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非日常に飛び込む前の日常

 キーンコーンカーンコーン。


 「ふぁ~あ……」


 今日最後の授業。その終わりを告げるチャイムと共に翔琉(かける)は大きく欠伸をした。そのままHRが始まり、号令と共に解散。今日も今日とて何も無い、平凡極まりない学校生活だった。


 「さて、と」


 翔流は荷物を持ちあげると、誰よりも早く教室を飛び出していく。しかしその目的は帰宅することではなかった。

 軽い足取りで階段を二段飛ばしに駆け上がると、二回ほど往復した所で屋上へと続く扉の前まで辿り着く。そして、勢いよくその扉を開け放つ。

 扉の向こうからは目を焼くような強烈な日差しと、それに反して夏の終わりを告げるようなほんのり肌寒い空気が流れてきた。

 強烈な日差しに目が慣れてきた所で、辺りを見回す翔流。すると、二人の少女が右奥のフェンス前に設置された茶色いベンチに並んで座り談笑している姿を見つけた。


 「雪乃、ナディア!」


 翔はそう叫ぶと、二人の少女へと駆け寄っていく。その呼び声に気付いた少女達も会話をやめ、駆け寄ってくる少年の方へ目を向ける。

 二人の元へ辿り着く少し手前で速度を落とし、その前に立つ翔琉。それを見た二人の少女は、


 「遅かったわね」

 「遅かったじゃない」


 と、口々に文句を言ってくる。されど、それを受けた方の少年に大して気にした様子は無かった。


 「ごめんごめん、HRが長くてさ」


 そう言うと、定位置である二人の少女が座っているベンチ。その横に設置されているもう一つのベンチへと腰掛けた。


 「で、例の件だけど、しばらくは現状維持でいいわよね」


 翔琉が腰を下ろすや否や間髪入れず口を開いたのは黒髪ロングの少女、成瀬雪乃(なるせゆきの)だ。普段は物静かでおしとやかといった感じ。なのだが戦闘中、そして怒らせた時はとても恐ろしく、いっそ清々しいほど容赦がない。


 「まあ、一日置きにしか来ないとはいえ、こっちから攻められないわけだものね」


 その言葉に反応したのは、金髪ポニーテールの少女、ナディア・メイ・ディアス。言動こそきついものの、その言動に反して面倒見がとても良く、自然体で周りへの気遣いを振りまいているので男女問わず人気が高い。


 「夜になると次元の境目が緩くなる、か。めんどくさい話だよな」

 「この街にしか次元の穴を繋げない、っていうのは確かに厄介な話ね」

 「次元の繋ぎが緩い土地、か。全く、ベタすぎて笑えやしないわね」

 「あら、そんな事言ったら、世界征服なんて更に笑えないわよ」


 身も蓋もない事を言う雪乃だったが、それには他の二人も同感だった。まるで……。


 「どこのゲームだ、って話だよな。全く」


 その言葉を笑おうとして、笑うことが出来ない三人が同時に溜息を吐く。


 「あたし達が言える話でもないわよね」

 「能力やら魔力やら、言っててばかばかしくなってくるわ」

 「全く……。こんなものがなけりゃ平和にのんびり過ごせたのにな」


 翔流の言葉に雪乃が今までと声色を変え、少しばかり真剣な口調で呟く。


 「知らない内に世界が滅んでもいいならそれでも良かったかもしれないでしょうけどね」


 それにつられてという訳ではないが、ナディアもその端正な顔立ちを真面目なものに変える。


 「気づいたらいつの間にか死んでいましたって?あたし達が何もしなければ大多数の人間は確実にそうなるでしょうね」


 二人の言葉を受けてその現実が改めてのしかかってきたのか、翔流がいかにも面倒そうな表情を浮かべて呟く。


 「はぁ。何か損した気分だな……」


 それからしばらく会話を続けたものの現状見出せる新しい案は何もなく、収穫の無いままいつの間にやら屋上が夕焼けに染まってきた。会話に使った熱量に対して得たものが殆ど無いものだから、その疲労たるや。


 「日も暮れてきたし、そろそろ帰ろうぜ」


 このまま続けても進展は無い。漂うその空気を代表してそう翔流が言うと、二人の少女もそれに同意した。

 そして三人揃ってゆっくりと立ち上がり、各々床やベンチに置いていたカバンを持ち上げる。


 「じゃあまた後でね」

 「遅れたら承知しないわよ!」

 「はいはい」


 これで何度目になるだろうか。非日常に飛び込む前の日常的なやり取りを交わした後、三人並んで帰路へとついた。

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