表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

冬の午後の小話

作者: 蕃茉莉

 しんしんと降る雪で世界が埋まりそうな日曜日の午後。

 俺は、コタツで宿題をしていたんだが、いつの間にか寝てしまっていたようだ。

 目が覚めると、古い家は静まり返っている。みんな出かけているらしい。時計は3時半。もう部屋は暗くなりかけていた。

 雪の日は静かだな。

 まだ半分まどろみの中にいる心地で、コタツの中で足を伸ばした俺は、ぎょっとした。

 コタツの中に、足がある。

 伸ばした足に、誰かの足が触れたのだ。

 一気に目が覚めた。慌てて足を引っ込め、恐る恐る、上半身を起こしてコタツの向こうをのぞきこんだが、誰もいない。

 気のせいか?

 もう一度、そうっと足を伸ばすと、やはり、ふにゃり、と誰かの足に触れた。誰もいないコタツの中に、足だけが?!

 うわああああああ。

 本当に恐ろしい時は、声が出ないのだと初めて知った。その正体を確かめることなんて、恐ろしくてできやしない。必死でコタツから這い出して、なるべく反対側を見ないようにして、隣の部屋に行こうとしたが腰が抜けて立てない。

 這いずるようにしてふすまを開け、隣の部屋に逃げ込んだ。普段使わない部屋は、火の気もなくて凍えるように寒い。

 俺はどうすることもできず、部屋の真ん中で震えながらうずくまっていた。壁に寄りかかったら、壁から何かが出てきそうな気がして、動くこともできない。早く誰か帰ってきてくれ。みんなどこに行ったんだ。

 どのくらい時間がたっただろうか。

ようやく、玄関ががらがら、と開く音がして、雪を落とす足音が聞こえた。

「ただいま」

 買い物袋を提げてコタツの部屋に入ってきた母親は、開いているふすまの向こうでうずくまっている俺を見て、怪訝な顔になった。

「あんた、そんな寒いところで何してるの」

「こっ、こっ、コタツに足が」

「足ぃ?」

 母は乱暴にコタツ布団をめくると、

「これかい?」

 と黒い長靴を取り出した。

 えええっ。

 足の正体は、長靴だった。

「コタツに長靴なんか入れるなよ」

 逆ギレして母親を責めたが、母は、

「濡れたから乾かしてたのよ。あんた、寝てばかりいないで、ちゃんと宿題やりなさい」

 なんてこった。

 一気に力が抜けた俺は、寒さと恐怖で固まった身体をよろよろ起こし、盛大にくしゃみをした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ