5話 白い粉
飛行機は羽田空港に着いた…
着いた途端、電話が鳴りまくる。
でるわけにはいかない。
留守番電話を聞いてみた。
親方だ…
「祝儀返しに来い!」
留守番電話へ怒鳴りまくっていた。
他の者からも何件も入っていた。
心配してくれてのメッセージも中にはあったが…
俺はその留守番電話を聞いて
携帯電話を半分に折り、
空港のゴミ箱へ捨てた。
その瞬間
自由になった。
1人息子は居たが…
田舎に帰るわけにも行かず
東京で行き場所を探した。
刑務所の中で知り合った人を訪ねて
歌舞伎町に向かった。
とりあえず携帯電話を用意しないと
いけない。
路地裏で売っていたプリペード式携帯を手に入れた。
刑務所で友達になった先輩に電話をしてみた
すぐに繋がった…
「もしもし吉田です」
「よっちゃん どこ 来なよー」
と言った感じで、
昔の友より、心にスッと入ってきた感じだった。
先輩に聞いた道を進んだ
そこは
歌舞伎町の、ど真ん中の雑居ビルだった。
早速、部屋に入った。
テーブルの上には無造作に置かれた
注射器や白い粉、覚醒剤であろうものが
置かれていた。
「よっちゃんそこのやってもいいよー」
俺は迷うことなく、
この白い粉を水で溶かして腕へと注射した。
何年ぶりだろう
この感覚、
全身に鳥肌が立つ
そしてまた、この生活に戻ってしまった。
その日から俺はこの辺りでうろついた。
時にはサウナで寝て、
寝てと言ってもちゃんと寝てるわけでもない。
頭のぶっ飛んだ俺は、ホテルへ入っては出ての繰り返しで1日に3件以上もホテルを借り
あっちへ、こっちへとわけの分からない行動を繰り返していた。
毎日、何度もこの部屋に通い、白い粉を
腕へと注射した。
1週間が過ぎたぐらいの時
その部屋へいきなり人が来た。
その男は…
「入りますよ」
と言ってズカズカと部屋へ入ってきた。
何事だ…
部屋のドアが開きその男は辺りを見まわし
俺を見つけた。
「よっちゃん、こんなとこでなにしとん」
よく見ると幼稚園からの幼馴染みだ。
俺はとっさに
「久しぶりだなー」
と言い、
はぐらかしては、みたものの
その幼馴染みは先輩に向かって
「これは俺の兄弟分ですから
連れて帰りますね」
と言って俺の手を取り、その部屋を出た。
そしてまた違う雑居ビルへと移動した。
ここはその幼馴染みの所属している
組事務所らしい。
「よっちゃん、あんなとこに居たら
また捕まるぞ」
と俺に言った。
なんとカメラで俺の姿が見えたらしい。
それで探していたらしい。
俺は当分、ここで薬を身体から抜けと言われ
この事務所へ半ば監禁状態であった。
だが、1度やり始めた薬はそう簡単にやめれるわけもなく
コンビニに行くとか電話して来ると言いながら
先輩のとこへ足を運び、毎日、白い粉を
腕へと注射した。
その度、あの快感を味わい、
数時間すると
またやってしまったと言う
罪悪感が襲い掛かる。
逮捕前と同じ日々である。
そして、いつものように
注射器に白い粉を入れ、
水を吸いあげて、
注射器を上下に降りながら
白い粉を溶かす
この作業を自分でやり自分で
見て…
この白い粉にまた負けるのかと…
涙していた。
それでもやめる事すらできず
まさに…
人間やめますか?
それとも覚醒剤やめますか?
である。
寝ることすらせず、とことんやる。
俺はいつもそんな感じになる。
3ヶ月が過ぎただろうか…
幼馴染みは俺の面倒を見切れなくなったのか
あるホテルへと移した。
大久保でる。
まわりはハングル文字でいっぱいのネオンだ…
そのホテルに移っても俺はまだまだやり続けた。
そして頭のぶっ飛んだ俺は誰も信じれなくなり、幼馴染みにも、そこの組の人にも、
先輩にも、裏切られたような気持ちになり
殺すぞっ…
ってぐらいの喧嘩になった。
相手はみな、あれだけやって、
寝ないんだから
頭もおかしくなるよね
と言い、完全に病人扱いである。
その夜、俺は歌舞伎町から出て
東京駅に向かった。
手持ちのお金は15円である。
困り果てた俺は、違う人へと電話をした。
「助けてほしい」
その人は、
「またやってるのか、捕まればいい」
そう言って電話を切られた。
東京駅を見て涙が止まらない。
俺は鞄、財布、といった
持ち物を全て売り払い
3万円ほどのお金を手に入れ
そして、地元の小さな田舎町行きの夜行バスに乗り込んだ