4話 勇気
娑婆の布団はフカフカだった。
こんなに布団ってやつは気持ちのよい物だったのかとも思ったぐらいだ。
だが、ゆっくりは寝れず、朝が来た…
5年ぶりの娑婆は、俺が思ってた以上に
目まぐるしく変わっていた。
ここは、漁業が盛んな小さな田舎町…
街並みはほとんど変わりがないが、
人はどうだ…
成長していて、気持ちも、5年前とはすっかり変わっているように感じた。
仲間と話をしていても、
ひとり、取り残された気分だ…
この感じはなんだろう…
あれだけ嫌だった刑務所にさえ
帰りたいと思うほどの孤独感…
仲間はすぐ側に、いるのに…
仲間が昨日の話をしていても
俺にはなんの話なのかさえ、分からず…
どんどん距離が遠く感じる…
誰も5年前の話をする人も居るはずもなく…
ただ、ただ…取り残されている
と言う孤独感だけが俺に襲いかかる…
これが世に言う懲役ボケなのか…?
わからない…
そう思いたくはない俺と
そうかも知れないと思う俺がいた…
組の先輩、仲間、後輩達が
朝一番で迎えに来た…
面会も全て拒否してきたのに、
あの時の事など、なにもなかったかのように…
アルファードの後部座席のドアが開く…
「おはよう」
「行くぞ」
俺も言われるがまま
「はい」
と言って後部座席に乗り込んだ。
何時間も車は走り、親方の本宅へと向かった。
その道中もみんなは楽しそうに話をしていた。
その話にもついて行けず、ここでもまた孤独感が襲いかかる。
俺はいったい何をしてるんだろう。
と自問自答しながら黙って乗っていた。
答えも出ないまま…
親方の家へ着いた。
「正樹、出所おめでとう
明日から、また頼むぞ」
と言って祝儀袋を渡された。
あんなに刑務所の中で考えてきた事も
この祝儀袋を受け取ったら、また逮捕前の生活に戻るとわかっていたが、断る事も出来ず
「はい」
と言って受け取ってしまった。
「夜は飲みに行くからついて来い」
と言われ
俺は逮捕前のように、
言われたことは、嫌でもすべて…
「はい」
と言った。
繁華街をまた昔のように、ついて歩き
言われるがまま動いた。
帰り際に、
「明日はゴルフだから6時半にホテル迎えに行かすからな」
と言われ、親方は帰って行った。
俺は無言のまま、ホテルに送ってもらった。
ホテルについて部屋に入り、ソファーに座り
また自問自答した。
考えてばかりいても、どうしようもないし、この現実が、変わるわけでもないのだから
受け止めるしかないと思った。
だか、昔と違う違和感がある。
それは、あんなに仲良かった
仲間といても孤独感は取れないことだった。
時計を見るともぅ5時だ…
あっという間に時間は過ぎた。
あと少しで迎えは来る。
俺は時計を見て、とっさに支度を始め、
迎えに来る前に、
タクシーを呼び空港へと向かった。
始発のチケットを購入した。
行き先は地元の小さな田舎町ではなく、
羽田空港行きだ
"よし行こう"
"花の都、東京に"
この瞬間、俺はこの現状を打開すべく
勇気を持って一歩を踏み出した。
東京を選んだのは、理由がある。
孤独感に襲われるのは
なぜなんだと考えた。
月日、時間かも知れないと思った。
俺は約5年、娑婆とは無縁の拘禁生活をしていた。
その時間が、世の中との歯車を狂わしたのだと思った。
確かに約5年、刑務所の中で、
色んなことを考え、それなりに成長したと思っていた。
ところがどうだ…
成長どころか、話にもついていけない。
5年前からタイムスリップでも
してきたかのようだ…
それをなんとかしないといけない
と思ったわけだ。
それなら小さな田舎町よりずっとずっと
時間の進みが早い場所と考えたわけだ。
たったそれだけの答えをもって
東京へ向かった。
あてもなく東京へ…