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家に帰ると早速医者が呼ばれ、診察を受けた。
診察後、母と二人で先生の話を聞く。
「どこも異常がないですね」
「そうですか」
どういう状況で胸が痛くなったか聞かれ、思い出したことを簡単に答える。
「話を聞く限り、病気ではないので大丈夫です。安心して下さい」
「そうね、大丈夫そうね」
母と先生はニコニコしているが、よく分からない。
「どういうことですか?」
「痛くなった状況を冷静に考えると分かりますよ。いたって健康です。若いっていいなあ」
「痛くなった状況を冷静に考えるとわかる……?」
私がぼーっと考えているうちに二人は部屋からいなくなっていた。
「姉さんは大丈夫なの?」
先生と母親がリリアナの部屋から出てくるとクリスが駆け寄った。
「極めて健康ですよ。安心してください」
「リリアナは元気だけど、お取り込み中だから、しばらくそっとしといてあげてね」
母親がウインクをした。
「はあ……大丈夫ならいいんだけど。何だったんだ。あっ、ジュードさんが心配してるだろうから連絡しておこう」
『痛くなった状況を冷静に考えたら分かりますよ』
リリアナは先生に言われてから、その状況を一つずつ思い出していた。
「初めに心臓がバクバクしたのは確か武者震いだったわ。クリスが震えてないとか何とか言ってたけど知らないわよ、ジュード様が出てきた時よ。それから目が合うたびドキドキして……なんか心臓に悪い男ね。
二人きりで話をして、顔をみると胸が苦しくて。セドリック様をオススメされて、あの辺りから、すごく苦しくなってきたわ。
人の仲を取り持つ暇があるんなら自分をどうにかしろっていうのよ。彼女もいないくせに。私が大人しいと普通じゃないって、失礼じゃない。私だって場所ぐらいわきまえて振舞えるわよ。
意地悪を言ったり、心配して悲しそうな顔したり、私をどうしたいのかしら? ああやって女性を翻弄してたらしこむのね……
分かったわ! ジュード様が女タラシだからなのね! それもジェラルドと段違いの破壊力があるから、私の心臓が攻撃を防ぎきれなかったわけね。ジェラルドの攻撃をかわせるからと余裕ぶってたのが、いけないのね。油断大敵だわ。さすがジェラルドを凌駕する男。私の気がつかないうちに、本領発揮してたって訳ね。恐るべし。次は絶対に引っ掛からないわ。きっと勝って見せるわ!」
リリアナは拳を握りしめた。
普段察しの良いくせに、なぜかジュードが女タラシのせいだと結論を出す。そして、そのまま安心して眠った。
夕方、ジュードから花が届いた。
『心臓に問題はなく、健康と聞いて安心しました。お大事にしてください』
簡潔なメッセージが添えられていた。
「わあ、綺麗な花」
リリアナは花束をギュッと抱きしめた。
「さすが、タラシね。ソツがないわ」
それから、カードをベッドの側に大切そうに置き何度も眺めては満足する。そして机に向かい、いそいそと封筒と便箋を取り出し、礼状を書く。
「うん。まあベストではないけどこんなものかしら」
そして手紙を届けてもらおうと、メイドを呼んだ。
ジュードは手紙を受け取った。
『お見舞いのお花ありがとうございました。
御心配をおかけしましたが、次は油断しないので、大丈夫です。
お仕事頑張って下さい。今日はありがとうございました』
手紙を読んで首をかしげる。
「『次は油断しないので大丈夫です』ってなんだ? どういう意味だ? 油断しなければ、胸は痛くならないのか? そんなわけないだろ!」
しばらく考えたが、理解することを放棄した。
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☆クリスとジェラルドの会話
「こないだ姉さん胸が痛いって言ってたのにさ、なんか前より元気になったんだよな。よく分かんないけど」
「へー、何があったんだろうな? まあリリアナさんが元気そうで良かったよ」
リリアナが、残念ながら相当頭悪そうになってしまいましたが、作者が賢くないのでしょうがない(涙)