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9.旅立ち

 



 しかし、そんなのんびりとした日々は長く続かなかった。



「王都からの返事がきたから、都合の良い時に来てくれないか?」



 村長に言われてそのままついて行くと、この村には似合わないほどカッチリとしたローブを着たおじいさんがいた。


「儂はクロード・ザスク。王宮魔導師だ。

 そなたが、鳳凰を召喚して厄災級のドラゴンを単独討伐したという、ユウリか」


「はい、そうです」


 やたらと厳しい言葉遣いに、自然とこちらの背筋も伸びる。

 この人には逆らってはいけない、それを感じさせるような威厳のある人だ。


「まだ若く、突出した才能を与えられた訳でもない人間が成し遂げるには、大変な苦労があったであろう。

 その成果は非常に素晴らしいものじゃ」


「ありがとうございます」


 まっすぐに褒められて、嬉しくなった。


「こちらのユウリは、魔力測定の時には魔力ゼロと判定されたのですが……」


 褒めちぎってくるおじいさんに、村長が恐る恐るとそう言う。


「魔道具とて、故障することもある。

 道具では測れないほどの才能、というものもまた存在するのだ。そう心配せずとも良い」


「それは良かったです。ユウリの家族も喜ぶでしょう」


 魔力の件では争いになった兄たちだが、普段はそれなりに仲の良い兄弟だ。

 ドラゴンの討伐も、我がことのように喜んでくれていたし、王都の偉い人に褒められたとあれば、両親も嬉しいだろう。



「そして、ユウリ。本題はここからじゃ。

 その才能を、もっと伸ばしてみたいとは思わぬか?

 魔道具は正しく判定しなかったようだが、これだけの成果があれば王都の魔導学園に入学することができる。

 更に深く魔法を学んで、その力を活かしてみないか」


 おじいさんの瞳は真剣そのもので、俺の才能を信じてくれているのだと分かった。しかし。


「少し、考えさせてもらえませんか」


「もちろんじゃ。人生を大きく左右する選択だから、しっかりと考えるがよい。それは若者に与えられた特権なのだから」


 柔らかな微笑みは良い人柄を現すかのようで、そのままついて行っても良いと思えた。

 ただ、エルザにだけは相談したかったのだ。


 家族よりも俺の事を理解してくれていて、神託という特別なものを背負わされている彼女だからこそ。






「嫌っ! 離して!」


 まだ朝早いし神殿にいるかな、と気軽に行ったらエルザが悲鳴と共に飛び出してきた。


「どうしたっ?」


 エルザが返事をするより先に、相手が登場した。

 この村でも見慣れた神官服を着ているが、巫覡のおっちゃんより数段ガタイのいい人。


「坊ちゃん、俺らは悪いことをしようとしてるんじゃないんだ。その子をこちらへ渡してくれ。

 これは、神のご意志だから」


「ちがうもん! その人たちは、私を攫おうとしてくるの!」


「違うんだ。焦って掴んでしまったことについては謝る。悪かった。

 ただ、話を聞いてくれないだろうか」


 表情を見るに、相手も困っているらしい。

 いつもの巫覡のおっちゃんも、その後ろで困り果てていた。


 ただ、信用出来るかどうか分からないので一旦防御魔法を張ることにする。

 いつも俺の肌を覆っている、薄く堅い防御壁が、丸く膨らんでエルザと俺を包み込むイメージで。


「エルザ、落ち着いて聞いてほしい。

 これ、触れるだろう?」


 彼女の手を取って、防御壁に触らせる。


「これがあるから、あの人たちは絶対にエルザを捕まえられない。それは分かる?」


「うん」


「じゃあ、話だけ聞こうか。話し合わないと何も決められないからね。

 ちゃんと聞いて考えて、その結果嫌だったらこの人たちは無理やりさせないよ。

 神のご意志(・・・・・)ですからね? 神託を受けられるこの子に、無理強いすることなんてありませんよね?」


 多少の圧力をかけながらそう問うと。


「ああ、もちろんだ。神に誓って」


 ようやくその言質が取れたから、エルザと二人で話を聞くことにした。


「本題としては、王都にある中央神殿か、魔導学園へ来ないか、ということなんだ。

 聖属性の才能が、神託を受けられるほどにあるんだから、それを伸ばさないのは勿体なさすぎるらだろう?」


「いや、です。私は、この村に居たい」


「エルザは、王都へは行きたくない?」


「…………うん。みんなが、ここに居るもの」


 そうは言うものの、瞳は戸惑い悩んで揺れている。


「それは残念だな。丁度俺も魔導学園へ入らないかと誘われているんだけど」


「えっ!? ユウリも!?」


「うん。だから、エルザが一緒に来てくれたら楽しいな、なんて。

 それに、エルザの神託によると、災いの世が始まるんだろう? 自分の身を守るためにも、魔法の腕を磨いたほうがいいと思うんだ」


「…………ぇえ、どうしよう」


「行ってみて、嫌だと思えばいつでも帰って来たらいい。見に行くだけ、行ってみないか?」


「それも、いいかも。ユウリと一緒なんだよね?」


「じゃあそれで決まりだな」


「ありがとう! 一緒に、王都で頑張ろう!」


 俺たちの会話を辛抱強く聞いていたマッチョ神官さんも嬉しそうだ。


「俺は、誘ってくれた人に、少し考える、って言って来たんだ。行くって返事をしてくるよ」


「うんっ!」






 そうして訪れた、旅立ちの日。


「ユウリ、お前はこの村の英雄なんだ! 王都へ行っても頑張れよ!」


 村の広場に集まってくれた人たちの中でも!とりわけデカい声で父が励ましてくれる。


「いつでも帰って来いよ!」

「頑張れ!」

「村がまた襲われたら、助けに来て欲しいなぁ」


 口々にそう言う村の人々は皆俺に好意的で、俺をいじめていた連中は非常に肩身が狭い思いをしている。それは俺たちが旅立った後もしばらくは続くだろう。


「じゃあな、また! 元気で!」


 エルザと二人で連れ立って王都へ向かう道のりは、これからの未来を示すかのように晴れ渡っていた。





            【完】


ありがとうございました。

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