2話 刑務所
俺は受刑者となり、私服も引き上げられ
作業服となった…
そして…1年以上、居た拘置所を出た…
手には手錠をかけ、腰には紐を巻かれ、
テレビドラマで見る、あの犯罪者スタイルだ…
そして、車に乗せられ…
こんな格好でも娑婆に出ると空気はうまし、眩しい太陽も、やたら心地良い
そよ風すら感じるほどだ…
10年間以上、覚醒剤に溺れ、この太陽を心地良いと思った事も、そよ風を感じる事も
一度もなかった気がする。
忘れてた記憶を呼び戻された気分だ…
車に揺られ、懐かしい街並みを見ながら
どんどんと車は進んで行く…
1年以上、ずっと俺の面倒をみてくれた
看守はいつもと変わらぬ顔で横にいる
これでこの顔も見納めかと思うと、
さみしい気持ちになる。
そして…看守が、いつもの真面目な顔で
「吉田、これから刑務所に行くが、
頑張れよ、男は山の如くだ」
俺は何を言っているんだろうと、考えながら
「どぅいう意味ですか」
と尋ねてみた。
「山は動かなくても、そこには人が寄ってくるだろ」
そぅ言って俺をみて微笑んだ
2時間ばかり、車は走ったのか、小さな刑務所の看板が見えた。
最後の曲がり角を曲がると、
高い塀に囲まれた刑務所が姿を表した。
俺はそれをみた途端、深いため息をついた。
ここで5年という月日を過ごすのかと、
それだけを考え、この高い塀を見つめていた。
高さは5メートルはあるだろう
大きな鉄製の門がゆっくりと開く…
それ見ながら俺は「ゴクンっ」と唾を飲んだ。
そして、俺は、また全裸にされ、ケツの穴を開いてみせた。
何度やっても屈辱的だ。
そして「称呼番号」という刑務所で何をするにも必要な番号を与えられる。
「76番」
そして、いきなり怒鳴られた!
返事の声が小さかったらしい。
これまで拘置所で嫌な思いは色々あったものの、怒鳴られたことなど、一度もなかった。
本当に刑務所に来たんだと、この瞬間感じた。
入所手続きは終わり、舎房に移動だ。
そこは6人部屋だった。6畳の部屋だ。
1人一畳ってところだ…
あとは共同のトイレに共同の洗面台。
そこにはギラギラした目をしたヤツから
この世の終わりだと思わすような顔をした老人までいた。
拘置所で1年以上も、誰とも合わず1人部屋だった俺は、人と話すのに、少し戸惑ったが、
すぐに慣れた。
明日からは新入教育訓練なるものが始まるらしい。
「ヤカンヨーイ」
また拘置所で毎日聞ていた、いつもの掛け声が聞こえてくる。
1人ではないので、食事も掃除も、
全て共同作業だ。
そして新入教育なるものが始まる。
DVDを見せられたり簡単なテストをしたりした。
工場の配役に関係あるらしい。
そして…
刑務所での動き方を徹底的に教えられ、しごかれた。
大きい声で
「イッチッニ イッチっニ」
と掛け声をかけながら、
あの軍隊っぽい行進の仕方とか、
返事や礼の仕方とか…何度も大声で番号を言わされたりと…
行進の時の腕と、足の上げ方は、90度で、顔は正面を向き、指先はこれ以上ないぐらい、ピンッと伸ばして
ちょっとでも上手くできないと、すぐ怒鳴られる。
この新入教育で刑務官への絶対服従を叩き込まれる感じだ。
アドレナリン全開だった俺はここで、
闘争本能を挫かれた感じだった。
身も心もクタクタになる…
そして…面接。
どこの刑務所に行かされるのだろうと不安の中。
移動例はこうらしい
A. 初犯者、反社会的勢力と無関係者
B.再犯者、反社会的勢力の関係者
L.長期刑務所8年以上の刑が確定している者
となっている。
ここの刑務所はB級刑務所だ。
俺はこのまま、ここの刑務所に残る事になり
配役先は炊場と決まった。
受刑者のご飯を作る工場だ。
そこでは徹底的に働いた、人生で、初めてだ。
こんなに仕事したのは…
ただその時は必死だった。
1日も早くここから出たいと…
ここでは、共同生活なので、みんなとは調和をとらないといけない。
苦しい事、悲しい事、最初はどうしたらいいのか分からず、苦しんだ。
住めば都だと、よく言ったものだが…正直なところ、
苛々の日々は続いた。
だが、苛々しても、どうしようもないと気付き、自分の問題は、自分の心の中で、
噛み砕くことの出来るところまで心は強く成長していった。
ただ、小さな息子を残して来ていたので
その息子から
パパへ…
「ずっとまってるから
はやくかえってきてね」
覚えたの字で、精一杯の手紙だったと思う。
その夜、みんなに知れる事なく、
布団の中で、捕まってから2度目の涙を流した。
息子とは、もぅ離れたくないと、強く思った夜だった。
作業や日々の暮らしは、毎日、変わりなく
何年も居たのになんの思い出もなく、
あっという間に過ぎていった。
そして、ついに事故もなく、出所日を迎える事になった。
出所が近づくにつれ、あんなに望んだ出所だが、現実に戻るのが怖くなり、
もぅ少しここに居たいとまで感じたほどだ。
明日は出所日、
ラジオを聴きながら、
冷たい天井のコンクリートを無心で、
朝が来るまで、じっと眺めていた。