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 誕生日会から4ヵ月過ぎた頃。リリアナとクリスは街中に用があり、二人で朝から出かけていた。用事は昼前に終わり、馬車道へ出るため二人で歩いていた。

 空は抜けるように青かった。


「そう言えば、教会の鐘がさっき鳴ってたわね。誰かが結婚したのかしら。今日は天気もいいし、最高だっでしょうね。幸せになると良いわね。」


 この後、自分がドン底の気分を味わうとは露知らず、リリアナはのんきに結婚した見知らぬ二人の幸せを願いながら、教会の建物の横を歩いていた。

 ここは教会の敷地で道ではない。教会の敷地は広く、建物の正面からさらに少し歩いて敷地を出たその先が馬車道である。


 建物の横を抜けると、教会の入口にジェラルドが立ってるのが見えた。彼は正装をしていた。二人で近づいていく。


「ジェラルド、そんな格好でどうしたんだ? 誰か知りあいの結婚式かい?」


 クリスが聞くとジェラルドが嬉しそうに言った。


「あっ、言ってなかったな。兄さんが結婚したんだ!」


「結婚した?!」


 その瞬間、リリアナは目の前が真っ暗になった。体から力が抜け、倒れそうになる。クリスが慌てて抱き止める。


「姉さん! どうしたの? しっかりして! 大丈夫?」


 リリアナはハッと我に返った。


「えっ、今結婚したって言った? 結婚したって何? 何なの! 聞き間違いよね。知らないわよ。結婚するなんて聞いてないわよ。そんなこと一言も言ってなかったわよね。嘘よ。彼が結婚したなんて嘘でしょ。嘘よねえ。違うわよねえ。イヤよ、そんなの絶対にイヤよ!!」


 私はパニックを起こして、気がついたら泣きながら叫んでいた。


「ちょっと姉さんしっかりして! 大丈夫? どうしたんだよ! 一体何が起こってるんだよ。しっかりしてよ!」


「えっ、リリアナさんどうしたの? 大丈夫?! なんで泣くの? 結婚って、結婚したのがショックだったの? ……何で? どうして???? ……えっ、まさか兄さんのこと好きだったの? ……本当に兄さんが好きだったのか……」


 ジェラルドもびっくりして、呆然としている。


「知らなかったよ………兄さんと知り合いだったのか……」


「えっ、お前の家に行ったとき会ったじゃないか」


「えっ、そうなの?、兄さんに会ったの?」


「何言ってるんだ、テラスでお茶したじゃないか」


「えっ? あれはジュード兄さんだよ」


「「はあ????」」


「えっ? 何?」


 ジェラルドは不思議そうな顔をする。


「ジュードさんが結婚したんじゃないのか?!」


「違うよ。イアン兄さんだよ。……えっ? 言ってなかったっけ? 兄さんはもう一人いるんだよ。今日結婚したのは一番上の兄だよ。」


「「ええっ!!!!」」


 私は力が抜けて座り込んだ。クリスも呆然としている。



「何があったんだ……騒いでいるような声が聞こえたが」


 教会の私達が通った場所と反対側の建物からジュードが走って出てきて、一番近くにいたジェラルドに声をかけた。そして、その場に居る3人の異様な様子に驚く。

 女性が座り込んでいるのに誰も助けないどころか、呆然と立ち尽くしている様子に思わず声をあげた。


「一体何が起こったんだ!」


 座り込んでうなだれている女性の側に跪いて声を掛け、肩をゆする。


「大丈夫か、しっかりしろ!」


 女性は涙でグシャグシャな顔で呆然とジュードを見上げた。


「リリアナさん?! 何が」


 目が合った次の瞬間、彼女が叫んだ。


「なんなのよ! 来るのが遅いわよ! ビックリしたじゃないの! ビックリしたんだから。結婚したって、結婚したって」


 そう言うと泣きながらジュードに抱きついた。


「えっ? はっ? ど、ど、どうなってるんだ? ちょっと……何で? 結婚って…………何で怒ってるんだ? 兄さんが結婚したのがショックだったのか? ええっ! まさか、兄さんのことが好きなのか?! ……そうか、兄さんが好きだったのか……」


 ジュードの声は最後急に小さくなり聞き取れなかった。

 再び始まった勘違い劇場にジェラルドは慌てて言った。


「兄さん違う! ちょっと聞いてる?! 違うよ。違うからね。それじゃあさっきの二の舞じゃない。よく聞いてよ。リリアナさんはイアン兄さんのことが好きなわけじゃないからね! リリアナさんは俺に兄さんが二人いるのを知らなかったんだ。だから俺が兄さんが結婚したって言ったら、ジュード兄さんが結婚したと勘違いして」


「そうか、そうなのか。イアン兄さんが好きな訳ではないのか……はあ……ビックリした。てっきり……いや、ちょっと待て! それで何で彼女が怒るんだ! 意味が分からない。俺が結婚しようと彼女には関係な」


「姉さんはジュードさんが、好きなんですよ!」


「俺を好き??? まさか、そんなわけはない! 会うたびに怒らせてるんだ」


「そうよ。うっ、好きなんかじゃないわよ、嫌いよ。ぐすっ」


 リリアナはジュードに抱きついたまま泣きつづける。


「そうだろ? じゃあ手を離してくれるかなあ」


「嫌だ、絶対離さない、うっうっ」


 リリアナはさらに抱きつく。ジュードは真っ赤になった。


「姉さん、嫌いな相手が結婚するって聞いてなんで泣くんだよ!」


「知らないわよ! だってだって、ぐすっ……何でか知らないけど腹が立って、腹が立つから涙が出るんだから」


「諦めが悪いなあ」


 クリスが呆れたように言う。


「なあジェラルド、どうしたらいいんだ?!」


「……俺にも分からない」


「はあーーーーっ。姉さん、嫌いって言い続けてたらジュードさん他の人と結婚するよ。いいんだね」


「うう、嫌いだけど、他の人と結婚したら許さない。二度と口きいてあげないんだから!」


 涙が止まらない。


「ここまで言われて羨ましいような、羨ましくないような」


 ジェラルドがボソボソと言う。


「ああもう! ジュードさん、とりあえずこのままじゃ埒が明かないから、姉さんをどこかへ連れてってもらえませんか? いつまでもここに居て醜聞(しゅうぶん)になると困るので」


「どこかとは?」


「そうだな、とりあえず馬車があそこに迎えに来てるので、そこへお願いします。うちに連れてくと大騒ぎになるから帰れないし。それで……馬車を停めたままという訳に行かないのでアダラートの丘辺りへ向かったらどうかな、落ち着くまでの時間稼ぎに……」


「分かった」


「馬車で待っててください。お腹すくだろうから何か買ってきます」


 クリスはそう言うと駆け出した。



「馬車へ移動するよ。ちょっとごめんね」


 ジュードはそう言うと、リリアナを抱き上げた


「えっ、ちょっと待って。離して!」


「少しの間、静かにしてくれる?」


「ハイ」


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