどの者が、帽子を押さえてこちらへ駆けよって来る。

「ロープ! ロープないですか!」

 誠は声を上げた。




 ロープを使い縦穴から腰まで出した花織が、地面に手をつき(ひざ)を付いて穴から這い出る。

 スカート丈の短い制服を着ているのも構わず、やや脚を開き地面にぺたん座りをした。

「ケガは?」

 誠は屈んでそう尋ねた。脚を何ヵ所か擦りむいているようだが。

 花織は、しばらく手についた泥を払っていたが、誠と目を合わせるとガシッと両腕で抱きついた。

「うわああああああん! 死んじゃうかと思ったあ! もうマコくんの彼女でいられないかと思っちゃったあああ!」

 大声でそう叫ぶ。

「はっ?! いやちょっ……待っ」

 誠はあわてて花織の両腕を引きはがしにかかった。

 鑑識係員たちが目を丸くしてこちらを見ている。

「ちょっ……待って。変な誤解されるから」

 ふん、と唇を尖らせて花織が両腕を離す。

「さっき撮影してくれなかった仕返しです」

「あのね……」

 誠は顔を歪ませた。

「とりあえず救急車呼んだから。そのあと事情聞かせてもらうことになるけど」

「余目総合病院はやめてくださいね。パパにバレちゃう」

 花織が制服のリボンを直しつつ言う。

「……無理でしょ。ここから近いし、院長のお嬢さんとなったら確実に受け入れられるでしょ」

「人見さんは? なんでここにいたの?」

 花織があたりを見回す。

「遺体が見つかったって通報があって」

「本当に鑑識の人と現場に来たりするんだ」

 花織が現場を遠目で眺める。

「実際は来ないよ。鑑識が調べた資料をあとで見るだけ。今は、たまたま近くにいたから」

「死んで二、三日以内の死体でしょ」

「よく分かったね。死後硬直も始まってないから、死後あまり時間も経ってない」

「人見さんから死臭しないですもん。この季節ならだいたい二、三日で臭ってくるってパパから聞いたことが」

 どんな親子の会話してるんだろと誠は眉を寄せた。

「まれに長いこと伏せってたような人だと、亡くなった直後から硬直始まることあるらしいですけど」

 花織が体育座りになり、(ひざ)の上で頬杖をつく。

「それより突き落とされたってのは? 犯人の顔は見た?」

「わたし失顔症です」

 花織が即答する。

「そうだった……」

 誠は(ひたい)に手を当てた。

「でも犯人の仕草や声は覚えてます」

「何か言われたの?」

「言われてませんけど、わたしを突き落とした直後にハアッて息を吐きましたから。そこからだいたいの声が推測できます。声質バリトンの男性です」

 相変わらず独特の感覚の世界だなと誠は思う。

「幸い服装も。逆光でしたけど、肩とか胸とかにワッペンがベタベタついたフライトジャケット」

「……ん?」

 誠は鑑識の行われてる現場を見た。

「遺体の服装がそれだったけど……」





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