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1−1 レティの企み

果たして短編として成立しているのかどうか。

ご訪問いただいた方、ありがとうございます。

 レティには最近、三人目の弟が生まれた。家族が一人増えたと喜んだのもつかの間、母はそのまま命を落とした。父は取り乱し、弟たちは泣きわめき、生まれたての赤ん坊は母を求めてびーびー泣いた。女主人を失った家は、混乱し、暗く沈んでいた。


 それをみかねたリュネ家のサイカが、しばらく子供を預かると言いだした。サイカも、五番目の息子が生まれた時に妻を亡くしていたから、女主人をなくしたプロガムの大変さがよくわかったのだ。


 夏の間、レティと、ギュンとアイの双子は、南西部にあるリュネ城へ預けられることになった。



 リュネ城に到着したその日、レティは、隙を見て、皆のいるところから抜けだす計画を立てていた。


 母がいなくなってから、弟たちは毎日泣いていた。普段快活で明るいギュンは、じっと動かずめそめそと泣き、いつも大人しいアイは、いらいらと動き回っては癇癪を起こして泣いていた。母親の死で、屋敷はたいそう混乱していた。父も使用人たちも、自分や弟たちにゆっくりと向き合っている暇などない。みんな混乱していた。


 レティは悲しみを心にためながら、すっかりおかしくなった双子をなんとかしようと、以前にも増して二人の世話を焼いた。そうしているうちに、レティは自分の気持ちが、双子にはっきりと影響することに気づいた。


 レティは、弟たちの前では、決して泣くまいと決めた。だけど、封印して来た悲しい気持ちは、レティの中でたまりにたまって、もう爆発寸前だった。


 リュネに来て、大人たちが慌ただしくしている今日しか、一人になれるチャンスはない。レティには、誰もいなくて思いっきり泣ける場所が必要だった。



 レティは、美しい庭を見ているふりをしながら、さりげなく一人になった。リュネの庭は、噂に聞いていた通り、美しく広大だったから、意外にも上手く抜けだすことができた。


 それにしても、こんな美しい庭園を築き上げる一族というのは、一体、どういう人たちなのだろう。リュネ家当主のサイカは知っているが、リュネの兄弟たちは、少し年が離れているせいもあって、ほとんど知らない。


 庭を見ながらしばらく歩いて、葦に囲まれた池を見つけた。ずいぶん来たけれど、いつの間にか城から出てしまったのだろうか?ここが城の中なのか、外なのか、広すぎて見当がつかない。


 城からはだいぶ離れているし、いつの間にか、城外に出てしまったのかもしれない。ちょうど背の高い葦も生えている。ここならば、誰かが自分を探しに来ても、涙を拭く時間ぐらいは取れる。レティはここでひと泣きすることに決めた。


 葦で隠れた池のほとりに座って、レティは泣き始めた。最初はしくしく泣いていたが、誰にも見られてない安心感から、こらえていた気持ちがだんだんと吹き出してきた。涙は顔全体に流れ、しゃくり上げはひどくなり、目は真っ赤に腫れ、鼻水も出てきた。


 きっとすごい顔になっている。でも、そんなことはどうでもよかった。だって、ここには誰もいないのだから。レティは誰にも遠慮することなく、思いっきり泣いた。



 葦がガサゴソと揺れて、何かの気配がした。


 葦をかき分けて釣り道具を持った男の子がひょこりと出てきた。男の子は、レティと同じぐらいの背丈で、焦げ茶色の髪と目をした、薄汚れた、どこにでもいる村のこどもだった。男の子は、泣いているレティに気づいて、近寄ってくる。


「何かあったのか?」


 ここはレティが、やっと見つけた、思いっきり泣ける場所なのだ。知らんぷりして放っておいてくれればいいのに、わざわざ話しかけてくるなんて、なんて気の利かない子なんだろう。


 それに、泣いているところを、誰かに見られるのは嫌だった。レティは、人前で感情をあらわすのに慣れていない。気まずくて、急いで涙をこらえようとした。


 しかし、泣く前ならともかく、泣き始めた後だったから、もう感情の抑えは効かない。目は真っ赤に腫れて、鼻水まで出て、しゃくりあげは止まらず、どう考えてもひどい。


 いくら知らない子だとはいえ、こんなところを人に見られるなんて、プロガムの長子、レティにとって、屈辱的な出来事だ。


 さっきから、男の子はレティをじっと見ている。レティが何か答えるのを待っているようだが、レティは何も答えられない。泣いているのと、慌てているのと、恥ずかしいので、それどころではないのだ。



 レティが答えないので、男の子は諦めたのか、近くに座って釣りを始めた。


 気を利かせて遠くへ行ってくれればいいものを、よりによってこんな近くに陣取るなんて。

 レティは腹が立ってきた。


 一人じゃないなら、もう、城に戻りたかった。レティは何とか涙を止めようとした。だけども、涙は余計に流れ出て、しゃくりあげもひどくなった。焦れば焦るほど、泣き止むなんてできそうにない。いつもは感情を隠すのなどお手のものなのに、今回ばかりは全く無理だ。仕方なく、レティは泣き続けた。


 それでも、しばらく思い切り泣いていると、なんとなく気持ちが落ち着いてきた。レティは、涙を拭いて、おそるおそる顔を上げた。


 いつの間に消えてたのか、男の子はもうそこにいなかった。魚を入れるバケツと釣竿だけが残されている。今なら泣きはらした顔を見られなくて済む。


 レティは急いで立ち上がり、服についた砂を雑に払い、元来た道を引き返そうと勢いよく後ろを向いた。


 その瞬間、レティは何かにぶつかって、尻餅をついた。

 先ほどの男の子が目の前に立っている。


 尻餅をついたレティを、男の子は腕を掴んで立たせた。それから、下を向いているレティの目の前に、ズボンのポケットから取り出した木の実を差し出した。


「食べる?」


 木の実はつやつやした紫色で、いかにも食べごろのものばかりだ。


 レティは、その辺の子供に、その辺に生えている見たこともない木の実を食べるように言われるという経験を、したことがない。こういう場合は、民を傷つけないように、うまく断るのが最良だが、今はとっさに言葉が出てこない。


 レティが困惑していると、男の子は、あいた手でレティの手を掴んだ。葦をかき分け、池への小道から少し入ったところにある、ひらけたところまで引っ張っていく。そこには、腰をかけるのにちょうどういい倒木があった。


「こっち。座れるよ」


 男の子は、レティを座らせ、さも当たり前のように自分も隣に座った。


「ほら」


 男の子がレティの顔の前に木の実を差し出す。レティは、なんと言えば、この村の子を傷つけずに断れるか、まだ答えを探していた。

 男の子は、レティの口の真ん前に木の実を一粒差し出した。


「はい。口を開けて」


 男の子は、にっこり笑った。

 言い訳はまだ思いつかなかった。知らないものは食べてはいけないと、厳しく躾けられてきたが、民のせっかくの好意を無下にするわけにはいかない。この子なりの、親切なのだ。


 レティは観念して口を少し開いた。男の子は、レティの口に素早く木の実を入れた。


 レティは、口の中に入ってきた木の実を、勇気を出して噛んだ。おかしなものだったら、噛んですぐ吐き出せばいい。木の実がレティの口の中で弾けた。すると、あまずっぱい味が一気に口の中に広がった。


「おいしい!」


 レティは思わず声をあげた。


「だろ?今の季節が一番おいしいんだ。全部鳥に取られてるかと思ったけど、まだ少し残ってた。よかったら、もっと食べなよ」


 男の子は自分も一つ木の実を口に入れてから、レティの手にたくさんの木の実を乗せた。


「これ、この時期にこの辺でしか取れないんだ。食べたら元気になるよ」


 そう言って、明るく笑った。



 レティが食べ終わると、男の子はポケットから、村の子が持つには不似合いな小綺麗な布を取り出した。


「目に当ててみなよ」


 またしてもレティが戸惑っていると、男の子が言った。


「君って、怖がりなの?」


 レティの腕を引っ張って、自分の膝の上にレティの頭が来るようにレティを寝転がらせる。


 男の子の無礼な振る舞いに、レティは、思わず大声をあげそうになった。


 レティの育った環境では、弟たち以外の子供と、こうも馴れ馴れしく触れ合う習慣などない。村の子供達はいつもこんな風に馴れ馴れしく過ごしているのだろうか?だとすると、決して責めてはいけない。これも、彼なりの、親切なのだ。


 レティは、自分の発言、立ち居振る舞いが民にどんな影響を与えるかを、小さいながらも良く理解していた。この子はレティが誰だか知らないくてやっている。無礼を無礼と責めることなく、この状況をうまく切り抜けるのは、レティの努めなのだ。


 レティが考えを巡らしていると、男の子がひんやりとした布をレティの目に置いた。レティは、男の子が乗せてくれた布が、鎮静効果がある草花を間に挟んで、冷やしたものだとすぐにわかった。


 知らない村の子の薄汚れた膝の上に、頭を乗せて横になっているなど、あってはならない状況だけど、男の子の親切は、レティの心に確かに届いた。悲しみだけに覆われていた気持ちに少しだけ違うものが芽生えた。


 そうすると、このおかしな状況も、だんだん悪くない気がしてきた。布で見えない空を見上げながら、飛んで行く鳥の声を聞いていると、今まで感じたことのない、不思議な気持ちで胸が溢れた。


 レティはしばらく、男の子の膝に頭を預けていた。男の子は、その間ずっと、聞いたことのない、おかしな鼻歌を歌っていた。


 目の奥の腫れぼったい熱が、だいぶ治ってきた。布は、レティの目の熱が移り、すっかりぬるくなっていた。レティは布を外して、身を起こした。そして、初めて男の子を正面からしっかりと見た。


「ありがとう」


 レティが男の子にいうと、彼はにっこり笑って、優しくレティを抱きしめた。レティはいきなり抱きしめられて、また驚いたが、もう、この状況をなんとかして切り抜けようとは思わなかった。


「何があったのか知らないけど、大丈夫だよ」


 男の子は、背中をポンポンと二回叩いた。


 その暖かい抱擁に、レティは再び涙が出そうになった。

 でも、男の子が、もう一度、背中を叩いてくれたので、泣かずに済んだ。

 レティも弟たちにするように、彼を抱きしめた。



「あの、これ…」


 レティは、布を差し出した。


「ああ」


 男の子の手が布に届きそうになった時、なぜだかレティは急に布を引っ込めた。


「綺麗にして返そうと思うのだけれど、また会えるかしら?」


 男の子は、少しおかしな顔をした後、答えた。


「うん。絶対会えると思うよ!」



 レティは男の子と明日の午前に、もう一度会う約束をした。

 そして、リュネの屋敷に急いで戻った。早く帰らないと、城ではレティがいないと、大騒ぎになっているかもしれない。


 帰りを急ぐ道すがら、レティは男の子の名前を聞き忘れたことに気づいた。明日は絶対に名前を聞こう、そう思いながら、レティは思いっきり城に向かって走った。


 城に戻ると、庭を散歩していたと嘘をついた。リュネの庭は広大だから、誰も疑いはしなかった。


「庭が気に入ったのならば、末の息子に案内させよう」


サイカが言った。


 リュネの五男が自分と同い年だというのは、もちろんレティも知っていた。でも、レティたち一行が到着した時、出迎えに出たリュネ家の中には同い年ぐらいの子はいなかった。レティが腑に落ちない顔をしたのを見て、サイカが付け加える。


「あの子は、ずっとこっちで育ってるんだ。普通とはちょと違うから、君たちを戸惑わせるかもしれないけど、悪い子じゃないから、仲良くしてやってほしい」


 しかしその日、夜の食事の時も、リュネの末息子の姿を見かけることはなかった。客人がきているのに、顔も出さないなんて、リュネの五男は噂通りの変わり者らしい。


 田舎育ちの礼儀知らずで、しかも、優秀な兄達に比べたら、格段に劣る。

 それが原因で、リュネ一族は、五番目の息子を王都に連れてこないと世間では噂されていた。


 いくらサイカの頼みとはいえ、そんな末息子と、仲良くできるのだろうか? レティは、正直、自信がなかった。

読んでいただき、ありがとうございます。

第1話は、前後各5千字ぐらいです。

次回掲載は、推敲が出来次第。

いつなんだろう(- -)

なるべく早く、頑張ります。

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