第8話「歓迎会」
歓迎会の会場に入ると、学友の他に数名の大人達が居るだけで、思っていたよりも少人数だった。
ユウトは大人数での集まりには慣れていなかったので、少しほっとした。
そしてユウト達が会場に入ったのを確認すると、一人の紳士が話し始めた。
「それでは、セレス様の直系ユウト殿の歓迎会を始めたいと思います。本日の司会はパイトス様の参謀ユキムラ・ヘレスです。宜しくお願いいたします。」
「まずは、ユウト殿について簡単にご紹介いたします。」
「彼は、セレス様の直系としては初めての魔王となります。過去にも何名か日本から転移して魔王になった方はおられますが、年齢的な問題もあって、セレス様の直系の方で魔王となった方はおりません。」
「ユウト殿の母上は、我妻メリルの姉です。なお、今回はユウト殿の妹であるセナ殿も日本からこちらに来られました。」
「今後のイーデル国を支えていただくお二人を盛大な拍手でお迎えください。」
皆の拍手の中、ユウトとセナは舞台へと上がった。
(こんなところで挨拶をするのは恥ずかしいなあ・・・・)
「皆様、日本より参りました、ユウトです。昨日いきなり次期魔王と言われたばかりで、まだ何をするのかも分かっていませんが、皆様の期待に答えていけるよう頑張っていきますので、隣におります妹のセナ共々教授いただけますようお願いいたします。」
「妹のセナです。ユウトお兄様が大好きで、ついてきました。宜しくお願いいたします。」
無事挨拶を終えてユウトはほっとし手舞台を降りた。
「それでは乾杯の音頭をシュヲルツ殿、お願いします。」
ヘレス参謀に促され、シュヲルツ調整官が前に出た。
「本日は少数での歓迎会となりますが、楽しい集まりにしてまいりましょう。それでは、ユウト殿とセナ殿の今後の活躍と、イーデル国のますますの発展を祈念して、乾杯!」
(乾杯って、これにアルコールが入っていたどうしよう。)
ユウトは少し気になったが、皆に負わせて飲み物を飲み干した。
ユウトの飲み物は昨日のことがあったので、ヘレス先生の指示の元、アルコール抜きの飲料だった。
「それでは、皆様、ユウト殿とセナ殿を囲んでご歓談ください。」
ヘレス参謀がそう言うと、魔王パイトスがユウトの元へやってきて、王妃を紹介してくれた。
王妃の名は、アクア。テレサと同じ水色の髪で、美人という言葉がぴったりだった。
「ユウト殿、アクアです。娘がお世話になりますが、宜しくお願いいたします。なんなら嫁にしていただいても結構ですので、可愛がってやってください。」
(王妃からの言われてしまった。理由は分からないけど、よほど私の嫁にしたいのかな?)
「仲良くやっていきますので、こちらこそ宜しくお願いいたします。」
王妃と話していると、鎧武者と、いかにもまさに神官と言う出で立ちの二人がユウトの元へやってきた。
鎧武者は、マリアの父で騎士団長のライネル・オニール。神官はアグネスの父でトム・マーレスだった。
(なんか異世界って感じがするなぁ。)
「ユウト殿、騎士団長のライネル・オニールじゃ。王妃からテレサ殿を嫁にと言われていたようだが、うちの娘のマリアも宜しく頼みますぞ。」
「オニール殿待たれよ。ユウト殿、うちの娘のアグネスも宜しくお頼み申す。申し遅れたが、私は神官をしている、トム・マーレスです。」
(どちらの親も、娘を私の嫁にしたいらしい。)
「若輩なので、嫁についてはまだ分かりませんが、娘さん達とは仲良くやっていきたいと思っておりますので、宜しくお願いいたします。」
ユウトは当たり障り無く返事をすると、この後、騎士団や神官について簡単に教えてもらった。
騎士団長は、この国の兵士のトップでとのことで、北の海と交流都市の警備が主な仕事と教えられた。
一方神官の仕事は、祈りを捧げるわけではなく、歴代魔王の霊廟と国民の墓地の管理をする仕事と言うことだった。
一応この国にも信仰の対象となる神様は居るようだが、それについてはいずれ授業で教えてもらえると言われた。
続いてユウトの元にやってきたのは、ヘレス参謀だった。
「ユウト殿、この国でも日本同様にいとこ同士は結婚できる。アリーナを宜しくな。」
(さすがにここまで来ると嫁の話にも驚かないな。)
「おじさんと呼ばせてもらって宜しいでしょうか?」
「ふむふむ。それでいいとも。」
「アリーナとももちろん仲良くやっていくつもりですが、なんで、皆さんは娘を私と結婚させたがるのですか?」
「そのことか、それはな、魔王の妻になるというのは、それだけでも大変に名誉なことなんだが、娘達が皆、学校でユウト殿と身近で交流し、皆ユウトが好きだからさ。まぁ、じっくりと選べば良い。何ら全員嫁にしても良いぞ。魔王だけは一夫多妻が許されているからな。ははは。」
(魔王は一夫多妻なのか。それで皆娘を嫁にと勧めてきているのかな。でも、二人目の男の子からは日本へ送ることになる。慎重に考えないといけないな。)
「嫁と言ってもまだ実感がわきませんし、この先どうなるかは分かりませんが、慎重に検討します。」
歓迎会が、娘の売り込みのようになってしまったところで、今度は、恰幅の良いおばさんがユウトのところへやってきた。
歓迎会のはじめには姿がなかったそのおばさんは、ケインの母アンナ・ロープスだった。
「ユウトさん、セナちゃん、イーデル国へようこそ。ケインの母ちゃんのアンナおばさんだよ。」
「今まで料理を作っていたから、来るのが遅くなっちまってごめんよ。料理は沢山食べてくれているかい?」
「はい、沢山いただいています。ケインがお母さんの料理はとても美味しいと言ってましたが、ほんとに美味しくて、食べ過ぎてしまいそうです。」
「セナちゃんもいっぱい食べてね。」
「はい、いっぱいたべま-す!」
「セナちゃんは将来はうちの息子の嫁にどうだい。美味しいものいっぱいだべられるよ。」
セナはこの言葉を聞くと顔を真っ赤にしてユウトの後ろに隠れてしまった。
「あれまぁ。セナちゃんは恥ずかしがり屋だねぇ。はははははは。」
ユウトが苦笑いしていると、学友達がユウトの周りに集まってきた。
そこにヘレス先生もやってきて、セナを取り囲んでの話となった。
とりあえず、セナもユウト達と一緒に学校で学ぶことになり、当然ながら住まいもユウトと同じヘレス先生の家と言うことになった。
セナはすぐに学友達と打ち解けたようで、この世界の話を興味深そうに聞き入っていた。
ヘレス先生の話だと、セナの魔法特性はオールラウンドだろうと言うことだった。
武器はこれから特性を見て考えることになった。
その後も歓迎会は続き、ユウトとセナは、この世界について色々と知識を増やしていった。
そして歓迎会が終わり皆が帰った後、魔王パイトスがユウトに声をかけた。
「今回は、内々の歓迎会だが、二年後には国民に広く知らしめるための立太子式がある。既に国民の間で噂になっているが、正式に次期魔王として国民に知らせる式じゃ。まぁ魔王といっても、あくまでも国民の一人で、ちょっと魔法が強大なだけじゃ。難しく考えず、ここでの生活を楽しんでくれ。」
「はい。有り難うございます。」
魔王パイトスはその後小声でユウトに、魔王のみに伝えられる事があるから、それについては立太子式の前に直々に伝えると言われた。
(何だろう魔王にに密耐えられる事って。)
ユウトが孫亜子とを考えていると、「では、私もそろそろ失礼するとしよう。」と言って魔王パイトスは部屋を出て行った。
部屋に残っているのはユウトとセナそしてアリーナだけになっていた。
ユウトが「帰ろうか。」というと、アリーナが「外も真っ暗だし、星を見に行こう。」というので、3人で屋上へ上った。
屋上に上ると既に外は真っ暗で空には多くの星々が輝いていた。
ここでは周りに何も遮るものがないので、360度のパノラマを楽しむことが出来た。
(本当に綺麗な夜空だな。日本にいたらんこんな夜空はきっと見られなかっただろうあぁ。)
アリーナは他の星についても教えてくれたが、ユウトはうわの空で、不安と期待の入り交じった複雑な心境で、ひときわ明るく輝くセレスをじっと見つめていた。