記憶の欠落2
────「起きろ、起きろ」
僕は、必死な声を聞いて目を覚ました。
「聞こえるか?」
聞こえている。聞こえているけれど声をだせる気力はない。意識も朦朧としている。
「セン隊長、生存者の意識が回復したようです!」
「なに?」
こちらへ近づく足音が聞こえる。
「俺は月の騎士セン、聞こえるなら目を2回瞬きさせろ」
僕は二回瞬きをして見せた。
「聞こえているようだ、運べ」
「はい!!」
生きているらしい。何があったのだろう。
あの光、音、衝撃波。一瞬で何もかもを破壊したアレは何だったのだろう。僕は出せる力をふりしぼり声を出した。
「なにがあったの…」
「魔女だ。魔女が来た。君だけだ生き残ったのは。奇跡と思え。」
僕だけが生き残ったという事実に、驚きはなかった。逆をいえば僕も死んでいたはずだ。本当に奇跡なのだろう。そして、僕の心に悲しみや怒りが込み上げてこない事に気がついた。
「とりあえず、今から城へ連れていく。君は少し休んでおけ。」
そう言って騎士は僕の目元を塞いだ。
──それからかなりの時間がたった。
僕は目を覚ました。
「目を覚ましたようだな。」
「ここは、どこ…ですか」
「俺の部屋だ。自己紹介をしよう、王国代表対魔女十騎士である、月の騎士センだ。センと呼べ。」
王国代表対魔女十騎士…?
魔女もまだわからないが、それに対抗する騎士ということだろうか。
僕は記憶が欠落している。分からない事に分からない事。僕の記憶はさらに欠落しそうだった。
「君、名前は?」
名前、みんな僕のことをハルと呼んでいた。
僕の名前は
「ハル…だと思います」
「だと思います…か。記憶が飛んでいるか?無理もない。あれじゃそうとうな衝撃を受けているはずだ。ショックもでかい。精神的におかしくなっても仕方ないだろう。」
「いや、その…実は、僕、なにもかも…魔女が来る前に…記憶が無かったんです。」
正直に言ってみた。王国の騎士ならば、どうにかしてくれそうだ。勢いで言ってみたけれど
「どういうことだ?君の記憶の欠落と魔女襲撃は何も関係がないというのか?」
「…たぶんですけど」
「どこまで覚えている?何を覚えている?」
「文字や言葉、物事の意味や、理屈、そういうものはわかります。だけど、僕が誰なのか何をしていたのか、そういうのは何も分かりません。」
そうだ。僕は言語や文字、そういったものは認識できている。僕はどこかの空から来た化け物でもなければ、記憶をなくした地底人でもなさそうだ。
「では、君の新しい記憶はいつから始まっているんだ?」
「…今日です」
僕は今日の出来事を騎士に伝えた。