理解できない男達
単なる偏見と捉えられて構わないのですが、男の友情は気持ちが悪いと思ったことがあります。
過去形ではなく、今でもそう思う事象に出くわすことはあるのですが。
最初にそう思ったのは私がまだ中学生だった頃のことです。
クラスメイトの男子生徒がどうやら私のことを好きらしいとどこからともなく噂が流れてきました。
はっきり言うと苦手なタイプだったので、私はその人と極力関わらないようにして(傍目には避けているように見えたかもしれませんが)ほとんど口をきくことはありませんでした。
ある時、クラスの違う話したこともない男子生徒が「あいついい奴だぜ」と私に話しかけてきました。
当初なんのことか分からずにいたのですが、どうやら私が避けている男子生徒のことを『いい奴だから付き合えば?』と勧めているのだと分かった時の気持ち悪さを理解していただけるでしょうか。
無理に例えるならば、近所の顔見知り程度の人に「可愛いから飼ってみれば?」と前置きもなく好きでもない動物をつきつけられたといった感じでしょうか。
同意はしたくない(というか無理だ)けれど、あからさまに拒否して無闇な諍いはしたくない。
そもそも親しくもない私に何でそんなことを言ってくるのかわからないので、確たる返事もせずにスルーしてしまいました。
そういった曖昧な態度もいけなかったのかも知れませんが、避けているにもかかわらず苦手な男子生徒が目につくようになりました。
苦手意識が簡単に消えるはずもなく、ある時、女子生徒達との雑談の中で「(苦手な男子生徒が)転校でもしてくれないかな」と愚痴ったことがありました。
それがどういう風に伝わったのか、後日男子生徒が「お前、俺がいなくなればいいって言ってんだってな」と、唐突に私の座っている椅子を蹴り付けて、そのままの勢いで机を蹴り倒してきたのです。
突然の暴力に避けることすらできず、床に倒れて痛いし、荷物は散乱するし、苦手意識に加えて怒鳴りつけられる恐怖でどうしていいのか分からなくなりました。
始業時間になり教師が割って入ってくれたため、それ以上のことはされずに済み、さらに2学期が終わる時期だったためそのまま冬休みに入ったので、一連の動揺は治ったかに思えました。
しかし、3学期が始まる直前、身体中に発疹ができて1週間ほど学校を休むことになりました。
「原因不明」の発疹と診断されましたが、登校拒否児が学校へ行く時間になるとお腹が痛くなったり発熱したりするのと同様の症状だったのだと思います。
苦手な男子生徒は気に入らないことがあると暴力を振るうという認識から学校で顔を会わすのさえ嫌になりました。
冬休みの間に私が「男子生徒に対し酷いことを言う性格の悪い奴」だと噂が広まったようで、それ以降「あいついい奴だぜ」と勧めてくるような人はいなくなりました。
誰しも「いい奴」を「性格の悪い奴」に勧める事はしたくないでしょうから。
私自身、正直目に入らなければいいと思っていたので、発言を撤回するつもりも謝るつもりもありませんでした。
そんな私の態度は一部の女子生徒からも疎まれる対象になったようで、男子生徒の友達と擁護する女子生徒達がこれ見よがしにつるんで下校するようになり、あからさまに教室の輪から外されました。
男子生徒はその中の1人と付き合い始めたと噂が届きましたが、騒動にうんざりしていた私は極力視界に入ってこないでくれと願っておりました。
卒業間際になって「口が悪いと損をするから気を付けたほうがいい」みたいなことを親しくもない男子生徒から言われた時には(今後可能な限りこの人達とは関わりたくない)と思ったものです。
存在を受け入れない私の性格は褒められたものではありませんが、好きでもない人と付き合うくらいならキッパリ嫌ってくれた方がマシです。
幸にして苦手な男子生徒とその仲間達とは進学する高校が違っていたので、その後の付き合いはなくなりました。
男の友情とは「俺はお前のこといい奴だってわかってるぜ」と友達にアピールし、性格の悪い女(私)を諫めることを指すのでしょうか。
私は苦手な人とは付き合いたくないし、その人の友達とも仲良くしたいと思っていないので「あんたに説教される筋合いはない」と反論したいところでしたが、そもそも口論をするほど親しくもないので言いたい奴には言わせておくことにしました。
人を否定するのではなく受け入れるようにするべきだということは重々承知しております。
「いい奴」と評価されている人を私の一方的な感情で否定することは間違っているし、私ごときに否定されれば怒りたくもなるでしょう。
ところが私のそんな偏見をさらに強固なものにする出来事がおこるのでした。
それは私が高校へ進学してからできた友人Oさんを通じて、Oさんの部活の先輩Hさんとも会話するようになり始めた高校2年生の頃のことです。
Hさんと仲良くしている友人にTさんという人がいました。
Tさんのことが好きになったOさんが、Hさんを介してTさんと付き合うことになったのですが、Tさんはいわゆるチャラ男で付き合っている女性以外にも手を出すような人でした。
不実なTさんの行為に対するOさんの悩みを一緒に聞いてあげているうちに、Hさんと私はそれなりに親しく話すようになったのですが、Oさんは親身になって話を聞いてくれるHさんに好意を寄せるようになり、Hさんはどうやら私と親密になりたいような雰囲気になってしまいました。
そもそもの元凶であるTさんは別の女生徒と大っぴらに付き合うようになり、その女生徒がOさんの友人でもあるという大変胸糞悪い状況に陥りました。
HさんはTさんの友人とは思えないくらい気配りのできる人でしたので、一緒に行動するのは苦ではなく、放課後2人で下校したりと、側からは親密な関係に見えたかも知れませんが『Oさんと親しい先輩のHさん』以上の気持ちにはなれずにいたように思います。
OさんもHさんとどうなりたいのか分からない微妙な関係を続けていたので、なんとなくHさんとは距離を置くようになりました。
2人きりでは会わず、親しげな雰囲気にならないように挨拶を交わす程度の距離感。
そこへ物言いをつけてきたのがT。
「Hの気持ちを弄んでコケにした女は許せねぇ。ぶっ殺してやる」と私に難癖をつけ、危うく暴力沙汰に発展するかと思いました。
というのもTはOさんに性的虐待をしたばかりか、Oさんの友人に対してのDVが発覚して退学処分を受けるほどのことをしでかしていたのです。友達のためという大義名分を掲げて何をされるか分かったものではありません。
(弁明させていただくと、Hさんとは休日に一緒に買い物をしたりするくらい仲は良かったのですが、手を繋ぐことさえしていない関係でした)
Oさんのことは散々振り回し、恋人として付き合っていた筈のOさんの友人を暴力で従わせ、Hさんと距離を置いた私を殺すと豪語するT。
それでもHさんはTと付き合いをやめることはせず、Oさんを慰めながらも「あいつも良いところはあるんだ」と、まるで少しのことは多目に見てやれと言わんばかりの態度に、男の友情は歪んでいると思えてなりませんでした。
暴力や傲慢な態度をとられても、それくらい我慢するのが当然だとでも思っているのでしょうか。
きっと思っているんでしょうね。
「あいつはいい奴」なんだから受け入れられない方が「悪い奴」になるんです。
結局OさんとHさんは付き合うことになりました。
自然とまとまったという感じで、めでたしめでたしとなるはずでした。
Hさんが女の友情に割り込んできさえしなければ。
Oさんとは卒業後も連絡をとっていましたが、どういう経緯か私の連絡先がHさんに伝わり、HさんがOさんとの付き合いで悩んでいると私に相談してきたのです。
そのうちHさんはOさんとは関係のない話で連絡をしてくるようになり、2人で会おうなどと言い出すようになり、今どこに住んでいるの?としつこく聞いてくるに至り、益々男の友情の定義が信じられなくなりました。
私はOさんの友人で、Oさんを傷つけたTが大嫌いで、Tと友人関係を続けているHさんに対して良い感情を持っていないということが分かっていないようでした。
過去には親しくしていた時期もありましたが、恋人であるOさんを蔑ろにするような言動を取るHさんに対し、私がなびくとでも思っているのでしょうか。
HさんまでOさんを悲しませる気ですか?
Tの過去の悪行についてHさんは大したことではないと思っているのかも知れませんが私は違います。
それこそ「友人をコケにする男は許せねぇ」です。
結果、私はOさんとも距離を置くことにしました。
Hさんとの関係を誤解されて拗れたりする前に、2人から離れた方がOさんの友人でいられると思ったからです。
Hさんに対しては当初はやんわりとお断りしていましたが、その後着信拒否させていただきました。
社会人になってからも難解な男の友情に出くわすことは多々ありました。
1人でサボっていると思われたくないのか、わざわざ一緒にタバコ休憩(?)をとり、仲間意識からか何かと擁護し合う人達など最たるものでした。
もちろんそんな人ばかりではありませんが、やたらと徒党を組みたがる男はどこにでもいました。
仕事で度々ミスをする人、遅刻が多い人、言葉使いや態度が横柄な人、机の周りが乱雑な人…。
「こいつはいい奴」なんだから少しのことは多目に見てやれ?
いい奴だからと多目に見てあげられる人がその人からも「俺のことをわかってくれるいい奴」認定されるのでしょうね。
それを受け入れられない私は「嫌な奴」になるんです。彼らの定義では。
残念ながら何でも笑って許してあげる広い心は持っておりません。
「こいつはいい奴」だと思っている人同士がお互いをフォローしあえば良いのです。
というわけで私は引きこもります。
どうぞ私の視界に入らないところで好きなだけ気持ち悪い友情を育んでください。