1話 判決
主文
被告人を懲役 5年 に処する。
未決勾留日数中60日をその刑に算入する…
私の名前は、吉田正樹
桜咲く4月…覚醒剤取締法違反、傷害事件にて
実刑判決となる…
10年間以上、覚醒剤に溺れ、友達も家族も仕事もかえりみず、組にも出入し、これ以上にない、荒れ果てた生活、世に言う不良だ。
楽しい事もあったが、苦しい日々の方が多い毎日で、本能のままに、自分を傷付け、人を傷付けながら毎日を過ごしてきた。
覚醒剤と言う白い粉を手に入れるだけの日々を10年間以上も続けた。
その為にはなんでもしてきた…
そんな日々もこれで終わりだと、この時、思った。 自由な人生もここまでだと……
私の脳裏に今後の闇への不安と…
この人生を終わらせる事の出来る一点の光を
同時に感じたのである。
懲役5年という日数を頭の中で計算するが
すぐにはわからない
えーと…えーと…そんな日が来るのか…
裁判長の、その後の言葉は頭に入らず、判決文もあっという間に終わり、退廷となった。
そして、3畳ほどの広さに畳が2畳半、
奥に洗面台と洋式のトイレがあり、隅々まで行き届いた監視のおかげで、精神的プレッシャーを常に感じるコンクリートの冷たい部屋に帰る
矯正協会のカレンダーを見るも、半年分しか記入されていない
1枚、2枚、3枚…カレンダーを指折り数えてみるが、このカレンダーを10枚も見ないといけない、半年分でも長いのにとうなだれる。
10枚なんて、想像すらつかない…
懲役5年というものを、子供の成長に当てはめてみると
小学校1年生から5年生か…
またしても想像がつかない。
出所日…今日は平成14年4月4日だから平成 19年2月4日…
そんな日が本当に来るのかと、不安の闇の中へと入って行く…
1日はゴールへ向けての1日になると何度も自分に言い聞かせてみる。
今まで見えなかった、闇の中に一点の光が見えたと言い聞かせてみる
そんな事を思いながらも…
「ヤカンヨーイ」と
拘置所内にはいつもと変わらぬ声が響き渡る…
もうこんな時間か…
お茶をもらいながら看守の
「大丈夫か?」
と言う一言に心が揺れる…
ここに来てもう1年と言う月日が流れ
接見禁止という立場で人に会えない日々を送り
この時の看守の一言には、人の温もりに触れた気がした
看守のありがたい一言に感動する
刻々と時間が過ぎる中、控訴して、まだ悪あがきをしようかと悩む。
俺の人生なんだったのかとまた悩む。
布団をひき、いつもスピーカーから流れてくるラジオを聴きながら天の冷たいコンクリートを眺める。
ここのコンクリートはいつも冷たく厚く感じる…
明日からは面会も出来るとの事だから、今日もじっと、このコンクリートを眺めながら眠りにつく。
そしてまた変わりのない朝が来た
「ヤカンヨーイ」
と言う声が拘置所内に響き渡る。
この薄暗い独居房の中に1年ほど居るが、時間も正確で、一度として遅れることのない
なんの変わりもない日々だ。
そんな変わりない日々に初の変わりがあった。
「オイっ吉田、面会だ」
看守が独居坊の前で俺を呼ぶ
看守の言われるがまま付いて行く。
「面会人は森田と近藤だ」
と言われた。逮捕前までずっと一緒に居た仲間達だ。嬉しかったが、とっさになぜだか、
「すいません、面会拒否できますか?」
との自分の声に
看守はびっくりした顔で…
「良いのか?」
と聞いてきたが、迷わず
「いいんです。」
と伝えた。
そのまま来た通路を無言のまま、あの薄暗い独居坊に帰った。
その次の日も、また次の日もその2人は来たが、結局1度も面会する事なく刑の確定日を迎え、受刑者となった。
その最後の日に1枚の手紙を森田君からもらい、その中には一言、
"1日も早い出所を誰よりも願う"と書いてあり
その日は逮捕されてから初めての涙を流して眠りについた。