リリアナの恋心 後編
『先日は、酔っている私を親切に介抱して下さったにも関わらず、嫌いとひどい言葉を投げつけてごめんなさい。
本当に嫌いと思ったわけではなく、八つ当たりでした。本当にごめんなさい。心から謝罪します』
そんな手紙を書いてから2日後返事が来た。
『手紙をありがとう。君に嫌われるようなことばかり言っていたので心当たりがありすぎた。本当に嫌われているのではないと分かり安心しました。こちらこそ、いつも意地悪ばかり言って本当に申し訳なかった。
また君に会いたいと思っている』
手紙と共に花が届いた。リリアナは花を抱きしめる。
「まあ、綺麗な花ね。手紙と一緒に贈ってくるなんて……これには意味があるの? 単なる礼儀的なもの?」
『また君に会いたいと思っている』
これってどういう意味? 深い意味はないのかしら? これは期待したらいけないのかしら? ああ、どういう意味だろう? 布団の上を転げ回る。
「もうどういうことよ! 思わせぶりなことを書いて、花なんか送ってきてどうしたいのよ! 思っているだけで、会う気はないの? 一体どうしたいのよ! ハッキリしなさいよ!」
枕に向かって叫ぶ。
コンコン。ノックの音がした。
「姉さんうるさい!」
アマンダにまた怒られた。
ジュードの意味深な言葉のせいなのか、一日中ため息が止まらない。
「はあ、どういう意味だろう? 本当に会いたいの? 社交辞令? どっちなのー!」
思わず叫んだ。
ドン!
「うるさい!」
ドアをノックするのが面倒くさくなったのか、壁を叩かれた。
リリアナは意を決して母親の元を訪れた。
「お母様、あの、男性をお茶に招待してもよろしいかしら?」
リリアナが恐る恐る言うと、母親はパアッと顔を輝かせた。
「例の好きな人ね! あの近衛騎士の方? それとも別の人?」
お父様から、私には好きな人がいると聞いたのだろう。
「えっ? 近衛騎士? いや、そうなのだけど、なんで?」
「あの胸が苦しくなった時の彼なんでしょ」
「あっ……近衛騎士隊の見学会」
「そうよ。リリアナったら気がつかないんだもの。彼を見たらドキドキして胸が苦しかったんでしょ」
「えっ、アレってまさか」
「青春よね。いいわあ。うらやましいわあ」
母は、口調だけでなくリアクションも、14、5歳の少女のようである。
「お母様ちょっと落ち着いて。何の話だったかしら。そう、お茶に招待してもいいかしら? 彼と話がしたいのだけど、会う口実がなくて」
「ええ、もちろんよ。クリスの仕事振りを伺いたくて呼んだということにすればいいわ。あの子が近衛騎士隊で働いてるのだから。最初だけ私も同席すればいいわね。では私がお誘いしましょう」
「ありがとうお母様。よろしくお願いします」
きゃあきゃあ騒いだりして、自分の子供達より子供っぽい母であるが、頼りにはなるのだ。
こうして今日ジュードが来ることになった。
取り敢えず母親が迎えに出て温室で話し、そこへ私が合流することになっている。
精一杯オシャレをして待っていると、メイドが私を呼びに来た。ドキドキしながら温室へ向かった。彼に会うのは2週間振りである。
ジュードはこちらに背を向けて座っている。温室の扉を開け近づいて行くと、ジュードがこちらに気がついて驚いた顔をした。
「ごきげんよう。ようこそお越し下さいました」
私は緊張していたが、どうにか笑顔で挨拶をした。
「お邪魔してます」
「リリアナはこちらへ座りなさい」
母が、自分とジュードの間の椅子を指差したので腰を下ろす。メイドが新しいお茶の用意をしてくれた。
「元気そうだな」
「ええ、あなたも」
「クリスは頑張ってるようよ」
「そう」
「とても真面目にやっているよ。剣の腕もどんどん上達してるし」
「それにしても、ジェラルド様も格好いいけど、ジュード様も凄くいい男ね、リリアナ。お話出来て得しちゃった」
「お母様、恥ずかしからやめて」
「だって本当のことじゃない。胸が苦しくなるのもわかるわ」
「お母様!」
私が睨みつけるより先に、母親は立ち上がった。
「じゃあ、私はこれで。ゆっくりしていって下さいね」
「えっ? あっ、はい、ありがとうございます」
ジュードは慌てて立ち上がり、礼をした。
母は私に耳元で囁く。
「ここへは誰にも近づかないよう言っておくから、頑張ってね。」
ニッコリ微笑み、去っていった。
「えー……」
ジュードが言い淀む。分かるよ分かる、その気持ち。
「あの、母は無邪気すぎる人なの。だからあまり気にしないで」
「可愛いらしい人だな」
「母の目の前で言わなくて良かったわ。抱きつかれるかもしれないから。ジェラルド様に抱きついたという前科があることだし」
「そ、そうか。伯爵は大変そうだな……」
「ええ。まあお父様は分かってるから。……あの……この前は本当にごめんなさい」
「こちらこそ申し訳ない。いつも意地悪ばかり言ってたのだから。あれで嫌われないと思う方がどうかしてる。俺のことだけど」
「そうね、とっても意地悪だったわ。でも本当の意味で嫌ではなかったから。だからと言って、これからもどうぞとは言わないけど」
「そうか。君に嫌われているからこうして話すことも二度と出来ないかと思っていた」
「そうね。本当にひどいこと言ったわね。ごめんなさい」
「君とまた話せて本当に嬉しいよ」
「えっ?」
ジュードの笑顔にドキッとする。
「君に会いたかったんだ。だから会えて嬉しい」
下を向いた。顔が赤くなる。やっぱり格好いい! ちょっと笑顔でそんなこと言われると勘違いするじゃないの!
「あ、あの、この前は酔ってしまって……介抱して下さりありがとうございました」
「ああ、まあどうにか持ち堪えたし、役に立てて良かった」
「え? ……えっと、いつもはあんなに男性にもたれかかったりはしないので、その誰にでもするわけでは……」
「へえ。そうなんだ。じゃあ特別なのか?」
「え、それは」
「じゃあ、やっぱり誰でも良かったのか?」
「そんな訳ないじゃない。……あなただと安心だったから」
「そうか、俺だと安心できるんだ。じゃあ特別かな」
「……知らないわ!」
うなずく勇気が出ず適当にごまかしてしまう。
「やっぱり家族枠かあ。家族じゃないのに加えてもらえてるから喜ぶべきなのか」
「家族枠ではないけど」
「じゃあ何?」
答えられなくてお茶を飲んで誤魔化す。
「まさか、都合がいい枠か。近衛騎士だし、弟の友人の兄だし、安心安全、虫除けに最適ですってことか? でも近衛騎士だから安全とは限らないぞ」
「そこまで酷いこと思ってないわよ」
「本当かなぁ? まあ、いい…………それにしても、誉められ慣れてるはずなのに、何で誉め言葉に過剰反応するんだ? 綺麗だとかもう聞き飽きただろ」
「えっ? 過剰反応してる?」
「そうだ。今日も凄く綺麗だ。ワンピース姿もいい」
ジュードは、私をちらりと見て言った。
「いきなり何なの!」
恥ずかしくて真っ赤になってしまう。
「ほら怒る。何で俺が言うと怒るんだ? 別にからかってないぞ。思ってないことは言わないし。これより背中が痒くなりそうなことをいつも言われてるだろう」
「あなたに言われると、何だか恥ずかしいのよ」
「何で俺だと恥ずかしいんだ?」
「知らないわ」
「もしかして意識してるのか?」
ジュードがニヤリとして、私の顔を覗き込む。
「か、顔が近いわ」
「何で赤くなるの?」
「うっ、ちょ、ちょっと好みの顔……い、いや何でもないです」
「聞こえたぞ。この顔が好みなのか、そうかそうか。じゃあじっくり見て」
ジュードがさらに近づこうとする。
「ちょっとやめなさいよ。ふざけすぎよ」
「好きな人に好みの顔だと言われたんだ。浮かれるだろう」
「ええ?!」
今、何を言ったの? 好き? 好きな人?
「俺はリリアナさんが好きだ」
その言葉に驚いてジュードを見ると彼は真剣な眼差しで私を見つめていた。
「…………ほ、本当に? えっとそれは友達として?」
「友達としても好きだが、一人の女性として好きだ。迷惑か?」
身体がジーンと痺れる。頬が紅潮する。
「迷惑なんかじゃないわ。私もジュード様に会いたかったから、こうして来ていただいたの」
「へっ? 君が呼んでくれたのか?」
「『君に会いたいと思っている』と手紙をくれたじゃない。どういう意味か気になって気になって。いてもたってもいられないから」
「そうなのか……」
ジュードが口元を手で隠して横を向く。耳が赤い。
「先日婚約を申し込まれて、相手と会ったの」
「えっ……」
ジュードがこちらを向いた。
「お断りしたんたけど」
「はあ、ビックリした。脅かすなよ」
「フフフ。その時に思ったの。この人と結婚したらジュード様ともう一緒に居られないんだと。そしたら悲しくて怖くて。相手の人に言われたの。きみはその人が好きなんじゃないのかって。……えっと、私もジュード様が好きみたい」
最後は下を向いて言った。恥ずかしい。
「リリアナさん。嬉しい」
ジュードは私の手を取り、両手で握りしめた。
「君に会わない間、俺も辛くて堪らなかった。どうすれば君に会えるか考えてたんだ。婚約を申し込んで断わられたら、と思うと恐ろしくて出来なかった。意気地無しだな」
「でもちゃんと気持ちを告げてくれたわ。ありがとう」
私は嬉しくて、恥ずかしくて赤い顔で微笑む。
「うっ、可愛いい。綺麗な上に可愛いらしさまで加わるなんて……ああっ、抱き締めたい………。やっぱりやめておこう。抱きしめたら止まらなくなりそうだ」
ジュードは、再び私の手をギュッと握り締めた。
「ジュード様ったら、落ち着いて」
私達は顔を見合わせて笑いあった。
その後ジュード様は私に求婚してくれた。お母様はとても喜んでくれて、危うくジュード様に抱きつこうとしたので、私が止めた。
(終)
この後、近いうちに、ジェラルドが主役の話を2話投稿します。リリアナと家族も登場しています。




