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  作者: old Man
4/7

3話 出所


朝が来た…夢にまで見た出所日だ


誰か迎えに来るだろうか。 

不安で押し潰されそうだ。 


もぅ忘れ去られたんじゃないかという不安と、

また逮捕前の生活に戻るのではないか、

という不安が螺旋状になって、

心に突き刺さる。


ここで着てきた、作業服を脱ぎ、

私服に着替え、持物検査程度の、

簡単な出所準備を済まし、


5メートルはあるだろう、あの高い塀の前に立った。

この塀は低いようで高く

薄いようで厚かった。


門の前で仁王像のように立つ、看守に

「証拠番号! 名前!」

と最後の軍隊めいた言葉を言われた。

「76番 吉田正樹」

看守は、なにやらカードらしいものを持ち

俺の顔と、そのカードを交互に見て、 

本人確認でもしているのだろう。


少し間が空き

一言


「お疲れ様」


そして大きな鉄の扉が開いた。

ついにここから出た。


日本の刑務所は懲罰施設ではなく、

矯正施設であると言うが、

本当に生活は衣食住の整った、矯正施設だった。

だが心は

懲罰施設そのものであったと俺は思う。


我慢を知り、人の心を知り、自分を知った。 


これがここで得た最高の宝物である。


それを今後の人生で忘れることなく、

役立てて行こうと強く心に思う。 


人生の大学とはよく言ったものだが、その通りであった。


矯正施設なだけに、娑婆の事さえ考えなければ、

住めば都かも知れない。


“心頭を滅却すれば火もまた涼しの心境"


と、念じてやってきたが、 

それは強がりで、

人は、考える力もあれば、気持ちもある。

話もできるのだ。

考えない事などできるはずがない。


そこが懲役で人生の大学なのかも知れない。


刑務所での生活は

懲役中は強制に生活を強いられた

だけのもの。

だが、本当の懲役は、ここを出てからだと

俺は思っている。


自由が悪を作る事も、刑務所で気付いた事だ。


だが、人は生まれもって、悪も善も持ち合わせていると思う。


日本では三大欲求と知られてるが

世界では五大欲求として

マズローの自己実現理論や

キリスト教の7つの欲求として

7つの大罪が有名だ。


それらも、そもそもは生きる為に必要な欲求なのだが、いきすぎると、悪になるのだと思う。


"足りるを知る"

という言葉があるように、人はその事に気付かないといけないのだ。

その事も今後の人生において忘れてはならない事だ。 


出所したからといって、

罪がなくなったわけでもないし、

世の中も懲役を務めたからといって

許してくれるわけでもない。


人と人の間には、近道もないのである。


ここから真面目に働いて、どんな仕打ちを世の中から受けても真っ直ぐに折れる事なく、

一歩づつ進んで行くしかないと強く心に誓いその日を迎えた。


人間は万物の霊長にして

地球の最高傑作であり、宇宙は我々を産み出すためにつくられたのだと、俺はそう信じている。


人は良い時もあれば悪い時もある。


諸行無常である。


無常なるがゆえに苦なり


つまり人生は常ならざるがゆえに苦の連続だと言うこと。


それも俺達に与えられた 


"試練"


なのかも知れない。


幸運も災難も試練なのだと…


その時、どう対処するかによってその後の人生は

大きく、変化する。


良い時も悪い時も試されてるんだと…


人生は平坦な道ではないのだ…


成功した時も失敗した時も同じであると思う。


常に謙虚に前向きに生きなければならない。


謙虚でなくなった時、危機の始まりなのだと…


(満は損を招き、謙は益を受く)


と言う言葉もある。


どんな、お守りより


"謙虚さ"


という

お守りが1番効力があると

俺は信じて、この"謙虚さ"を

いつも持ち、

この先の人生を歩いて、行こうと思う。


因果応報と言う言葉があるように…

やった事は必ず返ってくる。

良い事も悪い事も…。


その事を知れば運命は変えることさえ

出来ると俺は思っている。


もうここには絶対に帰って来ないと誓い、

俺は元の世界に一歩を踏み出した。


それにしても、出る時はあっけないものだった。


この高い塀を背に歩いていると、母親や

仲間達が、迎えに来ていた。


組の者もそこには居た。


「お疲れ様です」


「お帰り」


「元気そうだな」


いろんな言葉が飛び交った。


出所する寸前まで色々と考えたり、自分自身に誓ったりした事を

この一歩、娑婆に出たところで全て吹っ飛んでしまった。


久々にみんなの顔を見たからなのか

拘束されてた自分が、また自由を取り戻した

からなのか…


わからない…


俺は迎えの車に乗った。 


出所前、あんなに悩んだ事も忘れて…


心弾む俺…


「なにが食べたい❓」


マクドやケンタッキーや

ファーストフード、ラーメン、焼肉と

刑務所では絶対に食べれないものを…

他にも

あれが食べたい、これが食べたいと

思っていたのに、聞かれると、

胸がいっぱいなのか、頭に浮かばない。


結果…

簡単に、うどんを食べ、

早々、実家に向かった。

1人、残してきた、息子の顔を見たかったからだ。

そして、息子と再開し、元気そうな顔を見て、ホッとした。











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