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ジュードは私を座席に座らせてくれると、隣に座った。彼が、そっとハンカチを差し出してくれて、慌てて、涙をぬぐった。化粧はほとんどしてないのが救いだが、ひどい顔だろう。
ジュードに抱き上げられてやっと私は、我に返った。ジュード様に抱きつくなんて恥ずかし過ぎる。そう思うと真っ赤になった。その後、もしかしたら彼はすごく嫌だったかもと考えて今度は青くなった。
それにしても何てことをしたのだろうか、あんなことで大騒ぎするなんて。自分で自分がサッパリ分からない。
しばらくして、クリスが「開けますよ」と声をかけて馬車の扉を開け、飲み物と食べ物を差し出した。
「御者に話はしてます、それと家の方にもちゃんと話しておきますから、落ち着いたら送ってきていただけますか?」
「分かった」
「丸投げして本当に申し訳ありませんが、俺の手には負えないので、よろしくお願いします」
「クリス、家に帰る」
私はこの状況から逃げようと、最後の悪あがきをする。
「却下! このまんまじゃ気まずくて、友達どころか知りあいの状態にも戻れないよ。一生逃げ回るの? 俺もジェラルドも困る。自分で責任とって、ちゃんと謝ってきて。じゃあ行ってらっしゃい」
クリスはバタンとドアを閉めた。
『ジュードさん押し付けてごめんなさい。騎士として信頼できるジュードさんならどうにかしてくれるかと思って……』
クリスは心の中で謝った。
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☆リリアナ視点です。
ジュードは飲み物を渡してくれた。
「とりあえず飲もう。喉が乾いただろう」
二人で飲み物を飲む。その後、服の乱れを直し、髪もとりあえず直してジュードをチラリと見る。
ジュードはリリアナが身繕いする間、窓の外を眺めていた。
向かい合わなくてすむよう二人は隣に並んで座っていた。リリアナが恥ずかしくないように色々気を遣ってくれていると思うと、優しい人なんだなあと思う。
「あの本当にごめんなさい。その、抱きついたりして嫌だったでしょ?」
リリアナは恐る恐る話しかけた。
「嫌ではない」
「えっ? あの、えっと……」
あっさり言われて、言葉に詰まる。嫌がられていないようで少しホッとした。
「お腹すかないか?」
「す、すいたかも」
「じゃあ食べよう」
ジュードがクリスの買ってきたサンドイッチを渡してくれて、二人で無言で食べる。
「これ、うまいな」
ジュードが、そう言いながら笑いかけてくる。
「えっ? ええ」
いつまでたっても彼の笑顔に慣れない。彼が笑うたびにドキッとしてしまう。
しばらく二人で黙って食べた。リリアナが食べ終わるとジュードが話しかけてきた。
「リリアナさん」
「はい」
「俺のどういう所が嫌いなの? 心辺りは色々あるんだが」
彼は悲しげな顔で聞いた。私は我に返って考える。
「えっと? 何だっけ、嫌味なところと、意地悪なところと。あと、えっと、一緒にいると負けた感じがするの」
「どういうことだ?」
「無駄に記憶力がよくて揚げ足とったりするのに、騎士の時は真面目で、優秀で頼りがいがあって危うくギャップ萌えしそうになるし、目が合うとドキドキして胸が苦しくなって、心臓に悪いし。何だかいつも負けた気がするの。あなたといると振り回されるのよ。」
リリアナはそうよ、そうだったわ。やっぱり私はあなたが嫌いよ。と考えながら涙が出そうになる。
ジュードは少し赤い顔をして口元を押さえた。そして、ためらいながら話し始めた。
「ゴホン……えーっと、嫌みなのと、意地悪なのは分かった。それは確かに嫌いであるには充分な要素だ。なぜかきみと話してるとああなるのだ。申し訳ない。からかうと反応が可愛いくてつい」
「だから、その最後の一言が余計なんです!」
「そうなのか? それはまあ置いといて、それ以外のところは全く嫌いに聞こえて来なかったのだが……君に嫌いと言われると悲しいが、さっきの話ではあまり嫌われてる気がしないのだが……と言うか告白されてるようにすら……」
最後はぼそぼそと小声になり聞き取れなかった。
「えっ、そうなの?」
「目が合うとドキドキして胸が苦しくなるって、よっぽど恐ろしいか好きかじゃないかなあ?」
「えっ、でも」
「君は、嫌いな相手や目が合うと恐ろしい人に抱きつくのか?」
「うっ……」
思い出して真っ赤になる。どういうこと?嫌いじゃないなら好き? 抱きつけるのは好きだから? そもそも結婚するって聞いて何であんなに取り乱したのか?
ジュードはリリアナの方に体を向けると笑顔で言った。
「こっちを、向いて」
「えっ何? 近いわ」
「抱きつかれたときに比べたら遠いよ」
彼は私の目をじっと見つめる。
「俺は、リリアナさんのことが好きだよ」
「えっ、ジュード様……」
息が止まりそうになる。心臓の音がうるさい。
「えっ、嘘、でも……そんなわけない」
「俺もどうやら、いつの間にか好きだったみたいだ。だから君に会うと嬉しくて、ついついいじめたくなったんだな。ガキみたいでごめん。」
「えっ、本当に私のことが好きなの?」
「ああ。だから抱きつかれて驚いたけど嬉しかった」
ジュード様が私を好き。私を好き。私のことが好きなの?!
「こっちへ来てくれないか?」
吸い寄せられるように近寄ると、抱き締められた。
たくましい体に抱き締められ、彼の匂いに包まれて真っ赤になった。その後じわじわと喜びが込み上げてきた。うれしくてうれしくて涙がポロポロ流れる。
「どうして泣いてるんだ?」
彼が驚いて体を離した。
「うれしくて、幸せでたまらないの」
そう言うと、ジュードがビックリしたように目を見開いた。そしてまた抱き締められた。
「俺も幸せだ」
彼は嬉しそうに笑った。その笑顔に私もますます嬉しくなり、笑顔になる。
「リリアナさん、君が笑ってくれると嬉しくて堪らない」
そして私の頬にそっと手を当て愛おしそうに優しく撫でた。触れる手が気持ち良くて目を瞑った。
反対の頬に唇がそっと押し当てられて優しくキスをされた。夢見心地で、でも彼の唇の感触は、はっきりと感じた。体が熱い。
ジュードの顔が離れた。
「こんなに幸せなのはジュード様が好きだからなのね」
彼は目を潤ませると私を強く抱き締めた。
しばらくそうしていた後、彼は私の頬に触れた。優しく親指で涙を拭いた後、目尻にキスをする。顔が離れたかと思うとすぐに唇に暖かいものを感じた。
彼は何度も何度も優しく確かめるように唇を落とした。
彼に大切にされていると感じて胸が震えた。私も彼の体に手を回して抱き締めた。




