第7話「何でここに?」
ドアを開けると、そこに現れたのはなんと妹のセナ。
「ユウトお兄様」そう叫びながら勢いよく駆け出すと、ユウトの元へと向かってきた。
「セナ、何でここに?」
「なんでセナを置いて言ってしまうのですか。セナは寂しくて寂しくて・・・」
そう言うと、セナは大声で泣き始めた。
セナは、いつもユウトの後をついて回る超お兄ちゃん子だった。
ユウトが学校と言ってこちらにの世界で学んでいる時も、私もやると言って聞かなかったが、学校だからと言って、いつも両親からなだめられていた。
ユウトが立ち上がりセナをなだめていると、ヘレス先生がことの顛末を話し始めた。
ユウトがこちらの世界に来ると、セナが「お兄様が居ない。」と騒ぎだした。
両親からは勉強のために遠くの学校に行ったと説明されていたが、自分もその学校に行くと言ってかなり駄々をこねて両親を困らせた。
いつまでも泣きわめくセナに手に焼いた両親は、ユウトに会わせると言って例の機械を使ってこの世界へ送り込んだ。
(あーなんとなく分かる気がするな。セナならやりかねない。)
ユウトは、泣いているセナに、挨拶をするように言った。
「セナ、いつまでも泣いていては駄目だよ。皆さんにご挨拶しなさい。」
ユウトがセナにそう言うと、セナは周りを見渡し、恥ずかしくなったようで、ユウトの後に隠れてしまった。
ユウトがもう一度セナに挨拶するように促すと、セナは小声で、「ユウトお兄様の妹のセナです。」と挨拶をした。
ユウトは、セナに、ここに居る人たちを紹介し、自分がこの国の次期魔王に選ばれたと言うことをセナに話した。
「じゃ、ユウトお兄様は、もう帰ってこないの?」
「たまには日本に戻れるかもしれないけれど、この国で暮らすことになるよ。」
「じゃ、セナもここに住む!」
予想通りの答えにユウトが困った顔をしていると、魔王パイトスがセナに話しかけた。
「セナ、お前はここでユウトと暮らしたいのか?父や母とはほとんど会えなくなるんだぞ。」
「ユウトお兄様が居るところが良いです。」
「よし、では後ほどお前の両親と話し合ってみよう。ただし、お前の希望が叶うかどうかはまだわからないからな。」
「はい。魔王様。宜しくお願い致します。」
やっと笑顔になったセナに、魔王パイトスも優しく微笑んだ。
「ではセナ、お前は今、精神だけ依代に入っているから、一反日本へ戻りなさい。そして、両親にここで暮らしたいとお願いしてきなさい。両親の許しが出たら、肉体ごとこちらの世界へ連れてきてあげよう。」
魔王パイトスの言葉を聞いて落ち着いたのかセナは、「ユウトお兄様、セナはすぐに戻って参ります。」そう言うとアリーナとともに部屋を出て、日本へと戻っていった。
その後、私が両親やセナのことなどを色々話した後、魔王パイトスが「そろそろかな。」と言ってセナのことをユウトの両親と話し合うために一時離席した。
ここからは、イーデル国について簡単な話をシュヲルツ調整官から教えてもらうことになった。
「この国は元々は砂漠で、生き物は何も住んでいなかったのだけれど、初代魔王ガリウスが魔法で人が住める環境を整えました。」
「その後、竜人族を配下に加えので、竜人族に四季の調整をさせています。」
(竜人族、会ってみたいな。)
「この国は善良な人々が幸せに暮らせることを第一としているので、魔王の魔法で、他国の人々は入れないようにしてあり、国境に近づくと道に迷って元来た場所へと戻るようになっています。ただ、善良な人々が助けを求めてやってきたときは、受け入れています。」
「国の四方は、北と南は海で東は砂漠、西は深い森になっていて、国の南にはいくつかの交流都市があり、他国の人はここにだけ入ることが出来きます。ちなみにこの城は、国の北方に位置しています。」
(と言うことは、ヘレス先生が住んでいる城が、北の外れになると言うことか。)
「周辺には人間の国が複数有り、そのほかにも人間以外の種族の国や、魔族の国もあり魔王も存在しています。我々も魔王を名乗っていますが、正確には魔法国王です。魔族については色々とやっかい事を起こすので、その対処は魔王の仕事になります。いずれユウトさんにもやってもらうことになるでしょう。」
(魔王の対処って、何するんだろう?ちょっと怖いな・・・)
ここまで話を聞いたところで、魔王パイトスが戻ってきた。
「ユウトの両親との話は終わった。結果は後のお楽しみじゃ。わはははは。」
(また何かいたずらでも思いついたのだろうか。この笑いは気になるな・・・)
「では、ここらでお開きにしましょう。続きはユウトさんの歓迎会で。」
セレス先生の言葉で、この場はお開きとなった。
アリーナがユウトに「昨日はすぐに寝てしまったから今日は気をつけて下さいね。」と言うと、みんなの笑いを誘った。
謁見の間を出るとアリーナがお城を案内してくれるというので、歓迎会までの間、ユウトはアリーナに城を案内してもらった。
最初に案内されたのは、図書館だった。
ここには世界中の図書が集められていて、日本の本もあると言うことだった。
中はとても広く、iあっ間でユウトが見た図書k何と比較しても数倍ありそうだった。
(しかし沢山あるなぁ。管理するのも大変そうだ。)
次に案内されたのは、娯楽室で、広さはかなりあった。
驚いたことに、日本のゲーム機なども置いてあり、学校の仲間達が遊んでいた。
そしてユウトの姿を見つけた仲間達、いや学友達がユウトの周りに集まってきた。
「パイトス様との謁見は終わったのかな。」
ヨシマサの問いかけに、ユウトは「さっき終わったところだよ。」と答えた。
「歓迎会まで、屋上に行こうか。遠くまで見渡せて景色は良いよ。」
ヨシマサが提案し、皆でそろって屋上に行くことになった。
屋上に上がると、周辺には高い建物はあまりなく、かなり遠くまで見ることが出来た。
(北に見えるのがこれから私が住む城だな。)
太陽が西の空を赤く染めて、きれいな夕焼けの中、北の空には、明るい星が一つ見え始めていた。
「アリーナ、あの星は何という名前なの?」
「あの星はセレスと名付けられた星で、日本の北極星のようなものです。」
「ここにも北極星があるのか。」
「日が暮れると、星々がすごくきれいに輝いているので、今度見に来ましょうね。」
アリーナに言われてユウトは黙ってうなずいた。
しばらくは周囲を眺めていたが、アークがそろそろ時間だというので、歓迎会に向かうことになった。
ユウトは会場に着くまでの間に全員から、今日は寝ないでねと声をかけられ、苦笑いをするしかなかった。
(そりゃそうだよね。昨日は速攻で寝ちゃったから。)
そして会場に着くと、ユウトは別室でしばらく待つように言われた。
別室のドアを開けて中に入ると、中には魔王パイトスがいた。
「ユウト、歓迎会が始まったらワシとともに入場じゃ。あ、後もう一人。」
すると魔王パイトスの後から現れたのは、セナだった。
「ユウトお兄様、お父様とお母様からこちらに住む許しをいただいてきました。これからのセナはずっとお兄様のそばに居たいと思います。」
「と言う事じゃ、兄弟仲良くな。」
(両親も根負けしたんだろうな。困り張った両親の顔が目に浮かぶようだ。)
「パイトス様、妹の面倒は私がきちんと見ます。」
「セナ、お前もユウト同様に、私を異世界の父と思い、困ったときは何でも相談しなさい。」
「有り難うございます。魔王様。」
「そういえば、ユウトよ。ワシの娘とはもう会っているね。」
「はい。テレサですね。」
「テレサは、セナと同い年で2歳年下じゃ。セナと一緒にかわいがってやってくれ。何なら嫁にしてくれても良いぞ。わはははは。」
(なんともよく笑う魔王様だな。しかし、いきなり娘を嫁にって・・・)
「嫁のことはともかく、仲良くやっちくつもりです。」
そして、歓迎会が始まり、3人は会場へと入っていった。